0002 窮地。猛攻。救助。のち、気絶(笑)


 ヤベぇ。かなりがっつりしっかりはっきりヤバいヤバいヤバいヤバすぎないか!?


 おいちょ、待って。ホント待って。せめて動けてからに、って待ったなんて野生動物に利くわけねえじゃん、自分バカなの? どうしよう。なになに、諦めてくたばれと?


 そう簡単に自分人生諦めて堪るか! っていう意気込みは無駄に立派だが実際は、超絶窮地に変わりない。なんで、こんな目に……? 自分がいったいなにをしたと言う?


 こんなわけわかんない状況で。わけわからない死に方ってありか? ありえるの?


 囲まれているのか微細な獣たちの足音が痛い体に地味に響く。あだだだだ……っ。


 マジでなんなんだよ。目覚めました。痛いです。獣がでました。喰われそうですってこれはいったいなんの罰ゲーム的人生? ふざけんな、廃れろ、そんな呪われた人生!


「?」


 さて、あとはがぶりと来るのだろうか。そう思って目を閉じかけた自分だがふと、なにやら騒がしいことに気づく。獣たちの悲鳴があがり、逃げ惑う足音が聞こえ、響く。


 あいだだだっ! だから響くっつの! 痛いんだっつーの! 畜生いったいなんなんだよ!? で、閉じかけた目を一生懸命開けると視界に火の玉が見えました。……は?


 火、火の、玉? ……ギャグ妄想か、自分? とうとう幻覚症状がでてきたの? だって火の玉なんてそんな、ははは、RPGゲームの魔法じゃないんだぞ。……えっと。


 ここがどこだかわからないので適当ほざけないが、少なくとも現代日本じゃない。


 野犬はいても火の玉は実在しない。うん!


「勇みし命を糧に、燃えろ! 《火球ファイアーボール》!」


 あるぇー? なんだろう。力いっぱい否定したそばからなんか聞こえてきたぞー?


 相当よくできた幻デスね。これってば。女の子の声が燃えろだのファイアーボールだのと言っているのが聞こえてきましたですよ? ……んんん? 女の、子? ひとが?


 ひとがいるのか? てか、火の玉があっちゃこっちゃ飛びまくってんの危ないよ!


 いや、自分には当たりそうにないがこれかなりの猛攻じゃねえ? とか自分どうでもいいことで思考にぼっとんしている間に獣たちは分が悪いと察してか逃げだしていく。


 火の玉の襲来からしばらくして獣の気配が完全に遠退いていき、しん、と静かになったんだが、えっとたった今、目の前で起きた超常現象をどう整理したものでしょうか?


 自分が正しく、マジで呆けていると足音が駆けて近くに寄ってきたのがわかった。


 遠かったなにか、薄橙の棒二本が交互に近づいてきて自分の眼前で止まった時、それがひとの足だと脳が処理を済ませた。遅っ! どんだけ視覚情報処理に時間が要る!?


「だ、大丈夫、ですか?」


「ぁ、あぅ、は、がぁ……っ」


「あ、の、む、む無理しないでください」


「――はっ、は、ぁぇあ……」


 必死で喋ろうとするのに声がでない。肺は膨らむのに喉が、声帯が震えないのか?


 女の子の声は無理しないで、と言ってくれるが無理とか無理じゃないとかではない問題だろこれ? だってさ、なにが起こったってんだよって話じゃん? ねえ、ねえ!?


 てか、それ以前に大丈夫か訊くなら助け起こしてくれてもいいんじゃないかなー?


 なして硬い岩肌の上に放置? なに、警戒してんの自分のことを? あっはは、なにそれどういうこと? 自分なんかより火の玉撃ちまくっていた君の方がよほど危ない!


「ど、どうしよう……」


 ああ、はい。自分も同意だその台詞。本当にどうしたらいいんだよ、なんなのこの状況ってば。誰かー。事情のわかる誰か~、どうか頼むよ。ぷりーずへるぷみー、です。


 あいや、この際、贅沢は言わない。これ一個だけでも教えてくれ。自分は、誰だ?


「なにをしている、アイシア」


「黒さん! よかった、助けてくださいっ」


 くろさん? なにそれクロワッサン?


 いやいや。古すぎるボケだ。って、ちょっと待って待って。あいしあ、ってのは女の子の名前だよね? つまりなんだ? この、自分を助けてくれたコは、「あいしあ」?


 心の底からほっとしたようなあいしあの声に続いて聞こえてきたのはかなり重量があるクセにそれを感じさせない足取りで近づいてきた誰かの音。多分だけど、くろさん?


 黒い靴が見えて襟を誰かが掴んだ、と思ったら万力で引っ張りあげられ吊られた。


 ぐえげっ、喉、首が絞まっ、てるっ!?


 自分が絞首刑ってこんなん? だのと平和なのか物騒なのかよぉわからんことを考えていると滲む視界にそのひとが現れた。黒。ひたすら黒い誰かは無言だったが強い視線を感じた、ような気がするようなそうでもないような……あ、いかん。意識が、遠退く。


 どこかからかさらに騒動が聞こえてきたっぽいけどなんかもう、ダメだ。意識が保てない。沈む。泥のように、鉛のように、ずーん、とじぃーんと落ちていく感覚だった。


 で、漫画のようにかっくし気絶できないらしく静かに瞼がおりていくのを感じる。


 薄暗がりが暗闇になって闇になって真っ暗闇になって無になっていくのがわかる。


 喧騒が、騒ぎが、声が、音がどこか遠い。


 すべてが消えていくようだったが――。


「……」


 くろさん、という誰かの無言だけはなぜか最後まで自分の意識に残っていていつまでも自分を見つめているのがわかる。ああ、でももういいか。眠れるなら、死んだって。


 永眠だっていいや。とか思った瞬間、体がぶらぶら揺れることをやめてもといなにかに寝かされて沁みまくるナニカをぶっかけられた。皮膚の上を中を疾走する激痛上塗る激痛はだが遠くて、まるで他人事のようで。でも、やっと、そこで、自分は気絶できた。


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