勇者見習いな自分なのに初期ジョブは……駄犬?

神無(シンム)

〇章 すべてのはじまり

なに、この変な事態?

0001 誰だ、自分を、よんだのは……?


 どこかで、どこかからか呼ばれた。不意にそんなことを考えた。思った。呼びかけられたような気がした。でも、そこには誰もいなくてそのまま、闇の中へ沈んでいった。


「……ゥ、ぁ……――っ」


 ずっと闇の中に在ると思っていた自分の意識が急速に覚めていき、持ちあげられるような感覚があって。なんだ、変な夢を見たと最初は思った。でも、なにかがおかしい。


 体が、痛い。痛くて、熱くて、そしてやっぱり全身焼けるようで、千切れそうに痛くてそれを声にだそうと思うのに声すらもうまくだせない、だなんてわけわかんない現状にわかっていたけど首を傾げることもできない。遠く、陽の暖かさを感じるんだが……。


 ここはどこだ。陽当たりのいいどこかなんだろうがなにがどうしてそこにいると?


 誰かに助けを、と思うけど、誰に? と、正当な突っ込みができた。なぜ正当かというとどういうわけか自分自身の名前が、過去が思いだせないからだ。なんで現状に陥ったというの以前の問題だった。今の今までなにをしていたのか、それすら思いだせない。


 とりあえず、自分が誰なのか。どうしてどこか知れないどこかにいるのか。なんで全身痛い痛くて痛すぎて痛いのかわからない。え、っとどうしよう? どうしたらいい?


 体は力を入れなくても崩壊しそうなくらい痛いんだけど、それが、体の下にあるナニカがひんやりしていて体の余分な熱を適度に取っていっている、みたいなような気も。


 このごつごつとした感じ、岩、かな? だんだん意識がはっきりしてきたようだ。


 そしてだからこそわからない。自分は誰だ? どうして、岩場に転がっている? なんだろう? 喧嘩でもして袋にされて岩の上に放置ぷれいおぅけーされたとでも……?


 痛む体。でも呼吸は正常に、ちょっと体の奥に響いたけどでも息はできる。冷たい空気はだが妙に青臭い。こう、なんというか緑のにおい? というやつだろうか。噎せ返るほどでもないがちょっと、ずっと嗅ぎ続けるにはきっついなあ、と思うようなにおい。


 と、現状に文句をつけたせいか体の節々どころかありとあらゆる箇所が尋常じゃなく痛んだ。まるで「お仕置きよ!」とでも誰ぞかが言っている。そんなアホを考えたよ。


 ……って、そんな場合じゃない。マジでどこだよ、ここ。あとついでに、ついでというか本題にすべきことで自分は誰でなにが起こった? 起こっている? 起きるのだ?


 なにかの予兆か? とか思っていると体の痛みがさらに激しいものに変わりはじめたといいますか、本格的に痛みだした、のか? え、さっきまでの予行演習(?)なの?


 擬音をつけるにビキビキ、ベキベキ、ビシビシといったふう本当アレ、某有名なブロック玩具でできた人形が崩壊していく前の、直前の、崩れる一歩手前な音が幻聴で聞こえたように思う。……妄想? いやいやいやいや。これほどの痛みが幻とか逆に嘘だろ。


 そう思いたいが、思うのだが、どうしてか今も過去もなにをしていたのか思いだせない。ただ、誰かに呼ばれたような……。そんな曖昧なことを覚えている。かろうじて、にはなるが。だけど呼んだ誰かしらはここにいない。そればかりか全身ボロボロってさ。


 いったいなんの、どんな罰ゲーム? なんだってんだ、俺、僕、私……ええいっわけわからんがとにかく自分がなにをしたと言うんだっ。や、なにが起こった、になるか?


 えっと、とりあえずちょこっとだけ動いてみようかな、痛いけど。頑張れ、自分!


 そっと、目を開ける。目の前を黒光りしていて足がいっぱい生えた蟲っぽいものが横切っていった。下は緑。向こうには暗がりが広がっていて白い筋が差し込んでい、る?


 深閑とした大自然の只中。目の前を這っていく蟲の足を無意味無駄に数えてみる。


 ひい、ふう、みい、よ……と続けかけて放りだす。くだらなさに、アホすぎる時間の浪費に気づいてしまって。で、自分で自分のことに確信が持てないが、無駄に根性はある臭いっつーか? よくわからん意気込みで痛む体に鞭打とう、として即行諦めました。


 自分虐めの趣味がないのを痛感した以上に痛すぎてマッハで諦めた、が正しいな。


 いだだだだだっ。激痛相まって不気味な笑いがでそうだが、声は変わらず不明瞭な音が数個漏れるだけで明確な音にはならない。しかし、うがーっ! 痛い痛い痛いーっ!


 アレだね。痛すぎると笑えるってのは本当だった。どこで聞いたんだか忘れたが。


 なので、キモい笑いや奇声など自主規制して代わりに思考の海に沈み込んでみた。


「……ぐ、じ、ぶんっ、は」


 なんとか吐きだした音数個。でもこれだけじゃあなんにもならな……あれ? これってばどこの言葉だ? おかしいな。自分が知っている言葉じゃないことは確実だけど。


 自分が知っている自分言語は……日本語。あ、思いだしてきたのかな? でも、肝心のどうして自分が誰でどういう状況なんだ、というのが思いだせないのはなぜにです?


 ここはどこだ? なぜ体中痛い? そして、最も大きな問題はこれ。自分は誰だ?


 思考の海に沈んだはいいが、なんにもならないという不易っぷりにげっそりして現実に目を向けるのに戻る。とにかく、だ。ここがどこであるにせよ、動かねばなるまい。


 このまま動けずにいては飢えか痛みか体温調節ができずに、もしくはなにかに襲われて死ぬかもしれんだろう? なにか、ってなんだよ、って話だがなにかはなにか、だ!


 ……ちょ、待て。不穏なことを考えるな自分。なにかがもしものまさかで肉食の獣だったらどうすんのっ!? 死ぬ、死んじゃう! 動けない人間プラス猛獣って餌食決定じゃん! ヤダ、それは悲惨な死に方の中でもかなり上位に入る一番いやなやつぅうう!


 生きたまま喰われて死んで後日尻の穴からぷっとでるってなにそれそのいやなの。


 いかんいかんです。それは洒落にな――。


「ウゥウウウウウウ、グルルルルッ」


「……ぇ?」


「ウオォオオオオオーン!!」


 あれ。ちょっともしもし? まさかのもしもで現実になっちゃった!? え、どうすんのどうしたらいいのどうしようもなくない!? だって、自分まだ全然動けないぞ?


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