第35話 気の置けない妹
――明日の配信はお休みです。スケジュールはまた改めて後日連絡します。よろしくお願いします。
夢喰ナイトメアのツブヤイターいやエッキスから通知が来た。
俺はつい、綾森さんに連絡をしてしまった。
――大丈夫、心配しないで。ちょっと疲れが出ただけだから。
大丈夫と言われてしまえば、俺は大人しく引き下がるしかない。今までは。
「説得する方法を考えないとな。普通に言っても、断られるだろうし」
俺は、考える人ばりに考えた。う~んと顎に手を乗せて。
流石に、これから先方のハウスへ乗り込むわけにはいかんか。特攻じゃーっ!
「およ? 兄者の鼻息荒いのじゃ、どうしたのぞよ?」
リビングのソファ。
梨央はガリガリ君を食べながら、初夏のモテテクが謳い文句な雑誌を熱心に熟読中。
「別に、いきり立っておらんが。妹者よ」
「またまたー、冗談は顔だけにしてくんなましっ」
「顔は特筆すべき点がないでしょうが」
「あっ、ごめん。没個性悩んでたね……ほんと、ごめん」
ガチなトーンで謝罪やめろ。涙出ちゃうでしょ。
俺は妹の隣に座って、漠然とテレビを眺める。通販番組で寝具を紹介していた。
人間工学に基づいた安眠枕が9800円っ! 夜のお供にぜひ、お電話を!
よ、夜のお供!? 興奮して夜も眠れねー! ほんとは、枕なしで爆睡しちゃうぜ。
「親愛なるおにーたま。何か悩んでおられるのかい?」
「そう見えるのか、腐れ縁の妹ちゃん」
梨央は、俺の膝に頭を乗せるとゴロゴロ回り始めた。猫はもっと可愛いぞ。
「シスターアイは、真実を映す鏡なりや。汝は我、我は汝……」
「違うだろ」
「確かに! あたしはあたし、あなたはあなた」
うんうんと頷いた、梨央。当たり前のことを自慢げに語れちゃって羨ましい。
「もしや、あかねちゃんと懇ろになりたいのかね?」
「え?」
「みなまで言うなっ。分かってるから! けっして実らぬ恋だとしても、ギャルに欲情した兄貴を止められない無力なあたしを許しておくれ。よよよ~」
「は?」
シンプルに、イラッ☆
さりとて、ここで怒りを抑えられない程度ではこやつと兄妹を継続できないさ。
「そうだな、あかねちゃんが真の妹になってくれたら全部丸く収まるな」
「……っ!?」
「いっぺん、交換してもろて」
「コンチクショー、裏切り者っ! パツキンギャルがナンボのもんじゃーっ! あのマブ女、いてこましたるさかい。覚悟するんやで」
ナニワの血が騒ぐらしい生粋の関東人は、大層ご立腹であられた。
「お前を見てると、小難しく考えるのがバカらしくなるね」
「なぬ?」
「良い意味だよ。おかげで頭の体操になったし、思考が解れますたわー」
「それな! へへ、策略通りだぜっ。あたしの協力はここまでだよん。気張れよ、獏」
なぜかイケメンボイスな梨央、俺が何をしたいか存じ上げないだろうに。
否、そんな事情めいたものは些事かもしれない。むしろ、特に考えてない可能性大。
「妹者よ。たまには役に立つじゃないか、サンキュー」
「兄者。いつも、やろ? いざ大手を振ってまかり通れ、決戦の地へ――っ!」
「あ、盛り上がってるとこ悪いけど今日は自宅にこもるよ? 俺、コモラーなんで」
「うそーん!?」
コモリストの在宅は長い。休日の真理である。
ソファからズッコケたリアクション芸人に、なんでやねんとツッコミを入れておく。
加えて、俺は別のプランに思考を割き始めた。
仕方がない、彼奴に協力を仰ごう。渋々嫌々だけれど、月曜に相談します。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます