第33話 友人、かく語りき

 綾森さんに、ぺこりと頭を下げられてしまった。


「ごめんなさい、今日は忙しくて都合が合わないの」

「明日はどう?」

「明日も、その、予定が。打ち合わせとか、スケジュールが埋まってるわ」


 彼女が廊下を歩く場面を狙って、俺は慎重かつ大胆に話しかけたのだが……

 にべもなく、断られてしまった。遠回しの拒絶かい? ちょっぴり悲しいね。

 落胆がてら、黒髪美人の背中を寂しく見つめるばかり。


「やーい、フラれてやんの。アイドル様に抜け駆けキメようとするからだぜ、ざまあっ!」


 馴れ馴れしく肩に手を回すは、友人A・江藤。

 俺は深いため息を吐くや、淡々と教室へ戻ろうとした。


「待て、コラ! 無視すなーっ! 俺様、塩対応で泣いちゃうだろうがッ」

「しょっぱいなら、砂糖でも舐めときなさい」

「カァー、友達少ないの! そういうところだぞ、牡羊っ」

「へいへい」


 江藤のうざ絡みを、これスクールハラスメントですよね? と論破する直前。


「獏くん、綾森さんとケンカしたのかい?」


 ずっと見守る立場を崩さなかった友人B・小泉が薄い笑みで尋ねた。


「ケンカは、してない。すれ違い? いや、深い仲気取りは失礼だし、何だろうね」

「お互い、視線を合わせなかったのは気まずかったのかな?」

「かもな。価値観の相違が露呈して、本来の距離感へ強制力が働いた。みたいな?」


 言語化が難しい。おそらく、以前の若干揉めた感じが尾を引いてるのだろう。

 少なくとも、俺は綾森さんに嫌な感情を持っていない。俺が悪いで先方の溜飲が下がるのであれば、いくらでも初手土下座する所存でありまして。


「それは止めた方がいいよ。誠意なき謝罪なんて、余計に相手を怒らせるだけだし。事情は深く知らないけどさ、そもそも彼女……別に獏くんに怒りを向けた様子じゃないかなあ。むしろ、アレは自分へ――」

「うぉぉおおおいいいっっ! 俺様を無視して、漠然とした会話するんじゃねーっての! 牡羊がありのままの気持ちを、玉砕覚悟で告白すればいんだよお! ありの~、ままで~」


 急に歌うよ。チョイスが古すぎる。昨日、デズニーチャンネルで視聴してハマったとか。

 やれやれと肩をすくめた、小泉。


「はは、江藤くんらしいや。大切なものは、一途な気持ち? それとも、単純バカ?」

「どういう意味じゃ、この似非イケメン! 綺麗な顔しやがって、羨ましいぞこの野郎ッ」

「ちょ、苦しっ。たんまタンマ! 参った、降参だよ~」


 江藤が顎をしゃくらせつつ、小泉にヘッドロックをかましていく。

 男子の友情って美しいなと思いました。あ、じゃれ合うなら他所でやってください。

 俺が付き合いきれんと教室へさっさと戻ろうとしたタイミング。


「少しは頼れよな。どうせ、オメーに友人関係の問題なんぞ手に余り過ぎる。どだい、インポッシブルッ」

「八方ふさがりなら、愚痴くらい聞かせてよ。僕は人より、他者の感情を察するのが得意だからさ。特に女子の気持ちはね」


 お前ら、何だかんだ俺の心配をしていたのか。良い奴らだぜ、まったく。

 まるで、友人じゃないか。いや、友達だよね。でも、フレンドの定義とは一体――

 朋友ラビリンスに取り込まれる寸前、思いきり頬を叩いた俺。


「一人じゃないと分かれば、十分だ。相手にも、それを伝えてやらないと」


 俺は、やれやれと肩をすくめた。

 ラブコメ主人公ならば、奮起してヒロインに挑むと勝ち確である。

 さりとて、二人の関係性を改めて思い返してみよう。


 はたして、好感度パラメータを上昇させることが目的だったのか? いや、違う。

 推しは、推せるときに推せ!

 江藤のドヤ顔が視界に入ってしまい、不承不承想起させられてしまった。

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