第27話 ストリートスナップ
あかねちゃんは写真うつりが良い。
ビジュアルの際立ちはもちろん、魅せ方の表現が上手かった。
素人の俺に撮られたんじゃない、彼女自ら撮らせているのだ。
読モを続けると、身につく術らしい。え、ファッションモデルって控室で新人イジメが仕事じゃないの? 美人へ妬み嫉みの偏見やめなさい。
きょとん顔でストローに口を付ける姿、頬っぺたにドリンクを寄せて冷たぁ~いの姿、ボトルの底に光を当てて面白そうに覗き込む姿、店舗の看板にヨンジーガムロを乗せて談笑する姿など。ちゃっちゃとパパっと手際よく、宣材写真が更新されていく。
動画の方は、えくぼを強調させた可愛い顔で真正面チューチュー一気飲み……はせず、三分の一残しではあはあと盛大な息継ぎ。勢いそのまま、照れくさそうに言い訳を添えて。
「これさ、ガチ理解! ゆっくり味わった方が絶対オススメ! うち、天才かもっ」
とのこと。
……はい、オッケー。確認入りまぁーす。
「センパイ、可愛さ爆盛り余裕?」
「素材が良いので」
「それなっ」
シャッターチャンスは逃さない。その表情、いただきっ。
あかねちゃんは店長に確認を取るや、トントン拍子で写真や動画を選んでいく。
「こちらとこちら……あとはバリエーションのバランスを考えて最後の写真も。かしこまりました。大丈夫です。一度持ち帰ってから、本日中にファイル添付で送信します。はい、ありがとうございました! またよろしくお願いします! あ、最後にヨンジーガムロ二つください。美味しくて気に入っちゃって……え、サービスでいいんですか? 店長さんの対応が良かったも、付け加えておきますね」
ギャルを卒業がてら、スーツ姿で仕事に奔走するあかねちゃんを幻視した。すっかり立派になっちゃって、もう妹ロールプレイは黒歴史だね。
後方腕組み兄貴面は黙って去るのみ。いざ、さらば。
俺がくるりと踵を返せば、肩に手をかけられて引き戻された。もう一周回れるドンッ。
「置き去りとか、ひどすぎなんですけど」
「外に長時間いて、身体が帰宅を求めていたんだ。あかねちゃんの成長した姿を見届けられて、兄モドキは満足さ。これが自立か」
「勝手に完結すんなしっ。一生うちの兄ピだから!」
金髪を揺らしながらグイグイ迫った花盛り(爆盛り)。
「遠慮、マジないから。梨央っちにできること、うちにもやればいいじゃん。てか、やれ」
「練習しときます」
「ぶっつけ本番余裕っしょ?」
陽キャの光が眩しく、陰キャは影もろとも消失しちゃう。
楊枝甘露を飲ませろとおっしゃるので、俺はギャルの口元へボトルを傾けた。
「ん~、あり寄りのあり。毎日飲んだら、肥えるの確定だわ~」
「あかねちゃん、めちゃくちゃ痩せてるぞ?」
「うち、全然ヤバいから。食べた瞬間、ソッコー太るし。むくみの奴はケジメ確定」
それは全人類、同じ法則で生きているのだが。否、ギャルの理屈こそ優先される。
モデルが太ってるアピール、やめへん? 明らかに体重と体脂肪の平均を下げたスマート勢、お米食べろ! 低血圧でフラフラするの、お辛いでしょうが!
「今日は兄ピとデートだし、チートデーってことで! ぎりセーフ」
「仕事じゃないの?」
「デートついでに仕事みたいな!?」
あかねちゃんがドヤ顔で胸を張った。
全然見てないけど、栄養を効率的に吸収したようで何よりです。ちょ待てよ! 毎日美味しいものを奢れば発育スイスイ――残金、380円。
畢竟、俺は滂沱の涙を流した。
「どったの? 顔クシャクシャにして?」
「資本主義が憎い……」
「ウケるし」
パツキンのギャルに頭を撫でられ、慰められた。悪くナッシング。
その後、歩きながらマンゴージュースを飲ませ合う羞恥プレイを強要された。これを平然と行える一軍メンバーって精神構造がダンチ。下々の想像以上にパリピは、偉大だなあ。
あかねちゃん、ついでとばかりにファッションモデルの仕事もこなす。
「あそこ、噴水前でスナップ写真よろ~」
指定されたブランドのコーデを着こなして、写真をSNSに上げる。
ショッピングモールのエントランスで一枚、フードコートのテラス席で一枚ポージング。撮影後、郵送してもらったサンプルは貰えるらしい。お着替えタイム、二回ありました。
俺も洋服代浮かせたい。ファッションに無頓着なのに出費がデカすぎるっピ。
丈夫なペーパーバッグで助かった。コーデ二セット入っても大丈夫。
「兄ピ~。放置プレイ? うち、切ないなぁ~」
やめなさい、他所のご家族が見てますよ! 金髪の美少女、控えめに言って目立つ。
プリキュアに夢中だった幼女先輩が、なにやってりゅこいつら? そんな侮蔑の眼差しを向けていた。すまん、まだ夢を抱くお年頃でいてくれ。
迷惑系に関わりたくない、もとい空気を読んで噴水前から捌けた皆々様方。ご協力、感謝します。我々も撮影が済み次第、テキパキと撤収する所存でありまして。
「はい、ポーズくださーい」
「うぇ~いッ」
今度の指定は、ストリートカジュアルのブランド。
モデルはグラフィックアートが目印なキャップを被り、オーバーサイズのロゴTとデニムのショートパンツを合わせ、マルチカラーなハイカットスニーカーを履いていた。
活発なギャル・あかねちゃんにたいそう似合っておりました。
カシャカシャカシャカシャッ! ローアングラー獏と名を馳せる勢いで連写中。
「視線、下げすぎっ。センパイ、脚フェチなん?」
ちょっと集中してるんで、白くてきめ細い脚線美などじっくり見分できません。むむ!
「爛漫花盛り、上から見るか下から見るか」
「欲しがりか! 仕方がねぇー、サービスしてあげるし」
いや、早く切り上げたいのだが? 憩いの場独占禁止法に抵触してるぞ。許可を取ったところで、職務にまい進する警備員がすでにスタンバイオーケー。
あかねちゃんのアゲポヨダブルピースをラストショットで締めくくった。
モデルを回収がてら、着替え用に借りた控室まで戻る途中のこと。
「今日は付き合ってくれてマジ感謝」
「あかねちゃんが楽しそうで何よりです」
「それな! 次は、もっと刺激的なデートキメるしかないっしょ?」
「これ以上はもう、体力的に限界なんや……」
JKの行動力、半端ないって。
いくらスタミナを鍛えようとも、オシャレやブームに費やす持久力で完敗を喫するのだ。
ヨンジーガムロ。お前だけが俺を甘やかしてくれる。今年、ぜってー流行れよ。
「このまま直帰上等。ほんとは気になるお店、四、五店巡りたかった的な?」
「俺に構わず、望みを叶えてくれ。行け、足手まといは置いていくんだッ」
そう言って、俺は可及的速やかに駅へ足を運んでいく。念願の帰宅だぜぇーっ!
フッ、気を遣わせる暇など与えないぞ。取り付く島もアイランド! どゆこと?
「ちょ、待つし!」
我が家を目指す競歩だけは自信があったにもかかわらず、止められた。
俺が他人に誇れる唯一の個性が……ぐすん。添い寝で安眠? あれは病気でしょ。
「うちも帰るから! 一緒にっ」
「あ、途中までだし解散の流れでも」
「ん? 最後まで一緒に帰るんですけど」
俺は、フクロウ並に首を傾げた。
あかねちゃんが、淡々と事実を語るかのごとく。
「兄妹は普通、同じ家に住んでるっしょ?」
お、おう。そりゃそうじゃ。ではなくて――
「うち、今日は兄ピのとこ泊まるけど? 梨央っちとママっちの許しは得た!」
そして、ドヤ顔である。
妹的なものがまた泊まりに来るってコト? ギャル襲来、リターンズ。
「また添い寝、付き合うし。兄ピと安眠でツヤ肌ゲットじゃん」
「その効果があるかは知らんな」
それにしても大胆ですぜ、こいつはぁア。俺は一向に構わんぞ!
とりま、梨央に相談しましょ。全然頼りにならないものの、聞かないよりマシか。
パツキンガールの鼻歌をBGMに、俺たちは仲良し兄妹よろしくスキップらんららん。
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