第20話 添い寝フレンド

 はいはい、知ってる天井。知ってる天井。

 天井で天丼とはこれ如何に? シシトウ抜きでー。

 朝6時。

 俺、起床。快眠でした。


「添い寝相手がいる。ハア、ヤッター。チコクセズニスムゾ」


 なぜか、妹ポジを希望したギャルのおかげ。世の中、不思議がいっぱい。

 雑味だらけな真の妹とは違い、お客様ゆえ丁寧に起こそう。


「目覚めなさい」

「ぴえ~ん……マジ卍……」

「はは、神ってる神ってる」


 意味は全く存じ上げない。古文よりギャル語の方がいと難しけり。

 目下、椿さんが俺の両腕を抱きこむ形で横になっていた。

 別に逃げやしないし、おさわりだってしませんぞ。本当はギャルの寝相に興味津々つつうらうらだが、それはここだけの秘密さ。えくぼは深淵、覗いてはならない。


「おにいちゃぁ~ん、もうあさぁ~?」

「妄想上の妹ムーブ。梨央に見習わせたい妹力だなあ」

「もうちょっと、もうちょっとだけだから、いっしょにねりゅ……」


 さきっちょだけ、さきっちょだけだから。

 我が怨敵がここにいれば、必ずそんな下ネタをぶっこんだに違いない。月曜の朝から茨鈴蘭養護教諭を連想してしまうなんて、やはり鬱曜日の登校は危険だよ。


「おにいちゃんとねるの、すき。きょうもまたいっしょ」

「ラノベのブラコンシスターみたいな真似しやがって! ぼんやり低血圧ってコト?」


 リアル妹がいるに妹プレイを強いられ、逆に冷静になっちゃったね逆に。

 ふむと頷いた、俺。


 椿さんの寝起きは然るに、幼児逆行かしら? 俗に言う、甘えんボーイ(ガール)。

 綾森さんの場合、その特徴は寝相の悪さだった。

 そう考えると、梨央の寝起きは普通じゃないか。普段が珍妙ゆえ? 確かに。


「覚醒しないとマズいですよ。黒歴史は塗り潰せない……っ!」


 こ、これは友達の話だがっ! 寝言で好きなクラスメイトの名前を――いや、よそう。お、俺じゃないけどさ! 匿名希望さんのトラウマがおぇぇえええーー。


「おにいちゃん、もっとあかねにしゅうちゅーして。りおちゃんばっか、ずるーい」

「あかねちゃんがちゃんと起きられたら、一番の妹だねー」

「にゅ~、がんばるー」


 そう言って、椿さんはうとうとねんねんころり――


「お兄、楽しそうじゃん。あたしを除け者にしてさ」


 気付けば、ベッドで身を寄せ合う俺たちを見下ろす者がいた。

 牡羊梨央。真の妹である。大変愉快そうな面持ちで。


「まさか、あたしの親友に手を出すなんてサイテー! この所業、万死に値するぜ」

「ち、違うんだ! 俺に、女子を連れ込む度胸や魅力があるわけないだろう!?」

「確かに! 納☆得」


 そして、和解である。

 言葉なんて飾りですよ。目を合わせば伝わる兄妹愛って素晴らしいと思いました。ケッ。

 カクガクシカジカっと、説明。


「なるほど、把握。あかねちゃんが羨む関係性かー。つまり、獏の役得は全てあたしのおかげ。感涙に咽び、毎日崇め奉ることこの上なし? おやつを毎日献上するのじゃ!」

「我欲が肥大化したモンスターは討伐対象だぞ」

「フッ、今回だけは勘弁してやろう。運の良い兄者め」


 なぜか、嗜虐的な笑みを漏らした梨央。

 我々は、雰囲気とノリが重視されるのだ。


「この子が獏を気に入ったのは意外かも。陰と陽、闇と光。オタクとギャルの対称性」

「その子は俺を気に入ったのではなく、きみの兄だからでしょ」

「え、ガチボケ? どっちも同じじゃろ」

「……」


 親友が持ってるのに、自分は持っていない。

 それを許容できない性格もあり得る。俺は共感できないよ、親友いないからね。


「オメーは、表面と本質のコントラストでも学んでな」


 ギャルの拘束をかいくぐり、俺は欧米かぶれよろしく両手を広げた。

 ぐぬぬと煽り耐性が低い梨央が。


「獏のくせに小癪や……親友をねぶりなぶられたってママに言いつけてやる!」

「ママの威を借りる妹やめろ。初手、二人ともゲンコツ落とされるぞ」

「子らへ、平等に愛を注ぐ母親の鑑ですな」


 やはり、暴力……っ! 暴力は全てを解決する!

 基本放任主義だが、いざとなれば力こそパワー。それが牡羊家の教育方針。


「おにいちゃあ~ん、だっこしてぇ~」


 とりあえず、椿さんの頭が働き始めた時の反応が楽しみだね。

 親友に幼児退行を観察された気分はどうだい? 夢見心地、最早これまで。

 これがギャルのバブみというやつか。うーん、審議微妙。


「兄者、あかねちゃんに手を出すのは目をつぶろう。じゃが、あたしが部活で疲れた時は添い寝を優先するように」

「妹者。兄の身体目当てとはなかなかどうして破廉恥な」

「コレ、あたしの枕だから。レンタルなら、受け付けてやろうとも」


 ギャルの金髪を撫でる梨央は、慈しみながらも対抗心を燃やすのであった。

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