第4話 佐々木祥子

 駅のホームで待つ10分は、どうしてこんなにも長いのだろうか?

 間もなく発車しまぁ~すとアナウンスが響いた。階段を駆け上がった。ホームに着いた瞬間、ドアが閉まった。息を荒げて必死な姿を車内の人に目撃され、恥ずかしくなった。


 多分、年を重ねるほどきつい瞬間である。大人になるって、悲しいなあ。

 文字通り、大人の階段を上ってしまった俺。手持無沙汰ゆえ、自販機で割高なエナジードリンクを購入。はよ、翼を授けてくれ。学校まで飛んでいきたい。


「あぁ~、明日の元気を前借りだぜぇ……」


 シュワシュワな人工甘味は嫌いじゃない。毎日飲んだら、手放せなくなるよ。

 徐に周囲を見渡せば、ほとんどがスマホの画面を覗いている。首の痛みと眼精疲労が現代病と言われる光景になるほどと唸った。


 集団心理に逆らえない日本人として、俺も同じポーズを構えたちょうどその時。

 エスカレーターからゆっくりと顔見知りが現れた。


「……」


 丸眼鏡に陽光をキラリと反射させながら、英単語ブックに視線を落とした優等生。長い髪を2本の三つ編みに束ねるや、尻尾のごとくピョコっと揺らしていた。

 幼稚園からの知り合い、佐々木祥子だ。

 佐々木が俺の視線を感じ取ったらしい。顔を上げて、その正体を確認すれば――


「……」


 ムッと表情を強張らせると、真横を通り過ぎていく。

 過去は振り返らないものと言わんばかりに、スタスタとホームの奥へ向かった佐々木。


「清々しいほどの無視っ」


 エナジードリンク以上に目が覚める扱いに、俺は逆に感心しちゃったね逆に。

 この通り、たとえ幼稚園から旧知とはいえ別に親しいわけじゃない。何度も同じクラスだったはずだが、小学校高学年を境に関係性は疎遠である。


 ラブコメなら、幼馴染はヒロインでしょ。俺が主人公なら、ほんまは好きなんやろ?

 などと思い上がり甚だしい虚像を打ち払って、俺は強く生きていきます。ぐすん。

 女子にモテたいならば、魅力的な人間になる努力をしなさいと思いました。


「あ~、どこにでもいるようなごくごく普通な平凡アピールして、美少女にヨイショされてぇ~」


 こりゃダメだ。急募、主人公補正。

 ガックリと肩を落としたうちに、幼馴染がすでに遠い彼方へ。

 手の届かない距離を目指せるほど、俺は志高い人間じゃないみたい。

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