05-44.グローリーシステム
“モーニング・グローリー”の突撃を何とか受け止めた“ダリア”だけど、圧倒的なパワーを受けきれずに機体がふわりと浮く。
操縦桿を押し込んでさらに圧を加えると“ダリア”はまるで重さなど無いかのように軽々と後退していく。
インカムからガーランドが驚いたかのような声が聞こえてくる。ここしかない! 一気に畳み掛ける。
“ダリア”のセイバーを弾いて懐に飛び込む。FXブレイドを横薙ぎに一閃。ガーランドは巧みに機体を操りそれを回避。しかし外部装甲を掠めた刃は確実に裂傷を与えた。最強クラスの装甲、ルナティック合金がまるでバターのように易々と切れる。
『……っ!?』
焦っている、あの〝聖騎士〟が。その心の隙に付け込みたい気持ちを冷静に押し込める。焦るな。浮き足立つな。どんな感情も要らない。ただガーランドの動きを見るんだ。
ガーランドは至近距離から頭部60mmバルカンを斉射。牽制するためだ。でもそれを僕は防御しない。ミスリル合金はそんな物では傷ひとつつかない事を僕は知っていた。人間の目に当たる場所にあるメインカメラのレンズさえもミスリル合金製。例えそこに当たったとしてもなんのダメージにもならない。そう、言ってしまえば豆鉄砲以下だ。構わず前進を続ける。
『くっ……いけっ、
僕の攻めが脅威に思えたのか、ガーランドは“ダリア”のリアスカートに格納されている遠隔操作兵器【ファング】を展開。6つのストライクビットが不規則な軌道を描いて“モーニング・グローリー”にせまる。
“ダリア”のストライクビット、ファングは個々に搭載されたフォトンジェネレーターからビームを射出するタイプだったはずだ。僕たちが扱うPKメタルとは別物だけどコンセプトは同じ。やはり奴も念動力者だったか。
僕の攻撃をセイバーで防ぎながらも巧みにファングを操作し形勢逆転を狙う。複数のファングから放たれたフォトンビームが“モーニング・グローリー”を襲う。
次の瞬間、僕を呼ぶリオの声が聞こえた気がした。でも、大丈夫。
『なに!? 直撃のはずだ!』
“モーニング・グローリー”を襲ったはずのフォトンビームは装甲に触れた瞬間に収束を解かれて粒子の塵となった。“モーニング・グローリー”の装甲は無傷。そう、そんな小さな出力ではこのミスリル合金製の装甲は破れない。
「効かないんだよ、そんなもの!」
『フォトンフィールド……? いや、装甲が吸っているのか!?』
恐らく“ダリア”の主兵装のひとつであるファングを無効化されたガーランドの声はやはり焦燥が含まれていた。
パイロットとしての技量、戦場で過ぎる直感の鋭さは間違いなくガーランドに軍配が上がるだろう。でも、それを無視出来るほどのポテンシャルをこの“モーニング・グローリー”は秘めている。
圧倒的劣性に立たされたガーランドは僕の攻撃をなんとか凌ぎながら自らの思想を語る。
レイズを主とした新国家建国の理由、それを為すための軍隊の編成。国際連合に対抗するためにより強力な兵士を育成する必要があったという事。その為にはカスタマイザーが必要不可欠だったという事。
『国際連合のやり方では弱者が虐げられるだけだ! お前は国で何を見てきた!?』
「なに?」
『国際連合は数々の国を飲み込んで膨張した資産を何に費やしてきた? 弱者を救うなどと
『国を守る為には確かに力が必要だ。しかし無能な権利者が蔓延る今の国際連合は存続する価値はない!』
「その為に新国家を立ち上げて戦争をするというのか、罪のない人間を巻き込んで!」
『馬鹿な、この世に罪のない人間などいない! 過剰に権力を振りかざすゴミ共に目を覚まさせる。国際連合を飲み込むのがネオ・レイズの目的ではない』
世界の均衡を保つために、肥大化し、世界の覇権を握りつつある国際連合を叩く為にネオ・レイズを立ち上げた。
国際連合は国家を吸収、条約を結び結束する事で世界の均衡を保とうとしてきた。連合を大きくして飲み込むことにより経済的に支え合い、発展してきた。
しかし反面、連合に所属していない国家に対しては厳しい経済制裁を課す事も多かった。
全てを飲み込もうとする国際連合に意を唱えたのがネオ・レイズの前身、北欧諸国連合レイズだ。
「だからって……!」
『だから罪のない人を巻き込むなと!? 犠牲無くして平和など得られない! 綺麗事ばかり並べて無責任な理想だけで人を殺すのか、〝蒼星〟!!』
「……」
理想だけ。確かにそうかも知れない。
僕はリオと、仲間と幸せに暮らせる世界にしか興味がない。その世界とは本当に小さな範囲を指す言葉だ。僕がどれだけ努力をして戦いをなくそうと努力しても、絶対に無くならないし、それを得る為に人がたくさん死ぬ。
そう、だから強大な力、この場合は国際連合に対抗するために同じ程度の、そうでなくても脅威になり得る力を持つことにより強国を牽制できる。それにより世界の平和を保とうとしたのがガーランドだ。
僕もガーランドも自らが望む平和のために、目的の為に人を犠牲にしてきた。目的は違っても手段はそう変わらなかった。奴が語る理想に僕は妙に納得してしまっていた。
僕が国際連合で見てきたもの。充実した装備に潤沢な資金。一見正義の集団に見える軍隊の中でも非人道的な手段で生み出される狂戦士たち。奪われていく命、代わりに手に入れる資金と領土、犠牲の上に成り立つ仮初の平和。
そう、それは多数の犠牲の上に得ようとしているリオとの時間となんら代わりはない。
僕とガーランドがやっている事は、そう、大差は無い。見る角度を変えたら僕もガーランドと同じか、それ以上の悪人に見えるかも知れない。
でも、それでも僕は……
『理想のために人を踏み台にしている。お前と私は同類だ!』
「それでも僕は……!!」
『――』
刹那、“ダリア”の脚部装甲が展開。小口径のミサイルが多数射出される。チェイサーミサイル。そう僕は瞬間的に判断し、反射的に“ダリア”から距離を取り、AIに命令を下していた。
「リミッター解除、モードシフト!」
『
AIがそう応えると360°モニターに【GLORY system ready】と表示される。OSがフル回転し、超高速で情報処理を行う。機体各所に潜ませたPKメタルにエネルギーが供給されて“モーニング・グローリー”の半透明の装甲がほのかに輝き、次の瞬間には瞬くほど光を放った。機体出力が更に上昇。機体本体自体が念動力の送受信器となり、オールレンジ攻撃の準備が整った。AIが無機質な声で告げる。
『ready』
「【レゼル】射出!!」
『
僕の合図で“モーニング・グローリー”の背面に取り付けられた4枚のストライクビット【レゼル】が射出された。
鳥の羽のような形状の刃が機体を守るように旋回して僕の命令を待つ。
「いけっ、レゼル!!」
その言葉をきっかけに4枚の刃羽の切先が“ダリア”に、迫り来る多数のチェイサーミサイルに向き、神速で飛翔していった。
空中を縦横無尽に飛び回ったレゼルは、迫るチェイサーミサイルを全て切り払う。切断された弾頭は爆発し、さらに飛翔するミサイルを巻き込み炎上する。
黒煙が発生し、視界が悪くなる。でも、僕には全てが見えていた。
『ーー』
4枚の羽に僕の意思を乗せる。そして彼らはそれに応える。黒煙から飛び出したレゼルが“ダリア”に直撃。ミスリル合金の刃がルナティック合金の装甲を切り裂き、内部機関を容赦なく傷つける。
『……がっ!?』
ガーランドのくぐもった声。それでも奴は、ガーランドは絞り出すように言う。
『私を、倒しても……戦争は、戦いは終わらない……それでもお前は……』
「……それでも構わない。僕は……」
『……ふっ、お前ならーー』
ガーランドの最期の言葉がいい終わる前に“ダリア”は爆発を起こした。血のような紅い装甲が飛散し、オイルが吹き出して引火し火柱が昇る。
あっけない最期だった。僕は立ち上る炎に背を向けて言う。
「……僕はリオを死んでも守り抜く。今度は絶対に、だ」
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