05-43.PK-LINKフルコンタクト


『目標捕捉、距離8000』

「このまま行く!」

了解ラジャ……警告、G 過多によりパイロットの生命維持に支障をきたす恐れあり』


 落下速度に加えて“モーニング・グローリー”の驚異的な加速。もはや機体速度は見たことのない値に達している。MKモビルナイトの内部には様々な荷重からパイロットを守るための機能が搭載されているけれど、この速度だ、“モーニング・グローリー”の機体は問題無いにしても、その内部にいるパイロットに危険が及ぶレベルになってしまっているというのか。でもまだ大丈夫。


 僕は現状維持をAIに命じて、近づく地表に目を凝らす。目標地点を現すカーソルがモニターに表示されている。あそこにリオがいるはず。


 地表との距離5000。そこでようやく味方識別信号を受信する。他のMKモビルナイトでは到底受信不可能な距離だ。


「……リオ!!」


 光学センサーをズームアップ。“ダリア”と対峙する“シャムロック”が見えた。その後ろには大破した“ティンバーウルフ”。それを守るように“ブルーガーネット・リバイヴ”が寄り添っている。


 あの日の記憶が蘇る。そう、あの日僕はああしてリオから守られていた。なにも出来ずにひたすらに自分の無力さを痛感し、ただただ自分の不甲斐なさを呪った。

 

『コータ、愛してる』


 いつかの声が再び僕の耳に届く。その言葉を最後にリオは命を落とした。僕を、なんの力もない僕を守って死んでいった。

 でもなんの因果か、タイムリープしてこの世界に引き戻された。5年間の知識をそのまま得て。


 それを活かしてここまで来た。ここまで来たのに。それがまた目の前で起ころうとしている。

 “ダリア”と“シャムロック”がフォトンセイバーを引き抜く。両者ともあの日と全く同じ構え。ダメだリオ、それではダメなんだ。ガーランドはそれを予測する。読まれてしまう。

 

 だから僕がサポートする。この“モーニング・グローリー”のシステムなら出来るはずだ。


「PK-LINK、フルコンタクト!」

了解ラジャ。コネクト』


 360°モニターに僕と“モーニング・グローリー”が接続された旨の文字が表示され、僕の脳に様々な情報が瞬時に流れ込んでくる。

 “モーニング・グローリー”の情報、そして“シャムロック”の情報すらも。

 僕は攻撃を受けようとしている“シャムロック”に思考を集中する。


 イメージ。“ダリア”の攻撃を躱して反撃をするイメージ。


 僕の思考は“モーニング・グローリー”に搭載されたPK-LINKシステムを介して“シャムロック”へ送信される。それに反応した“シャムロック”のAIが機体をオートで操縦する。そう、“モーニング・グローリー”に搭載されたこの機能を使えばPK-LINKシステムを搭載している機体であれば僕の思考のみで遠隔操作出来る。

 僕の思考を汲み取った“シャムロック”が“ダリア”のセイバーを見事に捌いた。

 

 コータ、愛してる。


 僕はあの日、その言葉に応える事が出来なかった。自身の無力さに打ちひしがれて、絶望して、ただ愛する人の背中を見ていることしか出来なかった。情けなくて、ただただ自分の無力さを呪い、祈る事しか出来なかった。

 

 生まれ変わったら大切な人を守れる程の力が欲しい、と。

 

 あの忌まわしいその時に再び僕は居合わせる事が出来た。そう、これは僕が待ち侘びた時間でもあった。だから僕はこう応える。


『僕もだ、リオ。愛してる。だから……』

「……コータ!」


「だから、生きるんだ! 絶対に死なせるもんか!!」


 FXブレイドを引き抜き、2機の間に“モーニング・グローリー”を滑り込ませて“ダリア”のセイバーにブレイドを打ち付ける。

 驚異的な加速からの斬撃だったが、“ダリア”は見事にそれを受け止めた。

 鍔迫り合いにより肉薄した“ダリア”と“モーニング・グローリー”がフォトンの光により照らされる。


 あの日、僕を庇って死んでいったリオ。無力な僕を必死で守ってくれた幼馴染。2周目の人生では力が欲しくて必死で駆け抜けてきた。持ち込んだ知識を使って、大切な仲間も巻き込んで、沢山の人の命も犠牲にして……。わがままに、でも必死で駆け抜けてきた。


 平穏な日々を過ごすために、リオと幸せに暮らすために。

 背中には愛する人。そう、彼女を守るために今、僕はここに立っている。あの日、僕を守って死んでいった幼馴染。今度こそ僕が守る……そう、


「……今度は、僕の番だ!」

『新型……その声は〝蒼星〟か!』

「ガーランド、今度こそお前を墜とす!!」


 刃を交えたまま操縦桿を全力で押し込む。それに“モーニング・グローリー”が応える。ジェネレーター出力最大。圧倒的なパワーで“ダリア”の機体がふわりと浮き上がる。


『なっ!?』

「リオはエディ達を……!」

『でもっ』


 心配そうな声でそう応えるリオに僕は短く「大丈夫だよ」と告げる。リオはやっぱり僕の心配をしてくれたけれど、最後には僕を信じてくれた。


『……ありがとう、コータ』


 ワイプモニターに映るリオに微笑みかけて僕は再び宿敵に向き直る。技も何もない、力で“ダリア”を押し込む。

 “モーニング・グローリー”の出力は最大。これだけの出力を出していれば機体の何処かに問題が出てもおかしくない筈なのに警告は一切無く、全てが正常。どの計器類も機体の調子の良さを知らせていた。

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