05-39.開花の兆し




 コータの声が聞こえた次の瞬間、“シャムロック”のPK-LINKシステムが作動してひとりでに・・・・・機体が動いた。

 “シャムロック”は拘束を解いて手にしたフォトンセイバーで“ダリア”の突きを払った。

 

 え、何がどうなってるの?

 そんな言葉を発する間もなく再びコータの声が届いた。今度はしっかりと耳に。


『僕もだ、リオ。愛してる。だから……』

「……コータ!」


『だから、生きるんだ! 絶対に死なせるもんか!!』


 一閃。


 雷の様に素早く何かが私の、“シャムロック”の横を通り過ぎて行った。気がつくと“ダリア”と鍔迫り合いをしている機体があった。

 

 “ワルキューレ・ブレイズ”? いや、違う……あれは?


 透き通るような真珠色の機体色。逞しい四肢を覆う屈強な装甲。四本のブレードアンテナ。蒼く光るツインアイ。見た事がない機体……でも、間違いなくパイロットはコータだ。来てくれたんだ。私のコータ……。




※コータ視点



『……搭乗者確認。ご命令を』

「何でもいいから早くしてくれ!!」


 僕の乱暴な命令にAIが無感情に応えてようやく“ワルキューレ・ブレイズ”が再起動した。しかし戦闘可能出力ギリギリしか出ないこの状況では“ダリア”なんかに太刀打ち出来るはずが無い。

 

 いや、それでもやるしか無いんだ。少なくとも目の前にいるシャルや今必死に戦っているリオやエディ、メイリンさんを無事に帰還させる。そう、それだけは絶対に成し遂げなければならない。僕の命に替えても。


 頭が割れそうになる程の頭痛を耐えながらパイロットシートの左右にあるT字型の操縦桿を操作し、“エーデルワイス”の露出したコクピットブロックを半ば無理矢理取り外す。

 こうなれば遠隔操作でハッチの開放も出来る。空間投影式のコンソールパネルを呼び出し、命令とパスワードを入力。割れた360°モニターにかろうじて【Open】と表示されるとシャルが居るコクピットハッチが開いた。


「シャル、無事か!?」

『コータ……うっ、すまん、しくった』

「無事なら良い。早くこっちへ」


 負傷はしてるみたいだけど、命に関わるような怪我ではないみたいでとりあえず安堵する。

 “ワルキューレ・ブレイズ”の手のひらに乗ったシャルをコクピットまで運び入れた。


「怪我の手当は」


 僕のその言葉にシャルは短く「生きて帰ってからな」と言いながらコクピット後方にあるサブシートを展開させて腰掛けた。

 そうだ、生きて帰ってからだ。そう思い直して僕は“ワルキューレ・ブレイズ”を発進させようとしてキックペダルを踏み込む。

 フライトシステムが起動し20mの巨人が宙に浮き上がる。よし、飛行は大丈夫。問題はメインジェネレーターの出力と左腕の欠損か。各所スラスターは正常に作動している。それらを踏まえてどう戦うか……。


 いやここで考えても仕方ない、何処かで戦っているリオに合流しなければ。


『――』


「えっ……」


 不意にあの感覚が頭に過って僕は手を止めた。そんな僕の様子を見てサブシートのシャルが発進を促してくる。それを制して僕は空を見上げる。

 それは、その感覚は転機を告げる予感に思えたから。


 どこだ、どこから……。肉眼では見えない。でも確実にいる。そう、懐かしさすら感じる彼女ら・・・の気配。


 ……いた!


『――っ!? 居ました! “ワルキューレ・ブレイズ”発見! アスカ三佐、コータくんを見つけました!』

『よくやったわ、ロゼッタ! ソメイヨシノに“ワルキューレ・ブレイズ”の座標を転送! すぐに投下させて!』


 その声を聞いて僕は確信した。僕がしばらくの間滞在した戦艦“ソメイヨシノ”のクルー、ロゼッタとウエハラ三佐だった。なぜここに来た? いや、理由はわからない。でも、きっとポジティブな理由があるんだろうと思わずにはいられなかった。


『コータくん、聞こえる!? ボクだよ、ロゼッタだよ!』

「ロゼッタ! どうして?」

『遅れてごめん。一緒に戦いたかったんだけど調整に時間がかかっちゃって。カレンさんはもう大丈夫だって言ってたんだけどウララさんがもう少し調整が必要だからって――』

「う、うん……?」


 久しぶりに話すロゼッタは非常に早口で必死にここまでの経緯を話してくれようとしているけど、主語が無くてよくわからない。そんな彼女にウエハラが捕捉する。つまり……。


「ソメイヨシノが僕たちに協力してくれるって事ですか」

『そうよ。アンタ達の行動予定はレイを通じて伝わってたわ。それに間に合うように調整してたんだけど少し遅かったみたいね』


 そうか、確かに僕はこの作戦の前にレイに詳細を話していた。それが伝わって“ソメイヨシノ”も合わせていてくれたのか。ソメイヨシノ側の動きが僕に伝わらなかったのは作戦準備に入ってレイに会う暇がなかったから。


 でももし“ソメイヨシノ”の介入が事前にわかっていたとして連携を組むのは難しかったかもしれない。

 ならば最初から別行動を取るべきか。お互いに組織の最大目標がガーランドの打倒ならば互いの道はいずれ交差する。


「お、おい、コータ、この人達は……?」


 ウエハラ達の出現に混乱するシャルに手短に彼女たちを紹介するのと同時に、今僕たちが置かれている状況をウエハラやロゼッタに説明する。


 僕の大切な人がガーランドを追い込んだ事、そしてそれは長くは続かないという事を。


『コータ、今座標を送ったわ。そのポイントに急いで』

「……空? 僕の話聞いてましたか、今すぐにリオのところに行かなくちゃ――『そんなボロボロの機体で何しようっての、今アンタが言っても足手まといになるだけよ!』だけど!……じゃあどうしろって言うんですか!?」

『言ったでしょ、今すぐその座標に飛んで受け取りなさい』

「……受け取る?」


 空中で何かを受け取るって事なのか?


 僕は疑問を抱きつつ、少しだけ期待のような感情が湧き上がってくるのを感じた。それ程にウエハラの言葉には何かが含まれている。この状況を決して楽観してないはずのウエハラが僕に期待を持たせる様な口調でそう言ったんだ。

 そしてそれは“ファントムクロウ”で飛来してきたロゼッタも同じようで、希望に満ちた声色で言った。


『うん、そうだよ。出来たんだ、遂にコータくん達の夢が詰まった最強の機動兵器モビルナイトが』

「最強の、機動兵器モビルナイト……!」

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