05-37.再起動


『試作機を強奪した時は見事だったが、所詮はこの程度か』


 ガーランドが駆る“ダリア”が四肢を切り落とした“エーデルワイス”の頭部を掴み自らを守る盾のように掲げる。長距離から狙撃するリオへの牽制だ。

 リオがどれだけ正確に照準したとしてもヤツと“ダリア”なら確実に“エーデルワイス”を身代わりにしてしまうだろう。


『くそっ! リオ、アタシごと撃て!!』

『そんな事出来るわけない! そっちに行く!』


 リオは狙撃ポイントを破棄。こちらに移動を開始したみたいだ。そんなやりとりをインカムで聞きながら僕は大急ぎで“ワルキューレ・ブレイズ”のメインシステムを再起動させる。

 360°モニターはバキバキに割れて半分以上見えない。コンソールパネルからはパチパチと回線がスパークし、配線類が焦げる嫌な匂いがしていた。


『……合わせて、メイリン』

『はい、隊長!』

「!? エディとメイリンさんか!」


 割れたモニターの端に“ブルーガーネット・リバイヴ”と“ティンバーウルフ”が横切ったのが見えた。

 戦場に投下された補給コンテナに辿り着けたのか、破壊されたスラスターを交換したようだ。

 “ブルーガーネット・リバイヴ”は背面の大型燃料タンクと一体になったスラスターを噴射して高速で肉薄。前腕部に内蔵してあるフォトンジェネレーターからセイバーを排出、切り掛かる。でも、


「ダメだ、機体性能が違い過ぎる! 後退するんだ!」


 “ブルーガーネット・リバイヴ”の一撃は“ダリア”によって最も簡単に捌かれてしまう。しかしエディは巧みなテクニックで機体を操作し食い下がる。

 

 “ダリア”が放つ斬撃を躱し、フォトンライフルの間合いを作らせない。機体の能力が違いすぎて遅れをとる事はもちろんあるが、それにメイリンさんが抜群のタイミングでフォローを入れ、更にそこに射程のアドバンテージを捨てて接近してきたリオが合わせる。3対1。この状況になりようやく“ダリア”は手にしていた“エーデルワイス”を取り落とした。


 3機がグイグイと“ダリア”を押し込んでくれる。


 四肢を失った“エーデルワイス”は完全に戦闘不能に陥っている。通信すら途絶え、シャルの安否すら確認出来ない。せめてコクピットブロックだけでもと思い、僕は遠隔操作で“エーデルワイス”の脱出装置を作動させたが、損傷が激しく上手く作動しない。

 

 “エーデルワイス”の胸部装甲が展開し、コクピットブロックが露出する。機構が作動し、パンと乾いた音がする。その状態で止まってしまった。シャルを救出しなきゃ。大破した“エーデルワイス”をこのまま戦場に放置するわけにはいかない。それにシャルからの応答はないままだ。

 “ワルキューレ・ブレイズ”を再起動させてシャルの元に向かいたい。3人が“ダリア”を抑えていてくれる今しかない。生きていてくれ、シャル。


「……頼む、動いてくれ“ワルキューレ・ブレイズ”」


 さっきからシステムの再起動を繰り返しているが、重要な箇所でエラーが発生して上手く作動しない。無視できる項目では無かったため何とか問題を解決したかったけれど、どうやら無理みたいだ。仕方なくその項目の無視を指示。何度目か分からない再起動を命じる。


 早くしてくれ、早く……!


 何度も何度も試行錯誤して組んだ“ワルキューレ・ブレイズ”のメインOSのプログラム。そこらのMKモビルナイトなんかよりも何倍も起動が早いはずなのに心が焦っているからなのかいつもの数十倍遅く感じてしまった。


 浅はかだった。僕は完全にガーランドの技量と“ダリア”のスペックを見誤っていた。


 新型試作機2機と凄腕のパイロット。〝女傑〟と言われたエディとその副官。それだけの面子が揃えば〝聖騎士〟にも対抗出来ると思っていた。錯覚していた、過信していた。〝聖騎士〟の異名は伊達では無かった。


 何度目かの再起動。割れたモニターに【Hello pilot】と表示されてAIが登場者の確認を行う。


『……搭乗者確認。ご命令を』

「何でもいいから早くしてくれ!!」


 僕の乱暴な命令にAIが無感情な返答をした後にようやく“ワルキューレ・ブレイズ”が起動した。

 出力は戦闘を行えるブルーゾーンギリギリしか出ない。くそ、コレでは完全に足手まといだ。体勢を立て直すためにシャルを無事に連れて帰らなきゃ。


 僕は頭が割れそうになるほどの頭痛に耐えながら操縦桿を操作して大破した“エーデルワイス”に歩み寄りコクピットの状況を確認する。

 “ワルキューレ・ブレイズ”の力なら機構そのものを取り外す事は出来るかも知れないけど、この状況でそれを守って戦うのは不可能だ。ハッチを開いてシャルを助け出す。


 それからすぐに向かうんだ。リオを、そうだ、リオを救うために……!


「クソ! 僕はいつになったら!」


 僕は感情のままにアームレストを殴りつけ、歯噛みした。リオを救う。助ける。幸せにする。それのどれも成し遂げていない。この2度目の人生ではあの日・・・の二の舞にならないように必死で生きてきたはずなのに……!!


 1分でも1秒でも早くリオの元に駆け付けたい。

 

 気持ちばかりが焦っても、“ワルキューレ・ブレイズ”の出力はやはり上がってはくれなかった。



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