05-36.強敵



 “ダリア”はフォトンセイバーで“エーデルワイス”の右腕マニュピレータを切断。僕が飛び掛かろうとした時には“エーデルワイス”の腹部にすでに“ダリア”のフォトンセイバーが突き刺さった状態だった。


「シャル!!!」


 僕はすぐさま“ワルキューレ・ブレイズ”にフォトンライフルを装備させて“ダリア”に向けて発砲する。“ダリア”はそれを回避するが、咄嗟にセイバーを振り抜き“エーデルワイス”の脇腹をえぐり切った。


 高出力のフォトンセイバーは“エーデルワイス”のルナティック合金を溶かし切る。装甲内部の機構が露出し、オイルが血液のように吹き出した。

 機体へのダメージは大きい。でも動けなくはないはずだ。


「シャル! 退避して!」

『くそ、わるい、焦った……!』


 シャルは悪態を吐いてから退避を開始するが、機体出力が上がらない旨の報告をしてきた。機体背面にあるジェネレーターにも損傷があるのか!? くそ、この場で修理は不可能だ。幸い分離変形機構を持つ“エーデルワイス”は他のMKモビルナイトと違い、メインジェネレーターを2基搭載してる。MKモビルナイト形態ならジェネレーターの切り替えを行えば稼働出来る。

 でも、それを口頭で伝える時間を稼がなければ……。シャルには予めその旨の説明はしてあるけど、機転を効かせて思い出してくれ、シャル。


『コータ!』

「……っ!」


 リオの合図で僕は射線を通す。後方から狙撃するリオの射線を。そしてすぐに火の玉じみた弾丸が寸分違わず“ダリア”を襲う。しかし“ダリア”はその弾丸を大型シールドで難なく防いだ。超高速のあの弾丸を。


『そんな!?……っ』


 一瞬驚いた声を漏らしたリオだったけど、すぐに思考を切り替えて第二射を放った。その一瞬の隙を吐いて“エーデルワイス”が再起動した。非常時のマニュアルを思い出したな、良かった。


 リオの狙撃も先程のものと遜色無い素晴らしいものだったが、“ダリア”はフォトンセイバーをひと振り。なんと超高速で飛来する弾丸を切り払った。


「バケモノか!?」

『ふむ。狙いは悪くないが素直過ぎる。教科書通りと言ったところか』

『くっ……もう一度っ!』

「ダメだリオ、落ち着いて!」


『――』


 ――来る。


 次の瞬間、“ワルキューレ・ブレイズ”に“ダリア”が切り掛かってきた。

 セイバーによる斬撃。それを防ごうと僕もセイバーを展開させた……つもりだったが叶わず左腕にダメージを受ける。肩から下を失った。


『コータ!?』


『ーー』


「くっ……!」


 数瞬遅れて警報が鳴る。あの感覚が脳裏を過り、素早く操縦桿を操作したつもりだったが、思うように機体が動いてくれなかった。

 閃き、すぐさま操作したはずなのに機体がやや遅れて動くかのようなもどかしい感覚。機体の調子が悪いのか……いやバカな。整備は万全なはずだ。

 まさか、僕の操縦に“ワルキューレ・ブレイズ”がついてこれてないのか?

 

『その程度か、蒼星!!』

「まだやれる!」


 “ダリア”による斬撃を今度は背面から伸びるアームで稼動するシールドで防ぐ。フォトンフィールドジェネレーターが作動し接触部分がスパークした。

 しかし、続く左腕による打突を防ぐ事ができずに胸部に直撃を受ける。


 コクピット内の360°モニターに多数の亀裂が入り大きく画面が乱れる。それでもモニターには多数のコーション表示が示されている。それの全てに目を通すのは不可能だ。


 警報、パイロットの意識低下。生命維持装置作動。


 ……パイロットの、意識低下……パイロット、そう、僕のことか……?


 遠のく意識の中で思考が巡っていく。

 “ダリア”のパンチによって激しく機体を譲られた“ワルキューレ・ブレイズ”が衝撃を相殺しきれずにパイロットに、僕にまで衝撃が来てしまったって事なのか。

 ルナティック合金の装甲のおかげでコクピットが潰れるような事は無かった。でもこの症状は、脳震盪のうしんとうか。意識が遠のいて吐き気までしてくる。


 途切れそうになる意識を強制的に引き戻す。意識がはっきりすると激しい頭痛が襲ってきたが全力で無視をする。


『コータ、一旦離れろ!』


 その言葉を合図にシャルが駆る“エーデルワイス”が転倒した“ワルキューレ・ブレイズ”と入れ替わりで前に出る。

 フォトンライフルで牽制。しかし“ダリア”はそれを難なく躱す。


『くそ! 全部見えてやがるみたいだ!』


 悪態を吐くシャルだけど、本当にその通りだった。いつどこにフォトンビームが飛んでくるのか分かっているかのような軌道。それを踏まえてこちらの一手先を突いてくる。


 それはまるでこちら側には最初から選択肢などないかのような錯覚を与えるほどに。

 一合、二合剣を交えてよく分かった。コイツは、この“ダリア”という機体は他のMGシリーズとは格が違う。スピード、パワー、ディフェンス。全てのスペックが突出し、ガーランドに120%応えている。


 油断したわけじゃない。侮ったわけじゃない。驕ったわけじゃない。でもガーランドと“ダリア”という機体は僕の予想の遥か上を行くポテンシャルを秘めていた。


 それは僕が持つ5年のアドバンテージなど無視してしまうかのように。


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