01-19.狼
〝
戦場への傭兵派遣及び
けれど現在は前大戦で抱える傭兵や設備の多くを失い、経営難とまでは行かないまでも、今後の方針をどうするのかという岐路に立っているそうだ。
今日はヨナに誘われて彼の実家、アカデミーがある学園都市から車で30分ほどの場所にある、そのEMSにやってきていた。
ちなみにヨナに誘われて、という表現が正しいかというとそうではない。
というのも、EMSの格納庫には
警察や消防が所有する
とはいえまだ入学して間もない僕たち一年生は
何しろ僕たちは
そう、それは至極当然の事なんだけど……僕は機械に飢えていた。いや、飢えていただなんて大袈裟だけどね。
機械いじりが好きなのは最早、性分だろう。
アカデミーではまだまだ触れないけれど、外であればいくら触れても構わないでしょ?
というわけでヨナの実家、EMSにやってきた。
今は少し規模を縮小しているとはいえ敷地内には一通りの訓練が行える設備などが充実、までは行かないにしても不自由がない程度に揃っている。
一般的な小中学校のグラウンド何個分かの広い敷地の中で一際目を引く大きな倉庫の中に案内される。
窓は一切なく、内部は所々にある非常口誘導灯の光のみで照らされており非常に薄暗い。
ヨナがパチンと壁際のスイッチを入れると室内の照明が一斉に点灯し、目が眩む。
「……“ティンバーウルフ”か」
瞑った目を開け、思わず感嘆の声が漏れる。
そこには地面と平行に、うつ伏せの状態で固定ラックに吊り下げられた
その機体は僕が防衛学園で馴染みの深い機種、“ティンバーウルフ”だった。その名の通り〝狼〟を彷彿とさせるライトグレーとマットブラックで成形された機体色。
サングラス型のアイバイザー。マッシブで、しかし洗練された装甲、大腿部と背部ランドセルに取り付けられた大型スラスターは地上戦でも空間戦でも運動性を確保する優れものだ。
側頭部のポールアンテナはジャミング下でも味方間の通信を近距離であれば可能にするためのものだ。
可もなく不可もない、癖がない機種で非常に扱いやすい。
あるベテランパイロットが、特徴がない事がこの機体の特徴だと言った事は余りにも有名な話だ。
つまり非常に汎用性が高いのだと示唆する逸話である。
オプションパーツが非常に充実しており、パイロットの技量に合わせて調整出来るので新兵から腕に覚えのあるベテランにまで好まれる。
長年、直接的に国際連合軍を支えた名機。傑作機だと言っていい。
全高18.9m、機体重量59t。
僕の人生の中で一番多く触れてきた
今日はこれを見せてもらうためにヨナの家に押しかけたのだ。
僕はヨナに断りを入れて機体周辺にある整備用足場によじ登って、まじまじと機体を眺める。
遠くからは分からないけれど、装甲や各関節の劣化具合からしてそれなりの、いや、相当の戦闘に身を投じてきたのが窺い知れた。
見たところ間に合わせの安価な部品をいくつか使っているみたいで、その『ツケ』が他の部品に来てしまっているみたいだった。
「え、そんな事わかるのか」
「いや、分かるって訳じゃないんだけど、多分そうだろうなって思って」
一部に負荷がかからないようにするためのものなのだが、今回みたいに粗末な部品を使うとそこに負担をかけまいとして、他の部品に負荷を分散させる。
まぁ人間で例えるなら、右足を怪我した状態で歩くと左足に負担がかかる。簡単に言えば
状態から察するに、最近整備はされていないみたいだ。それをヨナに聞いてみれば案の定、数ヶ月前に作戦から帰還して以来整備もされずにそのまま放置していた様だ。
なんでもお抱えの整備士が国際連合軍に出向していて、こちらの整備にまで手が回らないらしい。
あー、ダメだ。すごくムズムズする。
この感覚はどう言ったらいいのか。
ああ、そうだ。部屋が散らかっていて、片付けたいときになる気分に似ている。
つまり僕はこの機体に手をかけたくて仕方がなくなっている。
「ヨナ、一緒にこの機体を整備しないか?」
僕はカバンの中に入れていたアカデミー指定の作業服を取り出しながらそういった。
ヨナは少し驚いていたけれど、関節の油くらいは刺さなきゃなと言って話に乗って来てくれた。
ここで1周目の時に得た一級整備士の知識や技術をひけらかすつもりはないけれど、このままだとこの“ティンバーウルフ”はどんどん劣化が進んでいってしまう。
ヨナのいう通り、関節の油くらいは補充しなきゃね。というのを口実に僕は久しぶりの機械いじり、
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