01-18.女傑
エディータ・ドゥカウスケートは僕の二つ上の学年に在籍する女子生徒。
貴族の出身らしく、幼い頃から
なんでもアカデミーに入学して間もない頃にその才能を見出され、実際の戦闘に参加したらしい。
そこでルーキーとは思えない活躍を見せ、まだ学生の身でありながら既に士官の階級を与えられ、戦場での戦いぶりから〝女傑〟と称された天才。
〝女傑〟
僕が受けた彼女の印象は女傑などという言葉とはかけ離れたものだった。ガラスの様な……いや、ガラス程の硬度はない。もっと繊細な。
そう、あれは氷。
冬の湖に張った薄く、透き通った氷のような印象の女性だった。
彼女がアカデミーに在学しているのは事前に知っていたとは言え、こんな風に校内で普通にすれ違ったりするものなんだな。
ヨナ曰く、学生の身でありながら軍人でもある彼女は時折、軍からの呼び出しで各地で起こる小中規模の紛争の鎮圧任務に派遣されているらしい。そしてつい先日帰国したばかりなんだとか。
ヨナの実家の民間軍事会社にドゥカウスケート率いる小隊への傭兵派遣要請があるらしいので、ヨナはその辺りの事情に詳しいみたいだった。
というか学生の身で小隊長って……学校で学ぶ事なんてひとつもないんじゃないのかと思ってしまう。
……もしかしたら実際に学ぶ事なんてないかも知れないけど。
「……それでコータはそのエディータ先輩の事が気になるんだ?」
ドゥカウスケートの背中を見送ってからというもの、僕とヨナは彼女の話題で持ちきりだ。
僕は彼女の情報を聞きたかったし、ヨナも聞かれれば答えてくれる。
ドゥカウスケートの事が気になって仕方がない。リオの目に僕はそんな風に映ったかも知れない。
僕のそんな態度が気に入らないリオが柔らかそうなほっぺたを膨らましてやきもちを妬いている。猛烈に可愛い。
確かに彼女には興味はあるけど、それは彼女が女性だからではなくガーランドと結託して虐殺テロを実行したからだ。現時点ではまだ不安因子のひとつでしかないにしろ、だ。
ドゥカウスケートの容姿は確かに整ってはいるけど、それは一般論であって、僕はリオの方が可愛いと思っている。
優しくて美人で可愛いとか無敵すぎるでしょ。これで将来的にはアカデミーを主席で卒業するんだからね。
と、それのどの言葉もリオには直接言えるわけもなく、結局なにかを誤魔化すように言葉が喉に詰まってしまう。
するとリオは更に膨れる。普段あまりこんな風になる事がないリオであるから、彼女のそんな側面を見れて僕は眼福なんだけれど要らぬ心配をかけるのもそろそろ悪いし。
どうしたものかと考えていると、「エディータ先輩は有名なパイロットだからな」とシャルがフォローを入れてくれた。
「……シャルが敬称を、つけた……」
「失礼だなお前! エディータ先輩はこの学園一の腕を持ってる。憧れる生徒は多いはずだ。特に女子には人気があるぞ」
ドゥカウスケートは特に女子生徒から慕われている様だった。
貴族の出身で容姿端麗、操縦はアカデミー内に留まらず、連合軍でも指折りの実力者で小隊を率いる女士官。
こんな異次元じみたスペックの持ち主がそこらの廊下を歩いている。
身近だけど遠い存在。故に憧れる心が肥大化し、彼女の存在を更に遠く輝くものにしていく。
「まぁ本人があまり他人と関わりたがらないらしい」というのはシャルの言だ。
そんなシャル自身がドゥカウスケートのファンの一人であるというだけあって結構詳しい。
まぁどんなにハイスペックだったとしても僕にとっては裏切り者のテロリストだ。
今現在はまだ悪事に手を染めていなかったとしても、数年後には新兵たちを虐殺するような女だ。
どんな事情があるにしろ、あんな事をする人間の思考なんて理解出来ない。
何が不満で、何を思ってあんな事をしたのか想像すら出来ない。
何にしろ僕がドゥカウスケートから目を離す事はない。
出来る限りマークして彼女が裏切りに及んだ背景を探る。そして可能ならば根本から潰すんだ。
そうしているうちに何らかの有益な情報を得られるかも知れない。
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