01-20.仕事

「まさかコータがここまで出来るとはな。驚いた」


 ヨナと整備を開始して1時間。……くらいのつもりだったが、なんと僕たちは4時間も作業してしまっていた。

 

 関節部に油を差す程度で済ませようと思ったんだけど……やり始めたら夢中になってしまって気がついたら、あれだけ高かった日もかなり低い位置に傾いていた。

 1周目の人生で防衛学園で散々にMKモビルナイトの整備をして思ったけど、やっぱり僕は技術者肌なのかなって思う。

 僕の両手は油まみれになってしまったけれど、仕事を終えた達成感も相まって、清々しさすら感じる。


 この2周目の人生ではパイロットを目指してはいるけれど、機械いじりが好きなのだなって実感する。


「出来るかどうかは置いといて機械いじりは好きみたいだね。それなりに勉強してたから」


 防衛学園でひたすらに磨いた整備士としての技術だけど、それをひけらかすつもりは全く無い。

 僕は謙遜の気持ちもあってそう言ったけれど、ヨナは笑顔で相槌を打つ。


「そうなのか、よほど良いテキストがあったと見える。……そうだ、それだけの腕があるならコイツ・・・の整備をやってくれないか?」


 そう言ってヨナは後ろの“ティンバーウルフ”を指差した。


 さっきも言っていたけど、この会社EMSには数人の整備士が在籍しているようだけど、彼ら(彼女ら?)は現在派遣されて会社には居ない。

 

 この“ティンバーウルフ”を整備できる者がおらず、整備せずに放置してあったらしい。

 ヨナは整備の心得は無いし、社長である父親も整備士の資格こそあれど長い間現場から離れているし、何より手が回らない。

 

 ちょうど整備が出来る人間を探していたそうだ。


 1周目で取得した一級整備士の資格の知識はあれど、今現在は資格はとっていない。もし資格者が同会社に在籍していない状態で勝手に整備をしているのが当局に露見したら違法行為として罰せられる。


 けれどヨナのお父さんが資格を持っているのならば、法的には問題ない。……本当は現場にいなければいけないけど。まぁそこはグレーゾーンだし、大丈夫だと思う。


 あの日・・・の惨劇を回避するためにやる事はたくさんあるのは間違いないけれど、寮暮らしで何かと物入りなのは確かだ。

 短時間でもアルバイトをしなきゃいけないなと思っていたところだったし。


 当面は僕とヨナの2人で整備する事になりそうだけど、幸いにしてこの工場には整備の補助用のパワードスーツもある。

 MKモビルナイトの部品はひとつひとつが重く、大きい物が多い。重力の少ない宇宙空間等ならともかく、地上ではなかなかに骨が折れる作業だ。  


 けれどこのパワードスーツがあれば、重力下で重い物を比較的簡単に持ち上げる事が出来る。


 MKモビルナイトの整備を少数で行う為の設備は整っているし、お金は出るし、何より整備は楽しい。


 2人で4時間作業したとしてもメンテナンスくらいしか出来ていないし、部品交換などの作業は全く出来ていない。

 このままこの機体から離れるのも気持ちが悪いし、僕には断る理由がない。

 こうして僕はEMSで整備のアルバイトをする事になった。



 EMSで“ティンバーウルフ”を整備し始めて一ヶ月程度が経過した。

 

 僕とヨナの2人で整備した甲斐があって“ティンバーウルフ”は実戦配備も可能なほどに仕上がり、残るのは実戦で傷ついた装甲の塗装くらいな物だった。


 長い間、民間軍事会社としての仕事を受けていなかった、もとい、受けられなかったEMSに久しぶりの仕事が舞い込んできたのは、そろそろテスト稼働くらいしてみようかと話していたタイミングであった。


 EMSに舞い込んできた仕事、依頼というのは、隣国のある街で行われる地元の祭りの警備だった。

 

 国際連合に所属していないその国は、政府よりも地元を牛耳るマフィアなどが保有する非正規軍の力が非常に強い。

 マフィア同士の抗争が散発し、時にはMKモビルナイトすら持ち出す事態にも発展する事があるそうだ。


 今回依頼があった地区とその抗争が頻発するエリアとは離れているので比較的安全だという。

 しかし自衛の意味でEMSに警備の依頼があったのだが、生憎パイロットはおらず機体のみ派遣するという事になったそうだ。


 テスト稼働はヨナのお父さん、アルフレッド・イージス氏によって行われた。

 貸し出し前日に現地パイロットの操縦で試運転と機体チェックを行う事とし、試験の後に細部の調整をするために僕もヨナに同行し、空輸にて現地入りをした。


 見渡す限り翡翠色の海はカリブ海だ。

 清々しく晴れ渡る空には真っ白い雲が高々と立ち昇っている。

 このサンクーバの街は美しい海と歴史のある港で栄えた街だ。

 

 栄えた、と言ったがそれは人類が宇宙に進出するより前の、何百年も前の話で現在は観光客もあまり多くはない。


 しかし今日は街を上げてのお祭り。


 今日から何日間かはこのサンクーバでは一年の豊作と大漁を神に祈る祭りが執り行われる。

 この何日間かは大いに盛り上がり、観光客も増えるんだ。とは地元の出店の店主が言っていた。

 

 もっとも僕はアルバイトの延長で来ているんだけど、そんなの出店のおじさんからしてみたらビジネスで来訪した僕も観光客と大差ないかもしれない。


「見てみろよリオ、なんか美味そうな物あるぞ!」

「本当だねシャル。割り勘で買ってシェアする?」

「よしそれで行こう。おっちゃん、これひとつくれる?」

「かわい子ちゃんにはサービスだ、ほら、ふたつ持っていきな」


 と、キャイキャイと騒ぐ同行者を引き連れていれば、僕とヨナも観光客に見られるよね。


 そう、僕たちの初仕事にリオとシャルも同行していた。



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