01-15.渡米
一月。
無事、入学試験をクリアしアカデミーへの入学を認められた僕とリオ、それにシャルは渡米の準備を進めていた。
僕とリオは長年世話になった孤児院施設から退去する事になる。
アカデミーでは寮生活になるし、そこを卒業すれば国際連合軍への入隊。配属先での生活が始まる。
今まで過ごした国営の孤児院施設は僕やリオにとっては実家のような存在である。
いつでも遊びにおいでと親代わりの先生方は言ってくれるが、アカデミーは海外。そう簡単にはいかない事は分かっている。
何より、この施設の最高齢の先生はもう何年かしたら……。僕はすでに一度彼女を送っている。
この2周目では少しでも長生きをしてもらえるように、素人ながら助言はしたのだけど、どれだけ良くなるのかはわからない。
身寄りのない僕とリオにとっては先生と言うよりも、おばあちゃんみたいな存在だ。
涙を流して別れを惜しむリオを先生は優しく抱きしめる。
その光景は確かに1周目で見たけれど、2回目だからといって慣れるはずもなく僕も泣いてしまった。
これが、おそらく今生の別れになるだろう。
僕は絶対に後悔するものかと、先生を強く抱きしめ、感謝を述べて別れた。
この先生と再び巡りあわせてくれた何者かには感謝するしかない。
そして僕とリオはアメリカに渡る。
シャルはといえば、やはり……というか。
素行はともかく成績は良かったらしく、入学試験の方は全く問題ないみたいだ。
アカデミーの寮はなんと狭いながらも個室が用意されているらしい。防衛学園では2段ベッドが2台並んだ4人部屋だったから、それを思えば破格の待遇と言っていい。
もっともその4人がとても仲が良かったから楽しかったけど。
その4人の中にシャルも混ざっては、教官の眼を盗んでたむろしていたものだ。
そういえばリオは突然現れた僕の親友に非常に戸惑っていた。戸惑っていた、というより嫉妬に近かったかも知れない。
シャルは僕なんかよりもずっと男前な性格をしているけど、見た目は間違いなく美人の分類に入ると思う。
そんなシャルを僕の友達として紹介されたリオはすごく驚いた顔をしていたっけ。それと同時に、僕に嫉妬してくれて。その時の膨れた顔はすごく可愛かったな。
まぁ少しだけ膨れたリオだけど、その誤解はすぐに解けることになるんだけどね。
僕は当然リオ一筋だし、他の女性を恋愛対象には絶対に見ないし、必要以上に親密になるつもりもない。
そしてシャルも僕を
……どうして断言できるのかは、そういう機会があったらまた詳しく掘り下げようと思う。
リオは、僕とシャルの間にそういう感情が絶対に芽生えないと確信出来たみたいだし、僕としては安心出来た。
シャルはこれ以上ない友人だけど、やっぱり女性だし、リオに要らぬ心配はかけたくなかったからね。
1周目も含めてリオとシャルが顔を合わせるのは初めてだったから、どうなるか少し不安で、けれど楽しみだったんだ。
僕の親友と大好きな人が仲良くなってくれたら僕はすごく嬉しいからね。
けどその心配はどうやらしなくて良いようだった。
「……ど、どうしよう……」
で、僕の心配のタネがひとつ無くなったと思ったら次はリオが唸る。
テキサス行きの飛行機の座席で頭を抱えたりしている。
リオは明後日行われるアカデミーの入学式で、新入生代表として挨拶をする事になっていた。
つまりは入学試験でトップの成績を収めたという事になる。幼馴染としてすごく鼻が高いけれど、彼女たちより5年多く勉強してきたはずの僕としてはすごく複雑な気分だった。わりとしっかり目に受験勉強はしてきたつもりなんだけどなぁ。
いや、もちろんリオの頑張りが形になったのは嬉しい。
一応僕も防衛学園を主席の成績で卒業したわけなんだけど……いや、リオはすごいよ。
そんな成績優秀なリオですら入学式での挨拶文作成には頭を悩ませている、というより、そんなリオだからこそと言った方が良いだろうか。
代表者として恥ずかしくないようにと思って考えているんだろう。
僕も彼女の手助けになればと思って一緒に考えてるけど、なかなか難しい。
明日の入学式には当然ながら国際連合軍のお偉さまも出席するだろうし、そりゃ文書には気を使う。
右隣のリオとあれこれ相談していると僕の左隣のシャルが、去年の新入生挨拶の全文がネットに上がってたと教えてくれた。
なるほど参考にすれば良いのかと思ったが、シャルは「全文コピペでいいんじゃね?」とまるで他人事気楽なものである。
いやまあ実際に他人事なんだけどさ、それじゃダメでしょ。シャル、キミなら迷わずそうするだろうけどね。リオはそういうのやらないから。
「え、ちょっとそれいい考えかも……」
「いやダメだよリオ」
「あはははっ!」
相当に煮詰まっていたからリオまで悪ノリしちゃったじゃないか。シャルもお腹抱えて笑ってる場合じゃないからね、全く。
結局はシャル含めた3人で挨拶文を考えた。
僕は1周目とは違う道を歩み始めた。
アカデミーでは中途半端だった操縦技術をしっかりと学び、〝聖騎士〟ガーランドに肩を並べるまではいかないまでもリオを守れるくらい強くならなければいけない。
それと自分自身のスキルアップだけじゃなく、他にもやることは山積みだ。
何故ガーランドが裏切ったのか。
僕が知っているのは結果であって、経緯は全くわからない。
経緯を調査して未然に裏切りを阻止できればそれで良い。
まずは情報を集めなければいけない。またはその方法も。
明後日から始まる学園生活に僕の胸は一切高鳴る事はなく、いかにあの最悪な出来事を回避するかで頭はいっぱいだった。
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