01-16.入学式典
国際連合学園はその名の通り、国際連合機構が主体となって形成される国際連合軍の兵士育成学校だ。
基本的に就学期間は5年間で、卒業後は国際連合に所属する各国の正規軍に優先的に入隊する事が出来、希望者は大学や大学院に相当する教育機関に進学が出来る。
配属先に準ずる専門的な学習が可能で、例外はあるがほぼ全ての部署の専門知識を学ぶことが出来る。
講師も充実しており、退役した元軍人や各分野の専門家が多数在籍している。
どの分野にも力を入れているけど、特に
とまぁそれだけ設備が整っているのはいいけど、その分学費が高い。もちろん公立だからある程度は抑えられているとはいえそれでも。
特に僕やリオ、シャルが専攻する事になるパイロット育成コースは特にそうだといえる。
孤児である僕もリオも本来なら学費の工面に四苦八苦しなければならないんだけど、特待で入る事が出来た。
もしそれにあぶれても奨学金制度があるから最悪はそれで補おうと思っていたけどね。
卒業と同時にローン生活が開始になると思うと気が重いけど……。
このままの道を歩むとその奨学金すら返さずに人生を終えてしまう。
アカデミーの全校生徒はおおよそ五〇〇〇名。各学年の定員が一〇〇〇人。
人それぞれの感覚があるから一概には言えないけど、僕は結構多いと感じた。
その全員が一箇所の校舎で学ぶのではなく、専攻するコースによって校舎が分かれている。
その幾つもある校舎が広大な敷地内にまとめられているので、さながら学園都市みたいだ。
敷地内にはモノレールが走っているし、生徒寮がある居住区や商業区などもある。
今日はその敷地内にある大型ホールで入学式が行われる。
全校生徒プラスアルファを収容できる巨大なホール。均等に設置された座席に着席する生徒たちを見ると
虐殺テロが行われたあの日もこんなに人が密集していた。
きれいに整列した新兵達。その新兵達がまるで紙屑のように散っていく光景が……。
「……コータ?」
ぽんと肩に優しく触れられて我に返る。
見ると隣に座っていたリオが心配そうな顔で僕を覗き込んでいた。
「大丈夫? 顔色が悪いよ、医務室に行く?」
「あ、ああ、大丈夫だよリオ。ありがとう」
「そう?……それならいいけど。無理しないでね」
そう言ってリオは僕の背中を優しくさすってくれた。
自分もこれから入学式で挨拶しなきゃいけないのに、それよりも僕なんかの体調を気遣ってくれるリオがすごく愛おしく思えて自然に口角が上がるのを感じた。
さっきまで心を支配していた黒い感情も吹き飛んだ。そうだよ、今日は大丈夫。テロなんて起きない。
リオの一言でこんなにも心が軽くなるのかと思った。本当にありがたい。それと同時に僕もリオの不安を取り除いてあげたいと思った。
僕の背中をさする反対側の手を取り、両手で包む。
「あっ……」
「うん、ありがとう。緊張してるのはリオなのに、僕が心配かけちゃったらダメだ」
リオは優しいから表には出さないけど、手を取れば分かる。
リオの手はすべすべで、柔らかくてちょっとだけ冷たくて、それが気持ちいい。
けど少し震えていて、緊張しているのが伝わってくる。
僕は彼女の手を温めるように優しくさすった。
「こんなに大人数の前で話さなきゃいけないなんてね。すごく緊張すると思うよ、僕なら無理」
「ううん、コータならきっと上手くできるよ」
「ははっ、僕ならこのまま逃げ出しちゃうよ。新入生代表の挨拶は無しになっちゃう」
「ふふっ、それは困るね」
「そ。でもリオなら大丈夫。僕はここにいるから、頭が真っ白になりそうになったら僕を見て」
「うん、ありがと、コータ」
リオは真っ赤になりながら頷いて、僕の手に自分の手を重ねる。
いつの間にか震えは収まり、ほんのりと暖かさを取り戻しているようだった。
「……」
「……」
少しの間見つめ合う。中学の卒業から引っ越しなどで時間が取れなかったんだよね。リオとゆっくりする時間が無かったから、こうして触れ合うのも久しぶりな気がする……。
「……いいな。アタシも混ぜろよ」
「うわぁ!?」
僕たちの後ろの席に座っていたシャルが不意にそんなことを言うもんだから驚いて飛び上がりそうになる。
完全に気配消してたよ……というか入学式の最中だった。
「入学式の最中にイチャつける度胸あんなら挨拶くらい余裕だろ」
シャルは呆れたようにそういって肩をすくめた。
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