01-14.自問
アカデミーの入学試験を間近に控えた十月。
リオとの試験勉強を終えた僕は自室の机に向かっていた。
試験勉強をする為ではなく、現状の整理の為に。
整理などといえばそれっぽく聞こえるかもしれないけれど、タイムリープ後の僕がやった事などはたかが知れている。
まず僕がやったのはアカギ教授と手を結んだ。
現在より5年先の技術を開示し、それを用いて試作機二機の製作を依頼した。
これはガーランド少将……いや、もはや敬称など必要ないか。ガーランドが駆る〝ダリア〟などの新型
彼らと対峙した際に対抗する手段の一つとするというのも大きいが、強力な機体を国際連合軍が、ガーランドが所属する部署以外が保有しているという事実が抑止になるのではと考えたからだ。
もちろんそうなればこちらが用意した試作機を奪われないように、または〝聖騎士〟の異名を持つガーランドが裏から手を回し、それを正式に流さないようにしなければいけない。
もっともこの問題に関しては、国際連合軍内部からのルートでガーランドの手に渡るのは多分阻止できる。
何故ならこの計画は国際連合軍からの委託とはいえ、組織の内部で扱う部署が根本的に違う。
今回、アカギ教授に高性能量産機の開発を依頼した部署は特派と呼ばれる特殊兵器開発部署からの委託であるため、命令系統自体が異なる。
つまり例えばガーランドが、隣の部署が開発した兵器が欲しいから寄越せと言ったとしてもそう簡単には行かないのだ。
しかしガーランドには少将という立場もあり、それ以上に彼は周囲からの信頼を集めている。
その気になればどのような手段も講じてくる可能性が有るので、そうさせないようにする為には工夫が必要だ。軍内部からの。それは早々に手を打たなければならない。
そしてその試作
一機は僕が。もう一機は、信頼のおけるパイロット。出来れば親友のシャルに。
そうは思ったけれど、僕のワガママにシャルを巻き込んで良いものか迷った僕は、シャルを直接誘うような事はしなかった。
けどシャルは自分からアカデミーに進学すると言ってくれたので、中学卒業後はシャルとリオと渡米する事になるだろう。
シャルの夢はリオと同じく
シャルの操縦技術は本当に他者のそれとは比べても頭ひとつ抜けていた。少なくとも防衛学園では一番だったと思う。
僕やリオと一緒に操縦技術を磨いて、彼女が僕の活動に賛同してくれた時は試作
でも無理強いは出来ない。アカギ教授は完全に巻き込んでしまったけれど……。彼の協力は必須だから。
パイロットの件はとりあえずは保留、という事になるかな。
そもそも今現在はアカギ教授を抱き込んだとはいえ、試作機のパイロットになれたわけではない。
アカギ教授にテストパイロット任命の実質的な権限は無い。少なくとも人選に口は出せたとしてもその程度であろう。
だから僕は自力でその場所まで行かなければならない。
そのために今は自分を磨き続けなければいけない。
……と、僕がこの数ヶ月でやった事といえばこれだけに過ぎなかった。
「……まずいな」
そんな言葉が思わず漏れる。
あの惨劇からリオを守りたいと、必ず守るんだと誓ってからその為に必要な事をしなければと思いつつも行動が出来ていない。
やる事、手を回さなければいけないことは山ほどあるし、理解しているはずなのに。
……いや、ダメだ焦ったらダメだ。
今僕が出来ることを確実にやるんだ。そして僕が今やっている事は間違っていないはず。
何より一番時間のかかりそうな試作
自分を磨いて情報のアンテナを張る。今僕が出来る事……何がある。反逆の理由を探る……とか?
「……そうだ、情報収集だ。裏切りの理由がわかったとしてその理由、原因を潰す事が出来ればそもそも裏切りは起きないんじゃないのか」
もしそれが可能なら一番良いに決まっている。
事件が起こる余地が無ければそれでいい。
僕がリオを直接守ると言うわけではなくなるけれども、何も僕はリオに褒められたいわけじゃない。
リオが生きていさえすれば良いんだ。何もない、平和に時が過ぎて夢だった仕事に就く。
それが一番だ。
そのためには情報を集めなければ。でもどうすれば……。
いや、今はとにかくアカデミーに進学する事が最優先だ。
入試をうまくクリアさえ出来れば3ヶ月後にはアカデミーに通うことになる。
動くのはそれからでも良い。
そう自分に言い聞かせて、焦る気持ちを抑え込み僕は入試に挑む。
そして僕は1周目では選ばなかった道へ進む。
一月から僕はリオと、シャルと共にアメリカへ渡る。
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