01-10.進展
「やはり形にするには難しいですか……」
「うむ。これを形成するためには、コレとコレが必要じゃからな。どちらもまだ現段階では研究中の素材じゃしの……うーむ」
学校の衣替えが終わり、夏日が続くようになったある日。僕はアカギ教授と再び会っていた。
僕が渡したデータをもとに研究を進めてくれていたんだけど、なかなか難航しているようだった。
現在より5年後の技術をぽっと手渡された所で、それを簡単に応用する事は難しい。
Aを作るにはBが要るのに、5年後の技術では創れるそのBがこの現代では未だ研究中だったりするからね。
その事は予想出来ていたので、必要な資料は全て渡してある。アカギ教授なら今の現代技術の底上げも容易に出来てしまうほどの手腕を持つ方だ。
けどまぁ、だからといってそう簡単にはいかないんだよな。さすがの教授も頭を悩ませているみたいだ。
「……なるほど分かった。そのようにやってみるわい」
「よろしくお願いします」
これでひと通り持ってきた質問に答え終わったのか、アカギ教授は氷の溶けてしまったアイスコーヒーを飲んだ。
透明なカップから見える色から察するに相当に薄くなっているようで、教授は眉をひそめて首を振った。
アカギ教授に技術の面での質問をされるってすごく変な感じだ……。
「それと例の高性能量産機の開発計画の話じゃがの。試作機を2機先行開発する、という事に落ち着きそうじゃ」
「本当ですか、ありがとうございます!」
前回からそんなに時間は経っていないのに早々に手を回してくれたみたいだ。僕にとっては吉報だよ。
「うむ。まぁ量産機にも当然ながら試作機が必要になるんじゃ。それ自体は難しい事ではなかったがの、30機分の予算をその2機に注ぎ込むと言った時は流石に連中は青ざめておったわい、かっかっか」
連中というのはアカギ教授に量産機開発計画を委託した国際連合軍の技術部門の人間たちのことだろう。
国際連合軍からしてみれば、新型量産機を30機注文したはずが、蓋を開けてみたら新型
国際連合軍という巨大な組織を動かしたんだ、もちろん教授にとっても容易な事ではなかった筈。
それでもこうして話を通してくれたのはアカギ教授としてもガーランド少将の裏切りに危機感を抱いてくれているんだろう。
「して、この機体のパイロットはどうするつもりなんじゃ?」
「僕が乗ります」
僕がそう言うとアカギ教授は苦笑した。
「即答とはの。余程腕に覚えがあると見えるが、実際はどうなんじゃ」
「……相応しいパイロットになってみせます」
5年先の技術で試作
僕には5年のアドバンテージが、防衛学園で磨いた操縦技術がある。何故僕が
学園では操縦訓練の授業があり、簡単ながら戦闘訓練も済ませている。
パイロット育成クラスになるともっと操縦訓練を専攻する形になるんだけどね。
1周目のこの時点ではまだ操縦すら出来なかったけど、今の僕なら出来る。それはかなり大きな事だとは思う。
けどそれは同級生からしてみれば、という話で、実戦経験もない。ガーランド少将の実力の足元にも及ばない。
数年後に僕は強力な機体に相応しいパイロットになっていなければならない。
そして敵はガーランド少将だけじゃない。
〝女傑〟ドィカウスケート大尉も裏切ったわけだし、彼らが率いていた軍隊もどうにかしないといけない。
あれ? そういえばドィカウスケート大尉って今は学生じゃなかったか?
確かすごく若かったような……。まぁそれはいいか。
仮令(たとい)ガーランド少将と一騎討ちで勝てる方法を得たとしても、あの軍団も退けなければいけないんだよな。やる事は山積みだ。
「うむ。機体の事はこちらに任せて君は自身の腕を磨いてくれ。まぁまたこうして相談には乗ってもらうがの」
「はい、もちろんです。ありがとうございます」
「それで、一応2機の試作機の開発を進めることになるんじゃが……片方はコータ、君が乗るとしてもう一機のパイロットはどうするんじゃ? その幼馴染の子か? 聞くところによると相当なノビシロがあるようじゃが」
「いえ、彼女には1周目と同じく〝ライラック〟に搭乗してもらえたらと考えています」
リオにはパイロットの素質がある。
操縦技術がそこそこの僕よりもずっと〝ライラック〟を手にする事ができる確率が高いはずだ。
こちらも試作機2機の製造に着手するとはいえ、ガーランド少将が駆っていた〝ダリア〟や〝ライラック〟は強力な機体だ。敵の手にわたる事は極力避けたいので、なんとしても手に入れたい。
つまり素質があるパイロットがもう一名必要だ。
いや、パイロットは何人居ても困らないのではあるけど。
例えばお金さえ積めば傭兵を雇う事は出来る。
戦争で生計を立てる民間の傭兵派遣会社や自警団などが、世の中には居るから。
それらの人に依頼すれば喜んで味方になってくれるだろう。
けれどそうして得た味方との信頼関係は所詮は金でしか繋がらない。
もちろん共闘を重ねれば信頼関係も生まれる事もあるだろうけど、今回の試作機のパイロットに当てがうには適さない。
僕の意図を汲んでくれたアカギ教授が僕に問いかける。
「ふむ、では他に当てがあると?」
その問いに僕は頷く。
「はい。僕の親友です」
僕は未だ出会っていない親友の顔を思い浮かべた。
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