01-08.閃き
一限目の体育をなんとか乗り切り、1日の折り返し時点の昼休みになった。
早朝トレーニングの後の体育も、5年前に受けた授業も全てがあの事件につながっているんだと思えば何とか気を保つことが出来た。
分かりきっている授業内容でも復習の意味もあるしね。アカデミーの入試は必ずクリアしなければならないので吸収できる知識は少しでも吸収していきたい。
と、なんとか自分を律して午前の授業を終えた僕は弁当を注文することを忘れた自分を恨みながら購買部に向かっていた。
僕たちが住む孤児院施設では昼食用に弁当が出るけど前もって注文をしておかなくてはならない。
それを忘れると学校が運営する購買部で軽食を購入して食べる事になるんだけど、購買部のラインナップはレーションなどの非常食がメインで、パンなどは数が少なく人気があるのですぐに売り切れてしまう。
数ヶ月前まで戦争していたということも影響して、食糧価格は高騰しているし何より貴重だ。
もともと僕は食べられるだけマシだと思える
四限が長引いてしまったしどうせレーションしか残ってないだろうなと、半ば諦めてとぼとぼと購買部へ向かう。
そんな僕を見て、同じクラスのリオが「レーション好きじゃなかった?」と首を傾げつつ、自分の弁当を分けてくれると言ってくれた。
可愛くて優しいとか最高の幼馴染を持ったよ僕は。
そんな事を考えながらも到着する。
見ると購買部前に人だかりが出来ている。
どうやら昼食を購入するためのものでは無さそうだ。
その人だかりの中心にいる人物を見て僕は思わず駆け寄った。
「おい、謝れっていってんだ。聞いてんのかよ、おい」
「す、すみませんでした」
人だかりの中心にいたのはボサボサ頭に太眉毛。
中学生とは思えないあごひげに黒縁メガネ。見上げるほどの大男、あれは確か隣のクラスの……ええと、名前は忘れたけど本人曰く、本気で暴れると結構ヤバい合計六段がどうのこうのっていう、まぁどの学校にも1人はいそうな力こそ全てだと勘違いしてる系の不良だ。
そして絡まれてる方。彼は僕の施設のふたつ下の後輩、一年生のシンスケだった。大人しいシンスケは不良に何やら詰め寄られており、至極萎縮した様に平謝りを繰り返している。
……あ、思い出した。タケだ、確か。違ったかな。まぁいいか、違ってても。
タケはでっぷりとした腹を揺らしてシンスケを見下す様に睨みつけ、その取り巻き数人はそれを見て嘲笑していた。
周りで遠巻きに見ている生徒も助けに入りたいけど入れない、そんな状況みたいだった。
「は? 人の足踏んどいて言葉だけで済まそうってのかよ。おい」
「え、あの、ど、どうしたら……」
「土下座だな。それと、分かるだろ?」
タケは自身の人差し指と親指で丸を作って見せた。要は金を出せと言っているようだ。
シンスケは涙を流しながらポケットから財布を取り出す。それをタチに差し出そうとした所でなんとか2人の間に身体を滑り込ませる事が出来た。
「どうしたシンスケ」
「コ、コータくん……僕が先輩の足を踏んじゃったんだ」
「本当か、タケ。怪我は?」
いきなり第三者が割って入ってきた事に驚いたタケが言う。
「あ? なんだてめぇ? 怪我があったかどうかは問題じゃねぇだろう、あ?」
「怪我はないんだな? わかった」
シンスケがタケに怪我をさせてない事を確認すると、すかさずシンスケの手を取りこの場を早く離れる。
タケは粘着質で有名なヤツだ。1周目も含めて絡んだことは無いけれど、時々こうして揉め事を起こす様なヤツなので一方的に知っている。
もし頭を下げたとしてもその行為すら笑い飛ばすようなクズだ。
身体が大きく、力も強い。たったそれだけでスクールカーストの頂点に居るんだと勘違いする様などうしようもないヤツだ。後輩いじりや女子生徒に対する陰湿な嫌がらせなど常習的にやっている。
……数年後に女子トイレで盗撮したとかで捕まる事になるんだけどね。学園に通っている時にそんな噂を聞いた。本当に救えないヤツだ。
そんなタケとは深く関わらない方が良い。どう対応してもイチャモンをつけられるのであればこの場を離れるのが一番だ。
が、もちろんそんな事を許すタケでは無い。
「おいてめこら話は終わってないぞ、お?」
後輩を庇う様な行動をした僕が気に入らない様子で声を荒げる。不安と恐怖が入り混じった表情をしたシンスケの背中を押して彼を人混みに紛れさせた。
「後輩を庇って正義の味方気取りかおい!!」
別に正義の味方ぶるつもりはさらさらないけど、コイツが悪なのは確かだ。僕の肩を掴むタケの毛深い腕を払いつつ僕は低い声で言う。
「アイツも謝っていたじゃないか、許してやってくれ」
「はっ! だから足踏んだアイツが悪いっていってんだよ! 謝りすらないのかよ!」
「いや、謝ってたじゃないか」
「だから謝れって!!」
あー、ダメだ。コイツ、頭に血が上って話にならない……。
シンスケがかわいそうで思わず割って入ってしまったけど、タケがこんなに面倒なヤツだとは思わなかった。
1周目の僕ならこんな大声を出されてもしかしたら萎縮してしまっていたかも知れないけど。
ある程度の経験は積んでこれたからタケに対して一切の恐怖なんて感じない。防衛学園の鬼教官の方が百万倍怖いし、何より学園にはコイツより陰湿なヤツらで溢れていた。
それに比べれば可愛いものだ。もちろん
けれど噂通りの粘着質なヤツみたいだな、どうしたものか……。
と、タケが動いた次の瞬間。
『――』
「っ!?」
瞬発的に僕の身体が動いていた。
「――えっ」
カランと金属音がしたかと思うと、廊下に何かが落ちた。
「……? ……あ、あがががが……ぎゃぁぁぁぁぁあああ!!」
タケは自身が置かれた状況に気がついた。
手首はあらぬ方向に折れ曲がり、みるみる紫色に変色していく。
激痛にのたうち回り、表情は青ざめて額には脂汗がにじんでいる。
訳がわからず足元を見る。
ナイフ。……ナイフ!?
コイツ、ナイフで僕を刺そうとしたのか!?
気づいたら僕はタケが繰り出したナイフをヒジで叩き落としていた。
そう思っていると騒ぎを聞き、駆けつけた数人の男性教師が間に入り、タケが取り押さえられた。
怪我をしているのはタケなんだけど、まぁ状況から察してくれたんだろうな。
その後、警察やら救急車やらが来て、もう学校は午後の授業どころじゃなくなってその日はそのまま下校とあいなった。
警察による聴取などを終えた僕が解放されたのは夜9時を回ったところだった。
僕は施設まで送ってくれた警察の方にお礼を言ってから施設の門をくぐった。
「コータ!」
すると僕の帰りを待っていてくれたのか、リオが駆け寄ってきてくれた。
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