01-05.行動開始
「宇宙に移民していった人が住む巨大宇宙ステーション。これがコロニーだな。で、宇宙にあるコロニー群はいくつある、ヤマシタ。……そう、月にあるコロニー群を含めて12だ。それぞれのグループに名前が付いてるからしっかり覚えておけよ」
僕がタイムリープしてきてから今日で1週間が経った。僕を取り巻く環境は正に中学時代そのもので、クラスメイト達など5年ぶりに見る顔ばかりで懐かしさすら感じている。
5年前に受けたであろう授業を聞き流しながら僕はこれからどう動くべきか思考していた。
中学卒業後はアメリカのアカデミーに進学する。アカデミーは国際連合機構屈指の難関校だけど、今の僕の学力なら問題なく試験はクリア出来る……と思う。一応、1周目の時にはそれなりに勉強してきたつもりだし。
まぁでも少し不安なので、リオの試験勉強を手伝うついでに僕も復習しよう。さすがにこの年のアカデミーの入試問題は知らないから自力で行くしかない。
1周目でリオは何なくクリアしているんだし、僕も防衛学園を主席で卒業するくらいの知識はあるんだ。油断しなければいけると思う。多分、恐らく。
……まぁそれはいい。
それよりもこのまま何もせずに入試を迎えるわけには行かない。あの事件に向けて出来る事はやっていきたい。
僕は担任の歴史教諭にバレないようにスマホを取り出して〝ある人物〟のSNSを開いた。
その人物に連絡を取るためだ。僕はその人物に接触しなければならない。なるべく早くに。
それにただ会うだけではいけない。それなりに準備をして行かなければ話すらしてもらえないかもしれない。
けど北海道か、遠いなぁ……。
両親が遺してくれた遺族年金があるとは言っても関東からの移動費はやっぱり痛い。
けどこれは必要経費なんだと自分に言い聞かせてリニアトレインのチケットを予約した。
◇
次の日、僕は北海道に来ていた。
基本的に体調が悪くない限りはズル休みなんてすることが無い僕に、リオがどこに行くんだとめちゃくちゃ問い詰められたけど。
「……キミかい? ワシにメールを寄越したのは」
声をかけられ振り返る。どうやら目当ての人物が来店したようだった。僕は
「はい。お忙しい所、お呼びたてしてしまい申し訳ありません、教授」
白髪混じりの頭髪、それと立派な口髭を蓄え、カフェに似つかわしくない白衣を羽織った中肉中背のこの男性。
彼こそが
僕が1周目で大変お世話になった恩師、なんだけどこの2周目では初対面だ。
僕は失礼の無いように気をつけながら挨拶をする。アカギ教授は僕たち学生と気兼ねなく話をしてくれるような砕けた人物だけど、本来要人扱いされるような大変著名な方だ。こうしてただの中学生の、それも得体のわからない初対面の僕と会うなんて事は余程のことがない限りはあり得ない。
そんな教授に会うにはどうしたら良いか考えた僕は最近アカギ教授が発表した論文の問題点を意見文にまとめて提出することにした。
研究熱心で、ストイック。更には探究心が強い方なので自身の論文に対する反論(もちろん有意義な)には積極的に向き合う人だ。
それをSNSのダイレクトメールで送ったらぜひ会いたいと教授の方からおっしゃってくれた。
「いや、それは構わんのだが、あの仮説の問題点を指摘して来たのがこんな子供だったとはの。いや驚いた……」
「いや、その……はは、そうですよね」
実は先日アカギ教授が発表した論文には問題があり、数年後その問題を解決する方法が発見される。
未来を知る僕は当然そのことを知っているので、それをそのまま指摘したんだ。
少し卑怯な気もするけど、その改善策を見出したのは他ならない僕だ。自分がやった事だし、と自分に言い聞かせておくことにした。
簡単な自己紹介を終わらせた僕とアカギ教授は窓際のローテーブル席に移動して腰掛け、しばらくはその論文について話し合った。
アカギ教授は中学生である僕の意見にしっかりと耳を傾けてくださり、時折笑い話などを交えて議論した。
「いや、驚いた。キミは本当に中学生か? 私の助手にならんか、キミとならいい研究が出来そうじゃわい」
そう言ってアカギ教授は破顔した。本当に豪快に笑う人だ。
この人の周りに人が集まってくるのは
僕も在学中はアカギ教授の助手として研究に加わっていたけれど、本当にお世話になったものだ。
キミが月から帰ってきたら一緒に酒を飲もう。
そう言ってくれたアカギ教授の笑顔は今でも忘れない。
1周目での赤城教授との思い出が蘇り、少し感情が込み上がって来てしまった。
ダメだ、感傷に浸るためにアカギ教授に会いに来たんじゃない。僕は手提げカバンから液晶タブレット端末を取り出し、少し操作してからテーブルに置く。
「ははっ、僕もそう思います。……アカギ教授、今日の本題はこちらです」
「ん、履歴書か? はは、用意が良い…………」
頭にずらしていた老眼鏡をかけてタブレット端末を覗き込んだアカギ教授の動きがピタリと止まった。
そして慌てて端末を手に取り文字や計算式の羅列を読んでいく。
アカギ教授の眼球が左右にすごいスピードで流れていくのを見て少し愉快な気分になった。
「き、キミ、これは一体、この式をキミが求めたというのか!?」
教授は驚嘆の声を上げると猛烈な勢いでタブレットを手に取り画面に張り付いた。
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