01-03.思案

 


 リオと下校して久しぶりに帰ってきた孤児を預かる国営施設の自室のベッドに僕は寝転んでいた。


 五年も経つと見慣れていたはずの天井すらもなつかしく思えてしまう。


「やっぱり……僕はあの頃に戻ってきてる」


 僕はそう確かめるようにつぶやいた。

 こうして口に出してみると今僕が置かれていることの異常性を再認識してしまう。


 けどそうとしか思えない。


 スマホやテレビ、新聞などの日付けは五年前のそれになっている。


 決定的になったのは、施設の管理をしていた最年長の先生がご健在だったという事だ。

 その先生は2年前……僕が18歳の時にご病気で亡くなられてしまった。僕は学校を休んでお葬式に参列させてもらったからよく覚えている。


 けれどその先生が元気に働いていらっしゃった。思わぬ再会に僕はその先生に飛びついてしまった。あまりにも嬉しかったから。


 リオと、その先生との再会で僕は時間を遡って来たんだと確信した。亡くなった人物と再会するというのはここまで衝撃的なのかと思った。


「……」


 僕は天井を見ながら考える。


 もし前回と同じように・・・・・・・・時間が過ぎていって軍に入隊するとしたら、また同じ事が起こるのだろうか。


 僕とリオが死ぬ未来が待っているのだろうか、と。そうだったとしたら、僕はそれを全力で阻止しなければならない。あんな未来が待っているのなら軍になんか入らなければいい。

 

 では整備士の夢を諦めるか。それは出来る。死ぬよりはマシだ。

 けどリオはどうなる?

 亡き両親の背中を追ってパイロットを夢見るリオになんて言って諦めさせる?

 

 五年後にガーランド中将が裏切るからパイロットになってはいけないと?


 まさか。目の当たりにした僕ですら未だに信じられない事をリオが信じるだろうか。それもまだ見ぬ未来で起こる出来事をだぞ。


 そんな見てもない信じられない事を理由に唯一の目標と言っていいパイロットの夢を諦めさせるなんて出来るか?


 僕が言えばリオは諦めてくれるかもしれない。それに命あっての物種だ。どれだけ頑張ってパイロットになったとして待ち受けるのはあの残酷な運命だ。


 ……だけど、なぜリオが夢を諦めなければいけない?


 小さい頃からずっと願っていた夢を、リオが諦めなければいけない理由があるだろうか。終戦後、専用機の配備が決定し、月での任務にあたる事が決まったと言ったリオは電話口で涙を流して喜んでいた。

 その夢を諦めさせるのか。


 ……理不尽だ。


 確かに死んでしまっては元も子もない。けれど、だからと言って……。

 

「……そうか」


 僕は身を起こすとそう呟いた。


 もし、ヤツらが裏切らなかったら?

 

 思い出せ。アイツらはリオになんて言っていた?

 確か、新型MKモビルナイトを奪った後にレイズに渡り新国家建国のために動くと、そう言っていたよな。


 国際連合に不満があるのか、思想か、単に金か。理由はどうであれ、裏切り自体を阻止出来れば……。


 不可能だ。僕はただの学生。それも今はなんの力も持っていない中学生だぞ。そんな僕に何が出来る。


 いや、待てよ。僕は防衛学園で何をしてきた、何を学んできた。

 科学の最先端の現場でMKモビルナイトのノウハウを一から学んだじゃないか。

 

 それに、あんなめちゃくちゃな学園だったけど僕には友人がいた。彼らの協力を得られればもしかしたら事態を動かせるかもしれない。


 今はまだ出会ってない・・・・・・・・・・けど、1周目ではあんなに打ち解けていたんだ。もう一度彼らと友人になる事くらい出来るはず。


 それにあの新型MKモビルナイトだ。あくまでも聞き及んだ範囲でだけど、あの機体のスペックは既存のMKモビルナイトのそれとは比べものにならないスペックだったはずだ。

 完成したあれを奪うためにあの日を選んだ可能性もある。


 あの新型MKモビルナイトを何とかしなければ。

 

 通常、MKモビルナイトの開発には多大な資金と時間とマンパワーが必要となる。

 さまざまな思惑と事情が入り混じった背景があるために僕個人の意見だけで開発を阻止するなんて出来るのか?

 敵はあまりにも大きい。僕ひとりで動くには限界がある。

 

 ……待てよ。僕にあの新型が配備されるとしたらどうだ?


 そうすれば最悪、あの事件当日にMKモビルナイトに搭乗できていることになる。

 リオの機体と合わせて二機。新型が二機あれば何とか対応出来ないか?……いや、そんなことは無理だ、と思う。現実的じゃない。


 相手は国際連合の英雄〝聖騎士〟ジョナサン・ガーランド中将だ。その実力はレイズの一個大隊に匹敵するなんて言われている人だ。

 それにもうひとり、〝女傑〟エディータ・ドゥカウスケート大尉も。彼女も軍を代表するパイロットのひとり。


 アカデミーを主席で卒業し、新型まで配備される優等生のリオですらあのガーランド中将の相手にすらならなかった。


 残念ながら僕のMKモビルナイト操縦の技量は並だ。もし僕が運良くそこまで上り詰めることが出来たとして、僕が加わったとしてなにになる?

 一騎当千のガーランド中将と〝女傑〟と名高いドゥカウスケート大尉に2人で立ち向かうだなんてそれこそ無謀だ。


 しかし今はうまい作戦が思いつかない、だけど1周目の僕には力が足りなかった。

 あのリオに守られている時の気持ちを思い出せ。まずは僕もそのステージに上がらなければならない。


 それに独立国家を建国するために兵器を奪っていった。あんな虐殺じみた事を平気でやる連中だ。平和的な手段で事を運ぶなんて考えられない。必ず戦争が起こる。


 せっかく大戦が終結したばかりなのに、また戦争を起こさせるわけにはいかない。


 そのために僕がする事は、一つだ。


「よし」


 僕はベッドから降りるとリオの部屋へ向かった。


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