第19話 協力の重要性

作戦会議の結果、陣形は彼女が前で俺が後ろ。

さっきの様子から前を任せるのは少し不安で最初は俺が前に出ると言った。

だけど「私が前に」と言われた。


ということで彼女が前に出て剣で、俺が後ろで魔法を撃つということになった。

あとはお互い、木々の奥も警戒するようにと話した。


正直言えば木々の奥からも魔物が出てくる以上、この陣形がどれほど役に立つのかという疑問もある。

だけど協力している。今までになかったことだ。

前進している。


それと見つけた魔導具に布を被せたら、光がなくなった。

これで一つ。



森の迷路を進む。


「あそこに魔導具が」

行き止まりの通路の奥に魔導具があった。

そこそこ高い木の上にあり、枝が魔導具を守るように囲っている。


「私が行く」

そう言って木に登っていく。


「っ」

スカートがひらりと揺れている!

咄嗟に視線を外す。

こんなときでも俺は、ああもう!

集中しないと。


彼女が魔導具に布を被せているとき、俺は周囲を見る。

確か前のときは布を被せようとしたときに魔物が来たからな。


なら今度もたぶん。

「魔物だ! 俺たちが来た方向から」


予想は当たった。

一つの目標を達成しようとしたら何かが起こる、まさにゲーム。

ゲーム味を感じながらしっかりと対処を考える。


この距離なら魔法で対処できる。


「風玉」

風をぶつけると魔物は消えた。

一撃で消えるから防御は固くない。


攻撃力はどうなんだろうか、受けたことがないからどれぐらい痛いのか分からないのは怖いな。

いや考えている場合じゃない、周囲を警戒しないと。


彼女が布を被せ木から下りるまで警戒したが他の魔物が来る気配はなかった。

「戻ろう」

そう言って来た道を戻る。

残りあと3つ。



「いるな」

曲がり角から顔をそっと出してみると魔物が徘徊していた。魔導具に布を被せるごとに魔物が増えている気がする。

ひとまず彼女に周囲の警戒をしてもらって俺は魔法を撃つ。

一撃で消える部分は変わらない。


だけど油断はできない、一撃で倒せない魔物が現れても不思議じゃない。気を引き締めよう。


彼女も変わらず周りを警戒している。警戒し過ぎて余裕がなくなってもいるけど。

何か言うべきだろうか? 

でも緊張をほぐす言葉……止めとこう今は周りに集中しよう。




足を進めていると中央らへんに木が一本あるだけの場所に出た。独特な地形だな。


「あそこに魔導具が」

見つけたらしい。彼女の指が示す先を見る。


「えっ」

魔導具は中央にある木の上にあった。

さっきの木と違い結構高く木自体も頼りない細さだ。


「私が布を被せに」

「ちょっと待って」

彼女が動き出しそうなのを言葉で制する。

木の周りの地面を見るとちょっと色が違う、ような気がする。周りの木々のせいで薄暗くて見えづらいな。


試しに魔法で作った石を投げてみると、徐々に石が沈んでいった。

落とし穴、いや沼のほうが近いか。底なし沼かもしれない。


「最初から気づいて?」

「いや、石を落として分かった」

なんとなく何かありそうだったから石を落としただけだ。

中央に一つだけ木があるっていうのも違和感あったし、何より木の上に魔導具はさっきも見たからな。


「とりあえず近づくのは危険だ」

木も頼りなさそうで折れるかもしれない。

上から落ちて沼に引きずり込まれて死ぬことはないだろうが、俺か彼女が沼に足を取られている間に魔物でも来たらピンチになる。


そうだな……近づかないで布を被せるだけならあれでいけるか?

「周囲はお願い。風を使って布を飛ばしてみる」

彼女は頷いて周りを見始めた。


布の枚数は俺と彼女で5枚ずつ持っていて合計10枚配られて、今は2枚減って8枚。


残りの魔導具は目の前にあるのを含めて、あと3つだから余裕はある。

あるんだけど失敗したらどうしよう。

いや、やるしかないよな。


ウィンド

布を風に乗せて運んで、魔導具に被せる。


「危っ」

思ったより風が強く、布があらぬ方向に飛ぶ。

すぐ逆に風魔法を当てる。

布が空中で奇妙なダンスを踊っている。

ううっ、調整が。部屋だったら上手くできていたんだけど。


すると足音が聞こえてきた。まずい魔物。

来るとは思っていたけどこんなときに。どうする、一旦止めて対処したほうが。


「魔物は私が」

「……ああ」

そうだ協力すると言ったのは俺だ。

なら彼女を信頼して俺はこれに専念したほうがいい。


気持ちを落ち着かせ目の前の布に集中する。

布は千鳥足になりながら魔導具に近づきつつある。

うっ、近くに魔物がいる。いや集中しろ! 

「っっ、よし!」

布が魔導具に覆いかぶさる。

数秒後、魔導具の光が消えた。


周りを見る、魔物はいない。

彼女も見る、疲れているけど怪我はないように見える。


「ふぅ」

体から力が抜ける。無意識のうちにかなり強張っていたようだ。


「助かった、守ってくれたおかげで集中できた」

「協力するって言ったので。ふぅ」

彼女は息を整え、布がかけられている魔導具を見た。


「……」

我ながら上手くいったと思う。まさか一発成功できるとは。


「また来た」

彼女が示す先に魔物がいた。


「ああ」

俺たちは光を失った魔導具から視線を外して魔物と対峙した。




その後も何度か魔物と出会い、ほとんどが奇襲一発で終わったが数体まとまって行動しているのもいた。

そのときは最初に俺が撃てるだけ撃って、近づいてきた魔物をフリートさんが切るという戦法を取っている。


それを繰り返してなんとか魔導具を見つけて布を被せることができた。

4つ目の魔導具はこれみよがしに怪しい小さな洞窟の奥にあった。

人1人が匍匐前進してやっと入れるような場所だ。

彼女が行くと言ったがそれを止めて俺が洞窟に潜った。

なぜならスカートがめくれて、俺の気が散るから。


順調に4つ目にも布を被せることができた。


怪我らしい怪我はないまま4つ見つけて、彼女とも協力できている。

最初にしたチームの授業とは雲泥の差。


ただ、さすがに疲れてきた。彼女が地面に膝をつくことも2度、3度と増えている。

元より言葉少ない空間もさらに少なくなりながらも慎重に歩き続ける。


「あれ、魔導具?」

彼女から話かけられた。


「うん、光っているからそうだと思う」

この迷路のラスボスが陣取っていそうな開けた場所の奥、光を放っている謎の物体がある。遠くて分かりづらいけど魔導具だろう。

問題はその道中に魔物が数体いる。2体程度じゃない、5体以上はいる。



「さっきと同じように俺から撃つ」

彼女の頷きを見てから、魔法を撃つ。使い慣れた風魔法は吸われるように魔物に向かい体を霧散させた。

すぐに複数の視線が俺たちに向いたような気がする。

あの魔物たちに視線があるのかは知らないが、その感覚が事実だと言わんばかりに魔物が向かってくる。


「っ!」

彼女は正面に出て剣を振り、俺も魔法を撃って援護した。



「はぁ、はぁ」

ちょっとだけ苦戦した。魔物はいつも通り一撃で消えたから特段強くなってはいない。

ただ、俺たちの疲労のせいで上手いこと動けなかった。

早いところ終わらせたほうがいい。


俺は周囲を警戒、魔導具近くにいる彼女に布を被せてもらう。

何もなければこれで終わり……いやこういう考えはしないほうがいいか。


「……なんで」

魔導具のほうから驚愕と疑問が混じったような声がした。


魔物が周囲にいないことを確認して、嫌な予感を感じながらそっちに視線を向ける。

見ると魔導具には布がかけられていて綺麗に光っていた。

いつもなら徐々にではあるが光は失われるはずなのに。

今は照明のように光続けている。


これは、どうすればいいんだ。待てばいいのか?


ん? 音がする、でかい足音だ。方向は、木々の中からする!

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