第18話 迷路
朝起きて軽く運動、授業を受けてご飯を食べて、そしてギルドの依頼ということを繰り返して数ヶ月。
振り返ってみれば俺は変わらずボッチである。
フリートさんに挨拶はしているが友達かといえば微妙なところ。
そんな彼女について分かったことがある。
フリート家というのはどうやら貴族界隈で評判はあまり良くないらしい。
なんでも領地運営が上手くいっていないとかなんとか、だから冒険者なんかやっているぷーくすくす的なことを聞いた。
噂話というか陰口だからどこまで信憑性があるかは分からない。
俺以外にも同じように冷たい態度を取って孤立しているから、まあ色々言われるのは仕方ないかなと思うが。
結局、彼女が俺のことを嫌いな原因は分からない。
ただ1つ可能性として彼女は俺が嫌いではなくて貴族が嫌いという線が出てきた。
貴族から嘲笑されている、だから貴族嫌いになって俺もマイナス。
なくはないと思う。
だからといって仲良くなる道筋が見えたわけではないが俺個人が嫌いよりは可能性がある。
そんなことを考えていたら次のチーム授業がやってきた。
「皆さんもそろそろチームメイトのことが分かってきたと思います」
チームを組んでする授業の日。
先生の言葉を受けてチラッと隣を見る。
彼女について分かったことといえば、練習や冒険者活動に熱心ということ。
貴族界隈ではあまり好かれていないこと。
あと強化魔法が得意ということ。迷路のときの速さは強化魔法を使ったからだ。
それぐらい。
「なのでお互いの信頼が大事な訓練をします」
俺たちは最初の授業のようにグラウンドまで移動した。
そしてグラウンドも最初の授業のように森の迷路みたいなのができていた。
「今回の課題はこの魔導具を見つけてもらいます」
先生は淡く光っている三角錐の宝石みたいなのを手に載っけている。
あれが魔導具か、出店とかで偶に見かけたことはある。
ただそれよりも綺麗だ。
さすが学園、技術にも素材にもお金もかけているんだろう。
「皆さん見てくだい」
魔導具は半透明の布を被らされた。数秒も経たずに、発していた光が消えていった。
「5つ全部見つけて魔導具の光を消すか、制限時間が過ぎれば課題は終了です」
ルール自体は的を壊すのと同じぐらいシンプル。
的を見つけて壊すから、魔導具を見つけて被すのに変わっただけで。
「そして1つ注意点としてこの森には魔物が出ます。本物ではありませんが、攻撃されればそれなりに痛いことは覚悟してください。もちろん魔物は倒して大丈夫です」
魔物か。
本物ではないということは魔法かなんかで出した魔物だろうか。
なんにしろ手が込んでいる。
しかし、魔物が出てくるということは、ますます協力が重要になるな。
大丈夫かな?
「呼ばれたら1人5枚布を受け取って、迷路の入り口で待機して合図がでたら入ってください」
各チームが呼ばれていく。
そして俺たちも呼ばれ、詳しい説明をされてから俺と彼女は5枚の布、合計10枚の布を受け取って迷路の前まで移動した。
グラウンドにある森。
上から見上げればそれほど大きいわけではないんだろうが、子供の目線から見ればとても大きく見える。
大きく口を開いた森は、人を飲み込みそうな迫力を持っている。
入ったら永遠と迷いそうだ。
「フリートさん迷路に入ったら協力を、ん? 大丈夫?」
「なっ、なんでもない」
彼女は顔が引きつっているし、汗も出ている。緊張しているのだろうか?
合図が出て、彼女は先に足を進めた。
続いて俺も迷路に足を踏み入れた。
完全に迷路に入ると入り口に木が生えてきた。前と同じく閉じ込められた。
木が連なっているだけだから、出ようと思えば出られそうだけど、もちろん駄目だろう。
それに木の先が暗くなってグラウンドが見えない、何かしらの魔法がかかっているかもしれない。
見えない壁とかあるかも。
「あっ」
なんて考えている場合じゃない、彼女は先に行っている。
ただ、いきなり強化して速く走っているわけではないからすぐに追いついた。
見ると彼女は周囲をキョロキョロと見ている。
本物ではないが魔物がいる迷路、さすがに彼女も特攻する気はないらしい。
しっかりと警戒している。
俺も周囲に視線を巡らせると例の三角錐が目に入った。
地面に転がっている。
森の中には不釣り合いで、周囲からは浮きまくっていて見つけやすい。
「あそこに魔導具がある。布を被せに行こう」
「……」
無視か。
もう一度言おうと彼女の方を向くと、なおもキョロキョロとしている。
「フリートさん? フリートさん!」
「なっ、何?」
「魔導具があった」
「あ、ああ」
これは、無視というより余裕がない?
俺は見つけた三角錐魔導具に近づく。
「布を」被せると言いかけて止める。
足音が聞こえる。これは魔物?
視線を巡らせる。
「いた!」
視線の先、曲がり角から魔物が姿を現した。
二足歩行で人っぽく見えるし、オークみたいにも見える。周りに靄がかかっていて分かりづらい。
魔力で作られているからかもしれない。
「っ!」
「あっ」
彼女が走った。
また1人で。
「はっ!」
彼女は木剣を振り魔物を倒した。
すごい、一撃でやった。
だけどまだ終わりじゃない。
「えっ」
「危ない!」
森の中からもう1体出てきた。
彼女の死角、回避はしているが体勢も崩れている。あのままだと格好の的だ。
「風玉(ウィンドボール)!」
魔法は魔物にだけ当たり被害は免れた。
危なかった。
「大丈夫?」
「ああ、うん」
尻餅をついているが、見た感じ怪我はない。
そうだ、今こそ協力の重要性を話すべきじゃないのか?
「今みたいに1人じゃ周囲を見きれない状況もある。だからこそ協力が必要だと思うけど、どうかな?」
いけるだろうか? 流れ的に悪くないと思う、状況に乗っかった感もあるが。
片手を差し出しながら目を見て話した。
彼女は差し出された手を、握らずに立った。
駄目なのか。上手くいくと思ったんだけど。
「……分かった」
「えっ」
握られなかったはずの俺の手には、彼女の手があった。
「……協力、するよ」
「うん」
よし!
「ならどう協力するかだけど」
俺たちは周囲を警戒しながら、なるべく素早く作戦を立てた。
時間を食ってしまうが仕方ない。
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