第32話 成果
大分と寝ていた。
寝てたというか気を失ったというか。
ベッドから降りてちょっと体を伸ばしたり動かしたりする。
うん、動く。
傷は、おっ治ってる。
さすが異世界。
傷薬とかに薬草の効果でもあったのだろう。
これなら外に出れる。
扉に手をかける。
「ふー」
外がどうなっているかは分からない。
でも、俺がここにいるということは。
「はっ!」
勢いのまま扉をあける。
見えた風景は、木の家と森。
ボロボロの家もあるが、森から離れた家は残っていた。
人もいる、必死に何かを運んでいる。
「大丈夫だったか」
落ち着いた声、だけど威圧的でもある声。
「フリートさん。来てたんですね、と」
もう一人いた。凛とした立ち姿、だけど雰囲気はフリートさんと似ている。
「初めまして、リディア・フリートです」
リディア? どっかで聞いたな。
「私の娘でフリート家の当主だ」
俺の疑問を知ってか知らずかフリートさんが教えてくれた。
「は、初めまして。リージス・スモールディアです」
偉い人だ、緊張する。
「そこまで緊張しなくていいですよ。リージスさんは村にとっての英雄です、私たちにとってもね」
英雄?
「そんな大したことはしてないです」
「謙遜を、魔物襲来を防いだのですから大したことです」
「ん?」
襲来を防いだのか?
疑問顔と沈黙で察したのか、フリートさん、いやフリート当主はゴソゴソと荷物を漁ってとある物を取り出した。
「これに見覚えは?」
「あっ、宝石」
俺が森で壊した宝石だ。
「これが魔物襲来の原因と思われる魔導具です。これには周囲の魔力を吸う効果があるので、それが原因で魔物が異常行動を起こした」
ああ、だから。そういえば魔物が森の奥にいるのは魔力が多くて濃いからだっけか。
「まだ調査中ですから確定はできませんが。たとえ違ったとしてもビッグソイルオークが村まで来れば脅威でした、それを倒したのもリージスさんだと」
ビッグソイルオーク? あのでかい魔物か。そのまんまだな。
「感謝しています。といっても私たちができることなどないのですが」
「いえ、そんな。大丈夫です」
欲を言えばお金は欲しい。でもまあ依頼料はもらえるだろうし。それで十分か。
「では、これで」
「はい」
2人は踵を返す。
「スイラのこと」
去り際、フリートさんが口を開いた。
「仲良くしてやってくれ、無理にとは言わないけど」
「あ、はい」
仲良くするつもりはある、俺は。
さすがに最近は彼女も仲良くする気はあるだろうとは思っている。
「なら、良かった。あともう一つ、帰りの学園までの馬車はこっちが出す。それまでゆっくり休んでいてくれ」
それだけ言って2人は本当に去っていった。
「はぁ」
ちょっと疲れてきた。大丈夫かと思ったけど、まだ疲れ抜けきっていないかも。
また休むか。
帰りの心配もなくなったし。
遠くで壊れた家を片付けている人たちの様子に、手伝わなくていいのかなと思いながらも、疲労には抗えずベッドまで戻り横になる。
そのまま意識は深い場所に落ちていった。
次の日には帰りの馬車が用意されていた。
準備が速い。
俺は馬車に乗る。
言った通り帰りも送ってくれるらしい。
まあフリート家の人間は一人もいないけど。
乗っているのは俺だけ。
ということで俺が乗ってすぐに馬車は動き出した。
行きのときには見られなかった風景が視界に映る。
人がいて、建物があって、ボロボロの家は遠くにあったけど村ではあった。
そこには、生きている村があった。
馬車で送られ無事、学園がある町まで帰って来れた。
馬車を降りて、町の景色を久しぶりに見れたときは安心感がすごかった。
旅行に行って、帰ってきたときと似たような感覚。
ギルドにも寄らず早々に寮に戻ったら色々片付けて、すぐ横になった
長旅は疲れる。
それから色々あって、いつも通り俺は練習や依頼を受けていたら夏休み、もとい長期休みが終わった。
村での魔物襲来以外は、とりとめて何もなかった。
魔物襲来が特別すぎた。
でもあれのおかげといっていいのか分からないが、俺は得るものがかなりあった。
「Bランク昇格おめでとうございます」
ギルドで受付の人にそう言われた。
なんでも、俺が倒したビッグソイルオークがAランク相当だったらしい。
ただ、それだけではなく魔物襲来を阻止したことも評価されてのことらしい。
依頼自体が森での魔物討伐と偵察だった、そこから離れすぎない程度に戦果を上げたからランク昇格ということになったのだろう。
俺だけで倒したわけでは決してない、スイラがいてくれたから勝てたが、やはり評価されるのは嬉しかった。
それと手に入れたのはランク昇格だけではなくもう一つ、これも魔物襲来に関すること。
お金が手に入った。
ビッグソイルオークの素材などを売ったお金の一部が俺にも入ってきた。依頼料とは別に。
といってもビッグソイルオークの損傷が激しいらしく大した額ではない。
倒したという証拠があっただけでも奇跡だ。
ここまで損傷が激しいのは十中八九、あの男が最後に放った魔法だろう。
結局、男も亡くなっていたらしい。
男も生きていて、魔物も丸々残っていたらどうなっていたのか。
借金返済が遠のいたな。
まあでも追加でお金をもらえたのはいいことだ。
……人が亡くなっているのに金のことを考えるのか自分は。
なんとも言えない気持ちだが、俺にはそれ以上に不安要素がある。
鱗の件がバレてないか。
魔物を倒したときとか水晶壊したときとか、今思えばバカみたいに使った、傷跡から分かるかもしれない。
といっても確認のしようがないから考えたところでだ。
前世のときに考えても仕方ないことを考えまくった記憶がある。
天に祈るしかない。
一応、すぐ逃げられるように荷物はまとめておこう。
死にそうな思いもしたし不安なこともあるにはあるが、Aランク相当の魔物と戦い勝ち、多くのものを得れた。
俺は。
長期休み後の授業初日、スイラは学園には来なかった。
そして学園、というか貴族の間で飛び交う噂がフリート家の完全な没落だった。
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