第31話 森での実戦2

でかいソイルオークがくる。

3m以上はある。


いや、あれはソイルオークなのか?

ルートウッドがオークの体や頭に巻き付いて、鎧というよりルートウッドが本体みたいになっている。

やっぱり寄生なんじゃないのか、あの魔物。


「っ!」

棍棒が振り下ろされる。


なんとか横に避けることはできたが、まずい。

「リージス魔法で攻撃を、私は近接で攻撃する」

「了解」


いつもの陣形、こぶし風玉を作り魔物にぶつける。

的はでかい。

外れることはない。

風はオークに向かって突撃するが、ルードウッドの鎧に阻まれ霧散した。

厄介な鎧だ。


「うっ」

攻撃を受けても怯まず棍棒を振り下ろしてくる。

でかいからかどこに攻撃してくるのかは分かる。

一発でも当たったら終わりだろうけど。


「はっ!」

ウォオオという叫び声が魔物から上がる。

オークの足元にはスイラがいて剣で攻撃している。

俺が引きつけ続ければいけるか?


「大地の片鱗を行使する土玉ソイルボール!」

彼女めがけて石が飛んできた。

男が撃っている。

まあそらそうか、見てるだけなわけない。


俺は男に向けて風魔法を放ち避けられ、避けた方向に手のひらを向ける。

もう一度と思うとき、棍棒が迫ってきた。


「っ!」

すぐに身体強化して避けようとしたが、当たって木にぶつかった。


「いっ」

鈍い音がした。

背中痛っ。


すぐに体勢を整えて走る。

あぶなかった。

俺1人だったら追撃されてぺしゃんこだった。



俺とスイラは迫る魔物を交互に引き付け、移動しながら魔法を撃ってくる男たちの攻撃を避けて、隙を見て攻撃するしかない。

スイラの攻撃も魔物に通っているが致命傷は与えられてない。


森をさまよったせいで俺たちの体力と魔力はほぼない。

はっきりいってジリ貧だ。


どうする。彼女の攻撃でも倒しきれるか分からない。

それ以上の火力なんて。

いやある、鱗がある。

でも鱗に賭けるとしても魔力消費が激しい、男の妨害にあおうものなら。


男と魔物を一緒に攻撃して怯ませて鱗なら、なんとかなるか。

でも威力がある範囲攻撃なんてない。


ストーンショットは範囲が狭すぎるし数を生成するのに魔力を使いすぎる、風魔法なら範囲はあるが威力が足りない。


こんなことなら範囲攻撃でも覚えておけばよかった。お金稼ぎや鱗の制御に時間を割きすぎた。


「くっ」

何かないか、範囲攻撃。

風魔法に別の魔法を乗っけるとか……あっ。


協力があれば、いけなくはないか?

分からない、でもやるしかない。


すぐにスイラを見つけ、近づく。


「ここにある枝ありったけ強化してくれ」

「えっ」

「強化した枝は地面に置いてほしい、できれば何箇所かにまとめて。あとバレないように」

詳しいことを話す余裕はない。

してくれるだろうか。


「分かった」

頷きも一緒にしてくれた。


「「っ!」」

魔物の攻撃を二人して避ける。


あとは強化した枝を待つだけ。

その間、するべきことは。


「はっ! はっ!」

風魔法で暴風を放つ。

男の詠唱を風で邪魔して、飛んでくる石の軌道もずらす。


もちろん魔物の気もできる限り引くために、威力を上げた風魔法でルードウッドの鎧に傷もつける。

俺は動きながら男と魔物を錯乱させる。


スイラも動き魔物を攻撃しながら枝を強化してる。

バレないようにか転んだとき懐に枝を忍ばせて強化、枝はその場に置いてすぐに立ち上がって動いている。


「うろちょろと」

もちろんこんなことしても力尽きるのはこちらが先だ。

男もそれが分かっているのか、鬱陶しそうにしながらも遠距離で攻撃し続けている。

自分が負けるとは思ってないだろう、その油断こそが俺たちの勝機でもある。


「できる限り強化した!」

よし。


スイラの言葉を聞き、俺は風を起こす。

緊張する。

これからやるべきことは人に対しての攻撃だ、でもやらなければ死ぬ。


「ふー」

ウィンド

さっきまで男たちを攻撃していた風魔法を一気に広げる。


「なんだ?」

男は困惑したが、すぐにこっちを馬鹿にするような顔になった。

もちろんこれだけじゃ何のダメージも与えられない。


でもいい元から風だけでダメージを与えられると思っていない。

風で周りのものを浮かす。


周囲のものが浮かび始める。枝も葉も土も。

家で練習したように、布を飛ばしたときのように。

強化した枝を飛ばす。


「スイラ離れてくれ! できるだけ!」

魔物を引きつけてくれた彼女に警告。

すぐに離れてくれた、相変わらず速い。


「はああああ!」

浮かばせたものを一気に男と魔物にぶつける。


放たれる枝は、弓兵が一気に弓を引いたのかと錯覚するほどの数。


「こんなものっ! ぐっ」

ただの枝ではない、強化した枝だ。一本一本が立派な武器といっていい。

男の腕や足に枝が刺さる。


「グアアアア」

魔物にも効いてる。

だけどただ効くだけじゃダメだ、膝を折って地面に両手をついてもらう。

風で枝のゆく方向を変え、魔物の背後に放つ。


「グアアアアアアア」

後頭部に当たり、背中に当たり、膝に当たった。

両膝を地面につけ、ついには両手をも地面につけさせた。

今しかない!


魔物まで駆ける。

出し惜しみはしない。

身体強化で速く速く動く。


そのまま両膝と両手を地面につけている魔物の腹まで進む。


「っ!」

ツルのようなものが行く手を遮った。

ルードウッドそんなこともできるのか。


「うっ」

ツルが脇腹をかすめた。


少し早いが、鱗を両手に生やす。

これでツルを叩き切る!


「っ! っ!」

一歩一歩進みながら頬をかすたツルを、腹をかすめたツルを、迫りくるツルを薙ぎ払う。


来た! 急停止、地面がこすれ土と草が舞う。

胴体の下に潜り込めた。


鱗の手で扉をこじ開けるようにルードウッドを壊していく。

バリッ! バリッ!

木カスが降ってくる。

ツルは激しく踊り、俺の体を削る。


まだ、まだ、まだ。

見えたソイルオークの緑色の胴体。


「終わりだ」

一気に鱗の手を突き刺す。

肉をこじ開けるように刺した両腕を左右に動かす。


「グアアアアアアア」

土砂降りの血と絶叫が上から襲いかかった。


限界まで手を広げたら、徐々に叫び声も小さくなってきた。


そろそろ逃げないと、あっでも体やばい。

なんかくらくらする。


「あっ」

上から魔物が迫ってくる。このままじゃ圧し潰され。


「大地の片鱗を行使する土壁ソイルウォール!」

瞬間、隣から何かが生えてきた。

魔物が押し上げられる。


「はっ!」

腕を引っ張られた。


「はぁはぁ。んっ!」

地面に転ぶが、意識は蘇ってきた。

視界は良好、たぶん目に血は入ってないはず。

魔物の方を見ると、地面から土の壁が生え魔物を上に押し上げていた。

だがそれも一瞬、すぐに壁は消えて、でかい音が鳴った。


周囲を見る、他の魔物はいない。

男の方どうだ。うずくまっている、枝の当たりどころが悪かったのだろう。


「歩ける?」

「まあ、なんとか。あいつはどうするの?」

男の方を指差す。


「かついで帰る」

パワフルだな。疲れてるだろうに。


ん? 男の好感度が点滅している。

これは。


「逃げるぞ!」

「えっ」

俺はスイラを連れて逃げる。

あれは詠唱だ。いや心唱か。

ともかくあんなに点滅しているなら何かしようとしているのは確実だ。


逃げながら一瞬だけ男の方を見る。

男が手に持っていた宝石が砕け光った。

目を覆うほどの光、後に爆音が鳴った。


光と音に意識を奪われながらも、俺たちは男や魔物から走って離れる。

体力も精神力も魔力もなかったが走った。




途中からはスイラに付いていきながら、変わらない景色を横目で見ながら走った。


しばらくして景色が変わった。

遠くにでかい建物を見つける。

あれは、村で寝泊まりしていたギルド風の建物か。


「はぁ」

森から出られた。


村には魔物がいた。

森から近い建物などはボロボロだ。


だけど対抗もできていた。


「大丈夫ですか?」

どこからか人がきた。村の護衛だろうか。


「私はなんとか、彼を先に見てほしい」

「分かりました。どうぜこっちへ」

言われるがまま付いていく。

魔物と戦っている人たちを横目に見ながら村の奥へ行く。

建物に入ってベッドで横になり、傷薬やらを塗られているとき目の前が真っ暗になった。


目が覚めたのは窓から見える光が水平線に隠れる間際だった。

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