第30話 森での実戦
(スイラ視点)
多い。
前方にソイルオーク、この視線だとたぶん後ろにもいる。
嫌な感覚。
背中に刺さる視線、横にも前にも。
今にも私を殴り殺さんばかりの視線。
ダメだ。
震えそうになる体を律して魔物を睨みつける。
人でも魔物でも怯むな舐められるなと母は言っていた。心で負けたらすべて負けるとも言っていた。
今でもその教えを守っているつもりではいる。
その後に母は魔物の恐ろしさも懇切丁寧に教えてくれた。まだ幼かったころ、寝る前に。
眼の前にいるオークの恐ろしさとか……すっごい余計なこと思い出した気がする。
今はとにかくこの場を切り抜けないと。
右手に持っている剣。強化はしている。
前にいるオークに向かって一気に駆ける。
「ふっ!」
横一閃で2体のオークに剣をぶつける。
道は開けた。
前に敵はいない。
すぐに方向転換して後ろにいる魔物を見る。
「っ!」
思ったより近い!
すぐに攻撃を。
視線を感じた。敵意だ、横から。
「なっ」
フォレストウルフがいた。
でかい。口を大きくあけて噛みつこうとしている。
ああ、いつも目の前の敵に集中すると周りが。
魔法は間に合わない。
咄嗟に左腕でガードする。
ウルフからしたら食べてくれと言っているようなものだ。
すぐに痛みがくるだろうと思っていた、だけど感じたのは飛び散る液体。
出しているのは目の前のウルフで。
「っ!」
そこにはリージスがいた。
(リージス視点)
でかいフォレストウルフを剣で押す、切るというより押すだ。
ウルフは目の前に吹っ飛びオークも巻き込まれた。
思ったより勢いがあった、これもスイラに教えてもらった身体強化のおかげかもしれない。
そのまますかさず魔法も打ち込む。
シンプルな風魔法をウルフ、オークにぶつける。
彼女も剣を手に持ちオークとやりあっていた。
怪我とかはしてないらしい。
奇襲のおかげか怪我もなく戦闘を終えられた。
しかし、あのウルフでかいな。
普通に遭遇していたら厄介だっただろう。
「リージス、大丈夫だった?」
「あ、ああ」
それはあなたの方ではと言う前に彼女の口は動いた。
「何か変わったことは?」
変わったこと、道中あった魔導具が頭に浮かぶ。
「ここに来るまでに、前に授業で使っていた三角錐の宝石みたいなのがあった。魔導具みたいな」
「宝石?」
この反応は知らないっぽいな。
「それはどこに」
「こっちに」
俺たちは走る。
場所は念のためつけた印が役に立った。
宝石のところまで来た。
スイラが不思議な宝石に手を近づけている。
「魔力が吸われるような感覚。これの影響で魔物が村に来てるのか?」
この魔導具が魔物を連れてる? というか魔力を吸う魔導具とかあるのか。
「壊してみる」
俺は周囲を警戒、彼女は剣を使って壊そうとする。
ガンッと音が鳴った、続けてもう一度鳴った。
「壊れない」
水晶玉は小さな窪みこそできたが壊れてはいない。
「どうやって壊そう?」
「うーん」
壊す方法。
……鱗か?
でもこの場で鱗を出すのはどうなんだ。
いや出し惜しみしているような状況でもないか。
「周りの警戒お願い」
俺の方は向かせず、彼女には周りを警戒してもらう。
よし。
鱗を手に纏わせる。
躊躇せず瓦割りをするように宝石に鱗をぶつける。
一瞬の抵抗。
次の瞬間には宝石は砕けていた。
すぐに鱗の力をなくす。
「何が、あっ壊れてる」
音に引きつけられて彼女がこちらを向いた。
見られては、いないっぽい。
これも鱗の力を練習した成果だろう。
すぐに出し入れできる。
「これでどう」
砕けた宝石を手に載せて確認してもらう。
魔力を吸われている感じはないから、魔導具としての機能は失ったはずだ。
「たぶん大丈夫。どうやって?」
「……特殊な魔法で、スモールディア家にしかない魔法で、あまり人に見られるのはよくないかな」
必死に考えた言い訳を言ってみた。
「……そうか。次のところ案内して」
あれ? 思いの外あっさりしてる。
いや探るような視線と、う~んと小さく声に出しながら考えるような表情はあったが。
納得できないという感じでもない。
「分かった」
俺は一言だけ言って、次の場所に案内する。
変に追求される前にどんどん行こう。
案内した先でも俺が壊すことになった。
彼女は周囲を警戒してくれている。
それと俺が壊すときも、こっちを見ないでいてくれている。
「もうそっち向いても大丈夫?」
「大丈夫」
その聞き方なんか微妙だな。
まあ別に言わないけど。
その後も壊し続け、見つけたやつは全部壊した。
数として5個。
残骸は袋に入れて腰にかけて持ち歩いている。
なんか既視感あるな。
一緒に森で魔導具探し。
ただ授業と違って時間がきたら木がなくなって出口ができるなんてことはない。
歩き続けるしかない。
「村の方向って分かる?」
「奥すぎてあまり……とりあえずあっちに」
スイラさんも分かってないのか。
それでも何も分からない俺が先導するより、実家である彼女に付いたほうがいいだろう。
森を歩く。
「はぁはぁ」
さすがに疲れてきた。
それなのに風景はあまり変わらない。木と土と葉、茶色と緑が行ったり来たり。
魔物との戦闘、遭難、そして魔導具の破壊。
体力的にも精神的にも、なにより魔力的にも厳しい。
あの鱗出す魔法は、魔力消費が結構ある。
出してすぐ引っ込めているけど、それでもだ。
もしかしたら出し入れするのが一番魔力を食っている可能性もある。
彼女が近くにいる以上そうせざるおえないから仕方ないけど。
すぐ村に帰って状況が知りたい。
魔物が来ているのか。村はボロボロになっているのか。
「おっ」
スイラの片腕が行く手を遮るように目の前にあった。
「魔物がいる」
もう片方の手で指さしている。
確かに魔物がいた。
オークで数は2体。
「魔法で攻撃する」
俺は魔法を撃つため手のひらをオークに向ける。すぐ倒して先に進まないと。
「待って、なにか音が」
「音?」
耳を澄ましてみる。
風の音、葉が擦れる音、何かの足音。
これのことか? 見えている魔物の足音ではない。
というか徐々に近づいている気が。
「あっちに人が」
彼女が指さしているのは、魔物がいる方向とは逆方向。
180度体を回転すると人がいた。
全身を覆うほどの黒く赤い模様が付いたフード付きマント、これだけでも怪しいがさらにフードを深くかぶっている。
怪しいを擬人化したらああなるのかもしれない。
あれっ、なんか見たことあるファッションだな。この感じはゲームの記憶。
男がごそごそと自分の荷物をあさっている。
「何を……っ!」
男の手には森でよく見かけた、三角錐の宝石があった。
あいつがやってるのか。
「まずい、魔物に気づかれた」
「え」
魔物の方を見たら、ばっちり目があった。
方向が違ったから、いや言い訳はあと、とにかく魔法を。
手を突き出し、風を放つ。
魔物に命中……よし倒れている。
ただ間違いなく男にはバレた。
「そこで何をしている!」
彼女に至ってはもう堂々と前に出て、男の言動を問い質している。
まあここまで来たら隠す理由もない。
俺も視線を男の方に合わせる。
こうして改めて見ると、本当に怪しい。
そしてやはり見たことある。この服装って。
「迷ってしまって、出口とか分かります?」
男はまるでなんでもないような話しぶりをした。
「その袋に何を隠している」
「ただの旅道具ですよ」
「なら確認させてもらっても」
「それはちょっと、商売道具なので」
「そんな大事なものを何個も落とすか」
沈黙、だがそれは一瞬で終わった。男の引きつった笑いで。
「さすがにこれ以上は無理か。どうせ分かってるんでしょこの袋の中がどういうものか」
「ここで何をしている」
「魔力集め」
「魔物が異常行動を起こしているのもお前のせいか」
「さあどうだろうな。そんなことよりスイラ・フリート、うちに来ないか」
「は?」
「我々は新たな世界を創る」
やっぱりそうか、ゲームでいた敵組織だ。
あの黒いフード付きマント、赤い模様も見たことがある。
なんか新しい国を作ってどうのこうの言っている連中だ。
色々と残虐なことするから主人公に倒されるが。
そういえばリージスも入っていたような気がする。
リージスが倒される理由は色々あるが、確か敵組織に入って色々悪さしたからも理由の一つだった気が。
こいつらが魔物襲来の原因作ってたのか。
考えてみれば納得できる。
主人公視点では生まれ育った村で魔物襲来が起きて被害がでる。
そして追々になって魔物襲来の原因である敵組織を壊滅する。
すっきりするし、話としても王道だ。
メタ推理だけど。
「落ち目のフリート家にいても未来はない、我々と来ないか」
「断る」
勧誘は続いていたらしい、あっさりと断ったが。
「そうか、残念だ。君は」
「断る!」
無論行くつもりはない。
主人公に殺されそうだし、そもそも俺が悪の組織に適応できるとも思えない。
陰口言われていじめられて、良いように利用されるのがオチだ。
「そうか」
淡白だな。
俺が勧誘されるのは本来もう少し後なんだろう。
まあ、それはどうでもいい。こいつを捕まえれば少しは歴史が変わるかもしれない。
「連行する」
スイラが口を開いた。
「断る、と言ったら」
男が新たな宝石を取り出した。
強く光っている。
光と呼応するかのように足音が近づいている。人じゃない、もっと巨大な足音が。
あっちか!
「なっ」
そこにいたのは木々をなぎ倒しながら突進してくるでかいソイルオークだった。
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