第29話 襲来

「魔物が多い気がする」

そんな言葉を聞いたのは森に入り始めて3日経ったときに、スイラの口からポツリと出た言葉。


そんな予兆じみた言葉を聞いたら、どうしても嫌な考えが頭に浮かぶ。

一応、魔物襲来が来るかもしれないから会った護衛や周りの人にそれとなく言いはした。

たぶんそんなに効果はない。

狂った人間だとは思われたくないから、それなりに言葉を選んで濁したから。

自分でも半信半疑に思い始めてきた4日目の朝。




もうすぐ仕事という時間。俺たちは村から森へ足を進めていた。

村は朝であったが静かな賑わいがあった。


ふと思うが、これは祭りの影響なのだろうか?

酒宴祭だったけ?

往来する村人、顔が赤い人もいる。朝っぱらから酒でも飲んでいるのかもしれない。酒の匂いがするような気もする。

どこか牧歌的だ。


そんな静寂は、誰かの声によって打ち破られた。


「あの!」

「どうしました?」

相手の声量に対して、スイラは落ち着いた対応を返した。

確か、この人……この村の護衛の1人だったはず。

ただ護衛の声量が落ちることはなく、言葉が続いた。


「森から出てくる数匹のフォレストウルフを確認しました」

静かな賑わいは、本当の意味で静寂となった。

村人がこちらの会話に聞き耳を立てているのが分かる。


「……案内が済んだら村人の避難を。2人は私に付いてきてくれ」

俺と護衛が呼ばれた。

頷き俺たちは森に向かって走った。

魔物襲来が始まったのだろうか。 


向かった先には確かにフォレストウルフがいた。

といってもすでに死体になっている。

護衛が倒したのだろう。


「魔物が森から出るのはよくあることなの?」

疑問に思ったことを聞いてみた。


「たまにあるとは聞く」

たまにか、まだ分からないな。

その後、彼女が護衛の人たちと話し合っているのを俺は横目で見ていた。


「ふぅ」

深呼吸を1回。

決意はした、やるべきことをやろうと。


しばらくして結論が出たのか戻ってきた。


「私たちは森に入っていつも通り調査をする。ただ異変があれば撤退する」

了解と言い俺たちは森に入った。


森の中には数匹の魔物がいた。

これはいつも通り。

遠距離の魔法や剣で倒しながら、奥まで進む。



今回はいつもより奥まで進む。異変があるかどうか調査するためだろう。


「うん?」

先頭を歩いていた彼女が止まった。


「何か音が……周囲を警戒!」

周囲? 俺も音を聞く。

何かかさかさ言っているような気はする。


「っ!」


魔物がきた、村方向から。

しかも結構な数。

フォレストウルフ、ソイルオーク、ルートウッド、森のオールスターだ。感謝祭でもやっているのかもしれない。


そんな魔物たちが突進してくる。

俺たちはなるべく固まろうと心がけている。だが散ってしまった。


前からくるものばかりと思っていた。


俺は魔物たちに魔法を撃ちながら徐々に森の奥へと進む、いや魔物たちに後退させられた。


「はぁはぁ」


魔物は倒したから、ひとまず安全。

ただ想像よりフォレストウルフが厄介だった。

足が速い、剣でも倒せなくないが近接戦に入って数匹に詰められるのは怖いから追いつかれないように後退しながら攻撃した。

結果、1人で森の奥まできてしまった。



というかあの魔物たちどこからきた。

森の奥に進みすぎて左右ですれ違った魔物が後ろまで来て突進された、とかだろうか。


そもそもの話、魔物が村のほうに近づくことはあまりないと聞いた。

何が起こっているのか。


「というか、こっからどうする」

はぐれてしまった。


「うーん」

周囲を見てみる。

木、木、木、それしかない。

まったく道が分からない。

どの方向が村で、どの方向が森の奥なのか分からない。

遭難した。


こういう場合、下手に動くべきではないと聞いたことがある。

だけど魔物襲来が起きているなら、待ったところでしばらく助けは来ないだろう。


「……歩いてみるか」

周囲を警戒しながら足を進める。

魔物は、いない。


うん? 地面で何か光った。

何か転がっている。

左右の確認を怠らず、その何かに近づく。


草で隠れていたが輝きがすごいからすぐに見つかった。


これは、宝石?

三角錐の宝石みたいなのが転がって光っている。

どこかで見たような……あっ思い出した。

学園で、森にある三角錐に布を被せるっていう授業に使っていた魔導具に似ている。


なんでこんなところに?

……考えても分からない。

ひとまず森から出よう。

念のためもう一度来られるように木とかに印をつけながら行こう。


その後も印をつけながら歩いていると、いくつか似たような魔導具を見つけた。

まるで猫よけのペットボトルだ。


「はぁ」

なんて冗談思っている余裕ないな。

何も見つからない森を歩くのはきつい。

体力もだが精神もきつい。

誰でも良いから人でも見つかれば。


「っ!」

音がする。

何かと何かがぶつかり、フォレストウルフが吠え、草木を揺らしている音。


戦っている。

音はどこでしている、あっちか!


走る走る、一定まで近づけたら一旦急停止。

木に潜み状況を確認する。

もし劣勢だったら、そのまま出ていくより奇襲したほうがいい。


慎重に覗く。

視線の先には魔物に囲まれ戦っているスイラがいた。

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