第28話 決意
スイラさんに案内されながら村を歩く。
祭りというわりには騒いでいない。
酒っぽいのを売っている出店はあるが、それぐらいだ。
それより驚きなのは人の反応。
通り過ぎる人もいるが、俺を見て手を振っている人もいる。
守ってくださいよだったり、頼みますよ的なことを言いながら、まあそう言っている人は手に酒を持っている人たちだからテンションが上っているだけなんだろうが。
それでも依頼できた冒険者というのは知っているみたいだ。
なんか新鮮だな。
行く先々で嫌われてきたから、この村みたいに俺に悪感情を持っている人がいないどころか頼りにされているとは。
先のことを考えると、素直に喜べないけど。
その後も色々と案内されて最後に連れてこられた場所にはでかい建物があった。
入ると中は薄暗く、内装を見るに冒険者ギルドっぽい。
学園の冒険者ギルド以上のでかさだな。
静かな村にこのでかさのギルドはかなり違和感がある。
ほこりが舞っている。
まったく掃除されていないわけではないが、定期的にしているわけでもないようだ。
椅子や机は雑に置かれていて、内装は中途半端な印象を受ける。
準備段階のまま放置されたとかだろうか。
奥まで行くと個室があった、ベッドがあって小さい机と椅子があるシンプルな部屋だ。
それが数室。
「ここに泊まっていただきます」
当面の寝床はここか。
彼女が去ってベッドに座ったり、ギルド内を歩きまわったり、村で売っているものを買って食べたりした。
パンとかスープを食べて一息ついてベッドに座る。
時間は進み夜中。
色々と考える必要がある。
主に魔物襲来について。
いつ起きるのだろう。そもそもどれぐらいの被害がでる?
目を閉じてさっきフラッシュバックした風景を思い出す。
「……だめだ」
頭で考えるだけじゃ答えは出そうにない。
ぼろぼろになっている村の風景、ただそれだけが今の悩みの発端だ。
外に出てもう一度見たほうがいいかもしれない。
念のため少ない荷物をすべて持ってこのでかい建物から出る。
外は当たり前だが暗い。
暗すぎるといってもいいほどに暗く、聞こえるのは草木の擦れるような音ぐらいだ。
怖いな。
暗闇なんて前世ではそれほど怖くなかったが、この世界のは怖い。
近くの森が、眠っている大きな化け物みたいに見えてきた。
……これは精神が子どもの体に引っ張られてそう見えるだけかもしれない。
それと昼間に魔物と戦った記憶もある。
それも影響しているはず。
森に背を向けて村の方を見る。
より近くで見ようと思い足を踏み出す。
昼間の静かな活気が嘘のような静寂。
この村には人がいないと言われても納得できてしまう。
さすがに森を見張っている人はいるだろうけど。
暗闇に苦戦しながら、村の様子を一通り見て昼間思い出したボロボロの村と重ね合わせる。
何か違いでもあったら……あっ。
違いではないが、合っている物はあった。
看板だ、ぼろぼろの村でも看板があった。
店名ではなかった、あれは祭りの看板だったような。
もっと見れば分かるか?
数十分ほど村を歩き回り、村の入り口までたどり着いた。
結論として村は全壊といっていいほどボロボロになっていた。
人もいなかったと思う。
もちろん、この記憶が真実である保証はない。
なんせ曖昧な記憶だ。右往左往するだけ無駄の可能性もある。
だけど、どうにも勘違いだと切り捨てるには鮮明すぎた。
それに一つ気になることもあった。
どうするべきか。
「大丈夫ですか?」
「うぉ!」
びっくりした。
「そんなに?」
「いや、暗いから」
暗闇から姿を現したのはスイラさんだった。
まさか声をかけられるとは思ってなかった。
なんだろう挙動不審だったかな?
俺の今までの行動を振り返ってみる……深夜にうろついていたら声もかけたくなるか。
「何をしていたんですか?」
「散歩」
すっげえ怪訝な顔された。
「本当だよ」
「別に疑っては……ないですけど」
「なら良かった。そういうスイラさんは何を?」
「散歩です」
こっちは本当っぽい。いや俺も散歩といえば散歩だから嘘は言っていない。
「あのさ、あの看板っていつまで置いてあるの?」
指さした先には酒宴祭と書かれた看板がある。
「しばらくはある、私たちが学園に戻る頃には撤去されていると思いますけど」
「毎年ある祭りなの?」
「はい、この時期になったら」
「そうか……」
確信を得てしまった。
あの看板は俺が見たボロボロの村にもあった。
位置的には外に、撤去されて物置にという感じではなかった。
つまりこの時期に起こる可能性が高い。
来年ではない、その時期はもう魔物襲来が終わって主人公が学園にいる。
そのまま互いに無言。
聞こえるのは風の音ぐらい。
そんな静寂は考えていたことを再燃させる。
魔物襲来。
眼の前にいるからか、スイラさんはどうなるんだろうという疑問も浮かんできた。
最悪のケースは考えられる、いくらでも。
素直に嫌だと思った。
学園でできた友達(だと俺は思っている)がいなくなるのは嫌だ。
「何か言いたいことがあるなら、言ってください」
ずっと無言のせいか、あっちから話してきた。
でも言いたいことなんて……あっ。
「なんで敬語なの?」
「なっ」
顔をそらしてしまった。ちょっと赤くなってる?
「それは、あの場じゃ丁寧にしたほうが」
ちょっと戸惑ってもいる。
ミスったかな。
もっと別のことを言えばよかったかもしれない。
いやでも敬語以外で気になっていることないからな、魔物襲来を除いては。
「……そんなに違和感あります?」
「……まあ、あるかな」
言った手前、いやないよ、というわけにもいかない。
「一緒に依頼受けていたときの慣れが強いから」
「……」
無言。
風の音が、やけに聞こえる。
思ったより気にしていたのかもしれない。どうしよう何かフォローの言葉でも。
「はぁ、止めにする」
「えっ」
「敬語。かしこまって話すのも、なんかバカらしい」
苦笑いだ。さっきまでの固さはなくなっていた。
「俺もそっちのほうが、気が楽」
良かった、失言したかと思った。
「私はもう戻るけど」
「ああ、もうちょっと散歩してからかな」
この際、色々見ておきたい。
夜中だから見にくいけど、夜中だからこそ分かることもあるかもしれない。
あと夜中に何度も出歩くのはさすがに怪しい。
今夜で大体は見て回ろう。
「それじゃ」
「それじゃ。ス、フリートさん気をつけて。もしかしたら森から魔物が来るかもしれないし」
「あ、うん。分かった」
どこか歯切れが悪いというか、何で急にと思っているのかもしれない。
でも頷いてくれた。
「別にスイラ呼びでも、フリートだと母と被ってややこしい」
「分かった。なら俺もリージスで」
俺だけ家名さん付けだったらなんか嫌なので。
「うん。じゃ、リージス」
「じゃ、スイラ」
再度、別れの挨拶をして彼女は去っていった。
完全に姿を消したのを確認して、散歩を再開。
少し肌寒く、暗闇で見えにくいながらも続けた散歩。
特に新しい情報が見つかることもなく、ボロボロの村になるかもしれないという不安を掻き立てるだけで終わり宿に戻った。
「うーん」
朝、目覚めて頭が徐々に覚醒してくる。
見慣れない薄汚れている天井。
ああ、そういえば依頼で来たのかと思いだしてくる。
それと同時に嫌なことも思い出した。
俺は魔物襲来でどうするべきだろうか。
昨日の深夜、スイラとの会話で危機感は高まった。
このままここにいたら俺も被害を負うかもしれない。
かといって逃げるのもどうなんだろうか。
依頼の途中だ、間違いなく今後の冒険者人生に傷がつくだろう。
それはまずい、稼ぎ口はあるに越したことはない。
そんな現実的に逃げられない事情もある。
村やスイラがどうなるか心配でもある。
でもそれと同じか、それ以上に別の思いもある。
ずっと疑問に思っていることがあった。
それは根本的で、死生を左右すること。
俺はこの世界を変えることができるのかという疑問。
壮大すぎるかもしれないが、ゲーム世界と違う展開を起こせるのだろうか。
思い出したことがゲーム世界の出来事と考えた場合、それを変えられるかどうかは俺にとって大事なことだ。
検証というと軽い感じもするけど、確かめるチャンスでもある。
賭けるのは自分の命だ。
「……」
俺は生きたい。
だけど、ただ生きたいわけではない。
「よし! やるか!」
傲慢かもしれない、自分の力量を見誤っているかもしれない。
それでも、できることをしよう。
魔物襲来が起きたとしてもできることを。
単純に、逃げたところでどうにもならないと思ったからこその、ヤケクソ決意かもしれない。
それでも腹を決めればあとはやるだけ。
部屋で準備をしてから外に出た。
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