第27話 不穏

廃村の景色は瞬時に切り替わった。

見えているのは普通の村だ。寂れていないし、家も壊れていない。


「行きますよ?」

「ああ」


案内されているときも俺は周囲に目を凝らした。

その間も廃村のような景色は見えた。


なんなんだこれは、こんなこと今までなかった。

そう思うとしたが過去を振り返りそれが間違いであると気づいた。

いやあった、似たようなことは何度も。

この世界に来て何度も思ったことがある、ゲームと似ているなと。

そう思うときは今みたいに、周りの景色が頭に浮かんできた。


だとしても、ここまで違う景色は見たことがない。


この記憶はなんだ、なんで廃村の記憶が。

何か思い出せそうな気がする。

何か重要なことが。


「リージスさん!」


後ろで声がした。だけど構わず俺は走る。

何がある? 何があったんだ?


立ち並ぶ家々、崩れた家。

村を彩る看板や装飾、落ちた看板と装飾。

歩く人々、無人。

頭がおかしくなりそうなスライドショーだ。


奥にある森は何か変わった感じはない。


「あっ」

そうか思い出した。

森、そうだ森だった。

主人公が最初にいた場所は森近くの村だ。

ここが故郷なのか?


いや違う、ここではない。

そもそも主人公の村はぼろぼろになっていなかったはずだ。


主人公がそれに対処したんだから。


「リージスさん」

「あ、ごめん」

怪訝そうな顔をしている。


「大丈夫ですか?」

さらに心配されてしまった。

いきなり走り出したから仕方ない。


「大丈夫、うん大丈夫」

大丈夫を2回連呼する人間は本当に大丈夫なのか。

実際、大丈夫ではある。

俺のほうはだが。


「何か?」

「いや」

言うべきだろうか。

いや言ったところでどうなる。

そもそも時期も分かっていない。

いつ魔物襲来が起きるか分かっていない。


「ごめん、ちょっと。知り合いを見つけて人違いだったけど」

苦しいか。恐る恐る彼女の顔を見て、次の言葉を待つ。


「そうですか。……行きましょう」

好感度! 俺はすぐに彼女の好感度を見る。

……減ってない。

不審には思っているが減るほどではないらしい。

良かった、んだろうか。


俺は黙って彼女に付いていった。

頭の中は思い出した記憶でいっぱいだった。

整理しないと。



ゲームでは主人公の村近くの森から魔物が襲来してくる。

そこで主人公は子どもながら勇猛果敢に魔物と戦う。

結果、村を守ることができた。

たまたま助けた貴族からお礼されたり、色々あって学園に通うことになったりする。


記憶は確かではない。


ただこれが事実なら、村のボロボロにも説明はつく。

ここでも起きたんだ魔物襲来が。


案内の最中も俺は周囲を見た。

どうやら今は祭りの最中らしく、時折見かける看板に酒宴祭と書いてある。

酒と書いてはあるが大盛りあがりというより、慎ましい雰囲気。

でも平和だ。


何も壊れていない平穏な村と同時に、何もかもが壊れた不穏な村な風景も頭に飛び込んでくる。


「そんなに珍しいですか?」

「まあ、森に近いのも珍しいし。あと酒宴祭なんてあるのかと」

あまりにもキョロキョロしすぎたせいか話しかけられたので、それっぽいことを言って誤魔化した。

急に走り出した蛮行よりまだ納得ある説明だと思う。

彼女も納得したのか追求してくることはなかった。


彼女はどうなるのだろうか。

いやそもそも魔物襲来でフリート家はどうなる?

俺は彼女を見た記憶がない。

……考えすぎだろうか。


不安を抱きながらも、進み続ける彼女に付いていった。


付いていった先は村のはじっこだった。

眼の前には森があり、境界線のように石柵がたててある。

静かだ。村にいるときも騒がしくなかったが、ここではさらに静かだ。

そんな静寂だからこそ人の声というのはよく聞こえる。


石柵付近に人がいる。4人だ、1人はフリートさん。

3人は分からない。見れば3人のうち2人は武器や防具を引っ提げている。

ということは俺と同じ冒険者か、この村の護衛かもしれない。

その2人は続々と森に入っていった。


フリートさんがこちらを向いたので応えるように早足で向かう。


「村長あの子たちが依頼を受けてくれる冒険者です」

村長と呼ばれた人がこっちを向いた。

ヒゲがあるおじいさんだ。村長感が強い。


「初めまして、リージス・スモールディアです」

「どうも、若いのによく来てくれたね」

物腰が柔らかい人だ。



「では行くぞ」

そう言って先頭を歩いた、フリートさんが。

さらにスイラさんも俺たちに付いていこうとしている。

えっ、一緒に来るの? 


当主代理と貴族の娘、立場としてはなかなかだろう。

その2人が直接、魔物退治か。

いやスイラさんはギルドで依頼を受けていたが、もしかしてそのために受けていたんだろうか?


「一緒に行くの?」

「はい」

普通にはいと言った。

この世界の貴族は武闘派なんだろうか?


「珍しいですよね」

「ああ、まあ。そうかな」

珍しいと言うなら普通ではないのか。ということはフリート家の風習だろうか。


「でもかっこいいと思うよ、王自らが戦いに行くみたいで」

よくその手の話ではトップ自らが戦いに行く。

現代に近づくほどないとは思うが、やっぱりそういうのはかっこいい。


「単に人不足なだけですけど」

人手不足か。

どうしてもボロボロの村が浮かんでしまう。



計3人で森に入る。

高く伸びた木が上からの日光を遮り薄暗い。

葉の擦れる音も森の中で聞こえたら少し不安になる。

3人で移動しているのに1人のような寂しさを時折感じてしまう。


「魔物だ」

先頭にいたフリートさんが声を上げた。

つられるように森の奥に目を向けた。


どこにいるんだ? 

最初はまったく分からなかったが、少しだけ違和感を覚えたところをじっと見ていたらいた。


2本あしで胴体が茶色、他が緑色、木の棍棒を握っている。オークか? それが3体いる。

ファンタジー魔物であることは確かで、ゲームで見たことがある魔物でもある。


「2人で協力してソイルオークを倒してくれ」

指名された。


「「はい」」

2人で返事をして前に出る。


「絶対に油断するなよ」

言葉を聞きながら、2人で作戦を立てた。

やり方はいつもと変わらない。彼女が前衛で俺が後衛。


まず風魔法を撃つ。

風玉がソイルオークに当たり倒れた。

威力を上げる練習をしたからな。


すると、周りにいたのが一気に俺たちに向いて近づいてくる。

瞬時にスイラさんが剣を手に持ち前に出た。


なら俺はもっと後ろにいるオークに向けて魔法を撃つ。

風を生成、撃つ!


オークの進行方向ちょうどに風が当たった。

動いている魔物に当てる、これも的あて屋での日々が活きている。


ん?

倒れたオークはまだピクピクと動いている。

見れば俺が風を当てた2体ともだ。

倒しきれなかったか。


少しだけ近づいて様子を見る。これは鎧? 

胴体部分が茶色っぽいと思ったがそういうことか、これに阻まれたらしい。

だがその鎧もボロボロになって、ん?

鎧が動いている?


俺は危機を感じて鎧に向けて風を放つ、瀕死のオークにも。

それを2体ともにやった。

なんだったんだ?


「どうだ、面白い魔物だったろ」

後ろからフリートさんの声がした。油断するなと言ったわりには余裕そうだ。


「それは2体が合体した魔物だ。一体がオーク、もう一体が木の鎧のような魔物でルートウッド。ルートウッドがオークを守る代わりに栄養を吸っている。ランクとしてはCからBの中間ってところだ。さっきのはC程度かな」

なるほど、共生みたいなものだろうか。見た目は寄生っぽくもあるが。

また一つ魔物に関して知識を得た。


「なるべく素材は持ち帰るぞ」

慣れた手付きで魔物の素材を取り始める当主補佐。

この家系は魔物採取を必ず学ぶんだろうか。


俺も慣れた手付きととは呼べないが、母と娘のアドバイスを受けて素材を剥ぎ取る。


「初めてにしては良かったぞ」

「いいと思います」

親子ともに褒めてもらった。


「最低限、倒したかどうか確認するために素材は取ってほしいが危険だと感じたら魔物を確認して逃げてくれ。そして報告」

「「はい」」

ギルドで受ける依頼とすることは変わらないな。


ソイルオーク退治をした後も俺たちは森で探索をしていた。

もちろん目的は魔物退治。それと森の様子を見ることである。

村に近い森だから、異変があれば一大事だ。


遭遇する魔物はさっき戦ったソイルオークや共生している木の防具みたいな魔物ルートウッド、狼みたいな姿のフォレストウルフ。

3人で協力、といっても当主補佐は見ているだけど実質スイラさんと2人で退治している。


そしてやっぱり魔物には見覚えがあった。

あ、これゲームで見たところだ! そういう状態になっている。


ただ、見ただけですらすらと倒せるわけではなくウルフの速さに戸惑ったり、オークの防御力に苦戦しながら倒した。


森での探索は終わり、俺たちは村に帰ってきた。

時刻は夕方、もうすぐ夜の帳が下りる。


次にすることは退治した魔物の情報を村長に共有。

数分もすれば村長との業務的な会話も終わり村の出口まできた。


「私はリディアのところに行く、あとは頼むぞ」

「はい」

そう言ってからフリートさんは去っていった。


残された俺は彼女を見る。

向けられた目がキッと鋭くなった。


「では、こちらへ村を案内します」

背筋を伸ばし先頭を歩く。

なんというか、フリートさんと似ている、いや似せているのかもしれない。

不思議とそう思った。


あと思っていたけど、なんで敬語なんだろう? あとで聞いてみよう。

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