第26話 いざ村へ

フリートさんから依頼について詳しいことを聞いて、俺はさっそく準備に取り掛かっていた。

もちろん行けると決まったわけではないから、準備といってもやっていることはいつもと変わらない。

依頼を受けて、武器や防具をメンテナンスしたりして、一応は領地に行くまでの道のりも調べたりした。


そしてある日。


「手紙の返事がきた。学園のギルドで話そうと書いてあった、長期休みが始まってすぐの日に」

「分かった」

返事がきてもやることは変わらない。

やれることをやっていたら時間はすぐに過ぎていく、学園は長期休みに入った。



長期休みに入って翌日。俺は寮から出てギルドに向かおうとしていた。


「おお」

馬車がきていた、いっぱいきていた。

それに生徒が乗っていく。

壮観だな。ちょっと面白い光景でもある。

この世界の帰省ラッシュみたいなものかもしれない。


乗っているのは貴族かな、帰って何をするんだろうか。

学園で集めた情報で秘密の家族会議とか、はたまた婚約の話とかだろうか。

何にしろ俺には関係がない。


前にスモールディア家から借金の額が示された手紙は受け取ったが帰ってこいとは書かれてなかった。

兄も俺が帰ってきたところで嬉しくはないだろう。


それぞれに特色がある馬車を見ながらそんなことを考えていたら、フリートさんを見つけた。


「おはよう」

「……おはよう。ギルドに行くの?」

「うん。フリートさんはどうするの?」

ここで家の馬車を待つのだろうか?


「いや私もギルドに行く、同席することになるだろうし」

ということでギルドまで彼女と一緒に移動した。




ギルドに着いたら適当な椅子に座ってしばらく待つ。


「誰が来るんだろう?」

「分からない」

彼女も分からないらしい。


何について話し合うんだろうか? どれだけ依頼に対して本気かということでも問われるのか。

そういった対策はしていない、しておいたほうが良かったか。


ギルドの出入り口を見ながら考えていると人が入ってきた。

女性で身長は結構高い。

背筋が良いからかオーラがある。


「なっ」

ん? 隣にいるフリートさんが驚いていた。

あの人と話し合うんだろうか。


女性はキョロキョロと周囲を見て、俺たちの方にも視線が向いた。

あっ、近づいてきた。


「君がリージスくん?」

「はい」

「そうか、世話になったな」

「?」

「……母上、なぜここに?」

母上?

えっ、フリートさんのお母さん? 

いやスイラさんのお母さん?


「そりゃ娘から妙な手紙が届いたんだ来ないと」

スイラさんのお母さんは視線を俺に向ける。

娘と似て鋭い視線だった、だけど敵意はない。あるのは堂々としたオーラだ。


「初めまして、私はボライア・フリート。当主補佐をしている」

「あ、どうも。リージス・スモールディアです」

フリートさんが立っていたので、俺も席を立ちもう一度自己紹介をする。

そしてお互い席に座った。


「知っていると思うけど依頼は魔物退治と偵察だ」

「はい」

びっくりすることは起きたが、話し始めたのでしっかりと聞く。

依頼内容は学園のギルドで受けていた依頼と大差はない。もちろん場所や魔物は変わるが。


要は、森にいる魔物を退治すればいい。


「リージス君は受ける気あるか?」

「はい」

「早いな。うん、依頼しよう」

え、これでいいの?


「手紙で大体のことは書いてあったからな、Cランクなのは間違いないんだろう?」

そうか手紙で伝えてるよな。


「はい、Cランクの魔物も退治しています。大丈夫ですかね?」

「森の奥まで行くことはないからCランクでも受け入れるが、もちろん危険がないわけではない」

森の入口付近は強くないと聞く、だけど魔物と戦うことにはなるだろう。


「やめるか」

「いえ、受けます」

「そうか、なら追加の説明だが」

説明は続き、依頼は推薦という形になる。


色々理由があって依頼を公にするわけにもいかないらしい。

ぶつかった男の情報と大体は合っていた。信憑性あったんだな。

一通りの説明を受けて、疑問はあるかと返された。



「私はスモールディア家なんですけど大丈夫ですかね?」

貴族の依頼を、貴族の子供が受ける。

この世界の貴族事情については未だ分からないところは多い、ゆえに疑問だ。


「大丈夫だろう、ただ冒険者に依頼しているだけだからな」

そうなのか。


「他にはあるか?」

「大丈夫、です」

「なら行くか」

俺たちは席を立ち、ギルドを出た。


俺はフリートさんに付いていった。

徐々に学園からは遠ざかり町の出口に近づいてきた。

馬車が止まっている。


「この馬車に乗って移動する」

ブルルッ。


「おっ!」

びっくりした。

馬が鳴いたのか。

というかすごい馬だな。

体格が良くてでかい。

魔王が乗っていてもおかしくないかっこよさだ。


荷台自体はめちゃくちゃ豪華というわけではないが、品がいいような気がする。


「何か?」

スイラさんの目が鋭くなった。

長く見つめられると、顔をそむけたくなるような目だ。つまり怖い。


「いや、かっこいいなと思って」

馬を見ながら言う。

正直に言った、失礼なことではないはず。


「かっこいい。うん、確かにかっこいい」

好感触だっただろうか。

好感度、いやあまりほいほい見るものでもないか、今更だけど。


「さあ、乗って」

「はい」

他人の馬車に載せてもらう機会多いな。


中に入るとスイラさんたちも乗って馬車は動き出した。

眼の前にはフリート一家。いつもより姿勢を良くしようと背中をピンッとした。


「楽にしていいぞ」

「はい」

そう言われてしまったので背もたれに背中をつける。

それでもなるべくだらしない格好だとは思われないようにはする。


「ふっ、姿勢がいいのは良いことだ。舐められないからな」

堂々とした口調と姿勢でフリートさんは口にする。


確かにいいことだけど、舐められないってそんなチンピラみたいな。

娘に似ているなと感じながら馬車は進んでいく。

親子だから似ているのは逆なんだろうが。


背もたれに背中を預けてもリラックスできず、外の景色を見るのも躊躇ったまま馬車は進んでいく。

何度か馬車は止まり、近くの宿で寝泊まりしながら目的の場所に向かった。




馬車が進むこと数時間。


「着きますね」

スイラさんが外を見ながら言った。


「ふぅ」

最初に乗ったときほど緊張はしていないが、だからといってだらけるわけにもいかない。

あとずっと座りっぱしだったのもあり妙な疲れがある。

外に出て日の光を浴びながら体を伸ばしたい。


馬車は止まり、俺たちは降りる。


「うーん」

座りっぱなしだった体を伸ばす。ああ気持ちいい。


周りを見れば、木の家や畑、森があった。

自然豊かな村だ。

吹く風も気持ちよく感じ……ん?


「えっ」

なんだ、これは。


「どうしました?」

スイラさんが心配した顔で俺を見る。


「いや大丈夫」

果たして今の俺はどういう表情をしていたのだろう。

眼の前に広がる景色が一瞬、廃村に見えたなら。

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