第25話 一歩踏み出すために
ギルドでC~Bの依頼についてフリートさんが何か知っているかもしれないと思った翌日。
チームでの授業が終わり、俺は彼女を呼び止めていた。
依頼について聞くためだ。
「何?」
彼女が教室を去ろうとしたから慌てて呼び止めたがなんて聞こう。
直接聞くべきか、いやでも遠回しのほうがいいか。
クラスメイト家系がしたギルドの依頼って、なんて聞けば良いんだ。
「ん?」
彼女は戸惑っている。早くしたほうがいい。
えい、ここはうだうだ考えずはっきり言うか。
俺はなるべく小声で話す。
「依頼についてなんだけど、フリート家がギルドにしている依頼について」
どうだろう。
「……よく知ってるね」
「ギルドでたまたま耳にして」
嘘は言っていない。
「ちょっとこっちに」
俺は彼女に案内されるまま教室から出て人気がない校舎裏に来た。
彼女と会ったばかりの頃なら殴られると思ったかもしれない。
今はそんなこと思ってないから安心だ、俺がよっぽどのことを質問したなら話は別だが。
彼女は考えている。話したくないのだろうか。
「無理そうなら言わなくても」
「……いや」
ためらいがちな口調と共に彼女は話してくれた。
「領地が森と隣接していて、定期的に魔物退治をする必要がある。たぶん聞いた依頼はこれだと思う」
「C~Bランクの依頼?」
「たぶんそれぐらいだったはず」
ギルドで聞いた話と大体合っている。
「受けたいの?」
「受けたい」
女子クラスメイトの領地、正確にいうならフリート家の領地だが。
その場所にクラスメイトの男子が行く。
どういう気持ちなんだろうか。
前世でそんな経験はしたことないから分からない。
キモいと思われてないだろうか。
「そう」
読めない反応が返ってきた。
「Cランクが行っても迷惑かな?」
「いや、そもそも決めるのは私じゃないし。受けたいなら受けていいと思う。ただ、危険だ」
目が合った。
いつも彼女が人を見るときは睨んできているようで身構えてしまう。
今もまっすぐと俺を見ているが、いつもの睨むとは少し違う気がする。
覚悟を問うているのかもしれない。
Cランクの依頼を受けてきたから大丈夫。なんて思っているわけはない。
そもそもCランクの依頼も油断したことはない、と思う。慣れてはきているけど。
「それは分かっているつもり」
遠足気分で行くつもりはない。
「なら私が止める理由ないけど」
彼女の了承? も取れた。
「ちなみにどうやって受けられるの?」
「……私が手紙出してみるよ」
「本当に?」
「一応言っておくけど、絶対受けられるわけじゃないから。手紙出して返事が来なかったら諦めて」
「もちろん、ありがとう」
「……まあこれでお礼になるなら」
「ん?」
「なんでも」
チャンスはやってきた。
強くなる機会は貪欲に掴まないと。
「ちなみに場所なんだけど」
「知らないで聞いたの?」
怪訝そうな顔になった。
「いや大体は分かるよ」
詳しくは知らないけど。
「はぁ、来て」
校舎裏から移動した先は図書室だった。
さすが図書室、すごい本の数。館にあった書斎よりも多い。
「念のためどういう場所か知っておいたほうがいい」
なるほど。図書室なら地図とかあるからか。
「ありがとう、こんな個人的なことに付き合ってもらって」
「別に」
先に歩いた彼女に付いていく。
目線を左右に向けながら2人して領地や森について書かれている本を探す。
色々あるな。
魔法、歴史、聖書などなど。
前世ならそうでもなかったが、ゲームの世界だと思えば読みたくなる。
後で読んでみようか。
「おっ」
フリート家と書かれている本がある。ドンピシャな本だ。
「これなんかは」
本を手にとって見る。
……これは。
「それ」
「あっ」
彼女の視線が本に向く。
「うっ」
なかなか聞くことができない声を上げた。
表紙にはこう書かれている。
フリート家の台頭と衰退。
「……」
「……」
なんだこの本。こんなのあるのか。
「あんまり関係なさそうだね」
すぐに本を戻そうと棚に押し付けるが、ドンッとぶつかった。横にあった本が倒れて邪魔になっている。
こんなときに。
空いた手で本をのけて棚に戻す。
「いやそれも持っていこう。何か、役に立つかもしれない」
えっ、これを。いや変に意識するのも駄目か。
「そう、分かった」
棚から本を引き取る。やけに重く感じる。
それから地図などの目当ての本を見つけて椅子に座った。
「こっからここ」
「なるほど」
机に本や地図が開かれ、横にいる彼女が指で示しながら教えてくれる。
地図を見ながらまず場所について教えてもらった。
フリート家の領地は森に接している。
学園から領地まで、めちゃくちゃ遠いわけじゃない。
もちろん行くとなったら少なくないお金は必要だろうけど。
森の場所や特徴についても教えてもらった。
森は国の中にあるのと、国境と接している2パターンある。
今回行くのは国境と接している森で奥に行くほど魔物がいる。
魔物の強さは場所によってまちまちだが基本的に入口付近が弱く奥に行くほど強くなる。
理由は奥に行けば魔力が多くて濃いから強い魔物がいる。
授業で習ったし、ギルドでも聞いたし、大体は前世でやったゲーム全般と似たような感じ。
というかよくここまでしてくれるな。出会った当初は考えられないことだ。
「ありがとう助かる」
「いえ」
気になるな。
ここまでしてくれる理由。何かあっただろうか?
「……」
俺が色々と考えている間、彼女の視線はとある本に向いていた。
もう一冊持ってきたほうだ。
あのなんといっていいの分からないタイトルの。
彼女は本に手を伸ばしていた。
読むんだろうか。
個人的に読まないほうがいいと思ってしまう。だけど俺がそれを言うわけにもいかない。
いっそ無邪気に、領地のことが分かるかもしれないから読みましょうと言ってしまったほうがいいのかもしれない。
でも俺にそこまでの無邪気さはない。
結局、例の本は開かれた。
俺もちらっと目線がいってしまう。
書いてある内容の詳しいことは分からなかったけど、没落だとか、ドラゴンに潰された家だとか、野蛮だとか。
パッと見ただけでもタイトル通りの内容なんだと分かる。
読んでいる当の本人はさらさらとページをめくってパタンと閉じた。
「特に役に立つのはなかった、返してくる」
そういって本を持ったまま席を立った。
大丈夫だろうか。見に行くのはさすがに、いやでも……。
俺は机に残っている本を手に取り席を立った。
彼女はすぐに見つかった。
片手で本を直して、本棚に片手をつけたまま、そのままの体勢を維持している。
色々考えているのかもしれない。
邪魔はしないほうがいいか。
持ってきた本を棚に入れて席まで戻ると、彼女も戻ってきていた。
そのまま2人して図書室を出る。
「ありがとう色々してくれて」
「別に、このあとちょっとやりたいことあるから。……それじゃ」
「あ、うん。それじゃ」
彼女はそのまま訓練場の方向まで走っていった。
すごいやる気。
俺も負けていられない。
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