第24話 鉢合わせ

Bランクの依頼について考えながら俺は相変わらずフリートさんと一緒に魔物退治をしていた。

危険な事態に陥るでもなく依頼終了。

ギルドに帰還して魔物の素材を受付に渡して依頼達成。

ここまでスムーズにできてしまうと増々Bランク以上の依頼に興味が出てくる。


そして別の日、1人のときも依頼を受けている。

鱗練習のためだ。


「はっ!」

迫りくる魔物。

手に鱗を纏わせて剣のように振るう。

攻撃はしっかりと当たった。


フリートさんに強化魔法を教えてもらったおかげか体の動きが良くなっている。

ほぼ手刀だ、徒手空拳だ。

数分と経たず戦いは終わった。


攻撃はそれなりに形になった。

狭い範囲ではあるが鱗を纏わせて攻撃できる。


またもや発見、本当に多いなこの魔物。

今度は何もせず様子見、しばらくするとこっちに気づいたのか突進してきた。

仁王立ちで俺は攻撃を受けた。


「うっ」

痛いが、前ほどの痛みはない。

鱗は出してない、強化のみの力で突進の威力を減らすことができた。


次はこっちの番だ。

鱗を手に纏わせてしっかりと魔物を見て攻撃。

当たった。

うん、鱗の力もそれなりに使いこなせるようになってきた。


その後、魔法や剣も使って魔物を倒していく。


「ふぅ」

結構倒せた。

素材を袋に入れる。

依頼達成のための報告に帰るか。




受付で素材を渡す。


「あの、Bランク依頼について何ですけど」

ついでに依頼についても聞いてみるが、やはりこのギルドにBランクはなかった。


やっぱりある場所は森やダンジョンに近いところらしく。

受付の人も詳しくは知らないと言った。


「冒険者の方に聞いたら何か分かるかもしれません」

「そうですか」

聞いても教えてくれるだろうか?


てきぱきと依頼書と素材を見ながら話してくれた受付の人にお礼を言って周りを見る。


ゲームとかだったらNPCに話しかけてちょっとした情報を得られたりするものだが、実際に話しかけても情報はくれないだろう。

情報なんてどの時代でも貴重だろうし。


だけど、ただ依頼を受け続けても情報は手に入らない。

好感度を見る力もある。

やってみるか。


ひとまず周りにいる冒険者の好感度を見る。

これは上手く使えば相手の機嫌も分かる。

プラスのほうが微かに光っている人を見つけて近づく。

ダルそうに木のジョッキを手にしている男。


「あの」

とりあえず近づいてちょっとした話しでも。


「なんだぁ?」

「教えてほしいことがありまして」

「お前」

さすがに直球すぎたか? 不信な目で見てくる。


「丁寧だな、学園の貴族か。遊ぶなら建物の中でやってくれ」

バレた。いやでも。


「遊びではなくて」

「中でやってくれ。こっちの邪魔はするな」

これは無理かな。


男から離れる。



思ったよりきついな。面と向かって色々言われるのは。

周りを見てもさっきの会話が効いたのか、俺に向けられる視線が増えた。

ギルドにいる数人が興味関心、不信疑念、プラスやマイナスに光っている。


人によってはマイナスに好感度が伸びているのも見えるほどだ。

そこまで嫌われることをした覚えはないが、あっ。

マイナスに伸びている男を見る。

見覚えがある顔だった。


がたいが良い男、当たりやの男がいた。

ギルドにいるということは冒険者なのか?


あんまり近づきたくはない。

去ろうかと思い、足を出口に向けようとした。

だけど一瞬、思いついた。


ぶつかって因縁をつけられたことをネタにしたら情報を引き出せるのでは?

俺は一応だが貴族の子だ、兄が何かしてくれるとは思えないが相手からすれば恐怖だと思う。

それに冒険者が騒ぎを起こしたらギルドも何かしらの処分を下すかもしれない、相手も黙っておいてもらいたいはず。


上手くいくか分からない、恨まれる可能性もある。

それに何より性格が悪い、自分で思いついて何だが。




「……やるか」

やってみようと決めたんだ、できる限りやろう。

足を男の方に向ける。


「お前」

男は驚きながら俺を見ている。


「教えてほしいことがあります」

「なんだ」

「依頼についてです」

「お前に教えると思ってるのか」

俺は男に近づいて小声で話す。


「裏路地の件について借りがあると思います」

「……はぁ。座れ」

ため息とともに男が椅子に座って、俺も座る。


「何が知りたい」

どうやら教えてくれるらしい。上手くいったのかな?


「C~Bランクの依頼について知りたいです」

「遊び場としては危険すぎると思うが」

「本気です」

なぜこうも遊びだと思われる。貴族の子だからそう思われるのか。


「そうか。といってもここ周辺じゃそうそうあるもんじゃない。森やダンジョンに近い場所ぐらいだろ」

「見たことは?」

「そりゃあるが、今どうなってるかは知らん。それに遠い」

「教えてください」

男は億劫そうに話してくれた。


男が言った森やダンジョンは遠く、お金もかかりそうだった。

それに依頼が今どうなっているかは分からない。

行ったとしても無駄足の可能性がある。


「聞くことがないなら俺はもう出るぞ」

椅子から立ち上がろうとしている。

何かないか、今のところ話してくれそうなのはこの人だけだ。

なんでもいいから教えてくれそうなことを……あっ!


「貴族の依頼って知ってます?」

「……何だそれは」

好感度が薄く光った。武具屋でフリートさんと話したときと同じだ。


「これで最後ですから」

ちょっとだけ強気に、恐らく知っているはずだ。


「……分かったよ」

男は座り直した。


正直、これを聞いたところで解決になるか分からない。

でもまあ聞ける情報は聞いておこう。



「俺が言ったと誰かにバラすなよ。厄介事はごめんだ」

「分かりました」

貴族の息子に当たりやして何を今更とちょっと思ったが、黙っておく。


「冒険者は貴族が嫌いだ、逆もしかり。だから表向き貴族が冒険者に依頼はしないが、するとこもある。ランクもまあC~Bくらいかもしれないな、ここから場所も近い」

「よく知ってますね」

「表も裏も色々知ってるんでな俺は」

「ふーん。その貴族っていうのは?」

「俺が言ったってバラすなよ」

男は小声になって顔を近づけてくる。酒臭いな。


「フリートっていう家名で、そこが依頼出してる」

聞き覚え場のある家名だ。


「俺が知ってるのはこれぐらいだ。場所は自分で調べろ」

「そうですか。ありがとうございます」

「そうかよ」

男は立ち上がり、席から離れた。


俺は貴族の依頼について考える。

男が言ったことにどれほど信憑性があるかは分からないが、フリートさんの好感度は光っていた。

何かは知っているだろう。


知っている人間が近くにいるなら聞いてみるべきなんだろう機会があったら聞いてみたいとも思う。

でも聞いていいのだろうかとも思う。


……ああもう、何で俺に他人の気持ちが分かる力なんか。


「はぁ」

深く考え過ぎなんだろうか。

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