第23話 順調と不安
俺はフリートさんと一緒に依頼を受けるようになった。
受ける依頼も魔物退治が主になってきたから安全の面でも2人でいるというのは良い。
彼女が前衛をして、俺が後衛で魔法を撃つ。
ときたま練習で教えあった魔法をお互いが使うこともあった。
彼女が土魔術で遠距離攻撃したり、俺が強化を使って近距離攻撃したりした。
だけど毎回、彼女と一緒にいるわけじゃない。
1人のときもある、主に鱗を使うときに。
こればかりは人がいるところでは使えない。
俺がより嫌われ死亡フラグが立つかもしれないから。
だから1人で町の外に行く。
町から外に続く道には人や荷馬車が往来している。
門で言い合っていたり、ぶつかったのかこれまた言い合っていたり、この町で一番騒がしいのは門付近なのかもしれないと思うほどの盛況ぶり。
俺はといえば、学生証と冒険者カードというこの町において最強の身分証で行きも帰りもスムーズだ。
門のチェックを終えて、なくしたり盗られたりしないようしっかりと袋に入れて懐にしまう。
この2つがなくなったら最悪野宿の可能性もあるから気をつけないといけない。
荷馬車が行き交う道から外れた場所に向かう。
しばらく進むと草むらから魔物が出てきた。
何度も見かけた石モドキという魔物だ、こっちを見かけると突進してきた。
何で突進してくるんだろうと思いながら、とりあえず鱗を発動して手で防ぐ。
魔物は鱗に衝突して地面に落ちた。結構痛そう。
怯んだ状態の魔物をそのまま鱗がある素手で攻撃。
簡単に倒せた。
鉄の剣以上の強さは間違いなくある。
ただ具体的にどれぐらいかは分からない。
ゲームではどれぐらいの強さだっただろうか。
考えても仕方ないか。とりあえず次。
「さあ、こい」
俺は仁王立ちをして眼前の敵を睨みつける。
さっきと同じ魔物はいつものように突進をして俺に攻撃を仕掛けてきた。
だが俺は何もしない、相手を受け入れるような心構えで両手を広げる。
「っっっっっ痛っ、くぅぅぅ」
腹に一撃もらった。
痛い、だけど鱗は自動発動しなかった。
最近している練習の一つ鱗の制御。
攻撃を受けたらどこでも自動防御してくれるのはありがたいが、変なところで発動したら嫌なのでこういうのもしている。
欠点として、ただただ痛い。
強化で体の防御力を高めるのが一番いいんだろうが、まだ上手くない。
防御の練習もしないと。
そんなことを考えながら俺は鱗を発動したりしなかったりし続けた。
次の休み、フリートさんと一緒の魔物退治をした後、俺たちは武具屋に来ていた。
武器や防具も消耗しているからだ。
最初、店に入ったときはまさにファンタジーで胸が踊ったものだ。
最近だと出費のせいで武器や防具のお金にばかり目がいってしまう、ロマンが足りない。
眼の前の装飾華美な剣を見ながらそう思う。
この剣だけで俺の借金の大半が消える。
欲しい、身も蓋もない言い方をするなら剣の売上が欲しい。剣自体はあまり実用的じゃなさそうだから別にいい。
「欲しいの?」
俺がじっと見ていたせいか欲しいと思われたようだ。
「いや、買う人いるのかなと思って」
「ああ、よっぽどの金持ちならあるいは」
金持ち、貴族とかだろうか。
「貴族がC~Bランクで依頼でも出してくれたらな」
お金持ってそうだし。
「でも貴族なら冒険者に依頼しないか」
「まあ、そうだな」
ん? 好感度が光った?
彼女は剣から離れ、店主のところに向かっていった。
まあ、いいか。
俺も剣から離れて店主に剣や防具を見てもらった。
その結果、彼女は剣、俺は防具を新調することにした。
鱗制御のときに魔物の攻撃を受けすぎたのが原因だろう。
武器に関しても俺たちは店主から強化がなっていないと言われてしまった。
どうやら強化の魔法は上手いこと使わないと武器の寿命を縮めるらしい。
俺はそこまで武器を多用していなかったが、彼女は多用していた。
どっちにしろ痛い出費だ。
2人して再度ため息をついて、そのまま新調した武具を持って店を後にする。
順分満帆とは呼べない生活だが、休日にクラスメイトとギルドで依頼を受けたり、武器防具屋に行ったり、1人で鱗の特訓をしたり、学園の訓練施設で練習したり、授業を受けたり。
借金と未来の
また次の日。
俺たちは道から少し離れた場所で魔物を探す。
いつも通り魔物を倒して素材を手に入れる依頼だが、今回は少しだけ違う。
依頼主が学園ということだ。
依頼内容は難しくなく、なんならいつも倒しているCランク魔物の素材提供だった。
少しの違いとして、魔物を倒してもその素材をギルドではなく学園に届ける。
届けるという工程を踏んでいるからか、ほんの少しだけお金が多く貰える。
俺たち2人は、そのほんの少しに目を奪われ、依頼を受けている。
魔物がいた。特に苦もなく見つけられた。
この距離なら魔法撃てるな。
「私が」
フリートさんがそう言って手を突き出して石を発射させた。
石を2、3個飛ばして、魔物にぶつけて倒した。
上手い。
と思っている場合じゃない来てる。
俺も負けじと魔法を撃って倒していく。
多いな。しかもこっち向かって走ってきてる。
やるか。
剣を抜き迫ってくる魔物めがけて振る!
当たった!
さすがに彼女ほど上手くないがそれでもここの魔物はスムーズに倒せるようになった。
数分ほどで周囲に魔物の気配はなくなった。
「剥ぎ取るか」
「了解」
協力して剥ぎ取りをする。
慣れたもので、すぐに終わった。
色々と慣れてきたかな。
でも慣れてきたときほど危ないとどっかで聞いた気がする。注意しよう。
俺たちはそのままギルドではなく、学園まで向かう。
見慣れた門をくぐり、学園に入る。
場所はあっちかな、入ったことがない建物に入り、とある1室の扉を開けた。
「なんでこうなった」
俺は色々と持たされて、この建物を右往左往している。
さっきの会話を思い出す。
部屋に入って先生に達成報告をしたら、素材を運んでくれと言われた。
それは良かったが、依頼に関係ないものまで運ぶことになってしまった。
まるでたらい回しにされるクエストのようだ。
そのぶんお金を渡すからと言われて頷く俺たちも俺たちだが。
引き受けたなら仕方ない。
俺は彼女と手分けして色々な素材を、各部屋に運んでいった。
どうやらこの建物は魔導具作成を主にしているらしい、ネックレスやら授業で見た三角錐の宝石みたいなのもあった。
それに見たことない素材もあった。
学園近くで取れる薬草より質が良さそうな薬草、きらびやかな宝石が付いている岩、でかい魔物の皮や牙とか。
きっと森やダンジョンとかで取れる素材だと思う。
依頼にしてBランク、もしくはAランク相当だろう。
Bランク、興味はあるが今は運ばないと。
せっせと素材を各部屋に運び、そこまで時間はかからず終わった。
フリートさんの方も終わってるかな。
見に行ってみよう。
場所を移動して探す。
おっ、いた。
発見したが、あの人たちは?
見知らぬ2人がフリートさんを見ている。
するとフリートさんは見知らぬ2人を睨んだ。
そそくさと、その2人は去っていった。
チンピラみたいだ。
「こっちは終わったけど、そっちは?」
近づいて話しかける。
「終わったけど、何?」
「いや、何で睨んでいたのかと」
「見てたの」
「あの2人が去っていくのは」
「……余計なこと言われたくなかったから、あと別に睨んだわけじゃない。堂々としてただけ」
いや、あれは睨んでいたのではと思うが言わない。
彼女にとって睨むというのは処世術なのかもしれない。野蛮だけど。
俺たちは先生に報告、報告達成のサインとおまけのお金を受け取って学園を出た。
あとはギルドにサインを持っていけば完了。
ギルドまでの道中、俺はBランク依頼について考えていた。
ちょっと前はAランクのドラゴン討伐なんてあったが、ああいうのは稀だしそもそも学園付近の依頼ではない。
遠出して大人数で討伐するタイプで、人集めのために学園のギルドにも依頼があったということを知ったのは最近。
つまり学園近くのギルド依頼は基本的にDかCランクの依頼しかない。
学園がある町のギルドということを考えれば当たり前といえば当たり前。
学園付近に凶悪かつ大量の魔物が跋扈するわけがない。
分かっていたことだが、今までは慣れることに精一杯で頭にはあったが深く考えてなかった。
ランクに固執するつもりはない。
しかし、お金やこの先のことを考えればずっとDやCランクの依頼を受け続けるわけにもいかない。
考えないといけない時期がきた。
Bランクの依頼を受けるためにはCランクから上げる必要がある。
CからBにランクを上げる方法はたしか、ギルドや依頼者が推薦してBランクの依頼を提案してくれるか、C~Bランクと幅のある依頼を受ける。
このどれかで成果を出せばランクが上がる。
DからCに上がったときみたいに自分と同ランクの依頼を受けるだけでは上がらない。
Cランクからが冒険者の本番って感じだ。
さて、どうするか。
推薦系は実績と信頼が大事、俺にそれがあるとは思えないからC~Bの依頼だな。
この町のギルドにC~Bの依頼がないということは他所に行かないとだな。
だとすれば遠出しないと、授業がある日は無理だ。
確かこの学園には長期休みがあった。
前世でいうところの夏休みや冬休みと似たようなもの。
この世界は季節感が薄いからまったく同じではないだろうが。
そのときに遠出して依頼を受けるのがいいか。
そういえば、フリートさんは長期休みどうするんだろうか?
「長期休みって何か予定ある?」
「家に戻る予定」
なるほど帰省、そういう学生も多そうだ。俺には無縁だな。
となると1人か。
「何で急に?」
「いやギルドの依頼に専念しようかと思って、暇なら誘おうかなと」
「なら無理、ギリギリまで家にいると思う」
「そう」
依頼について情報収集しないとな。
やっぱりギルドに行って聞くのがいいのかな。
「Bランクになりたいの?」
「もちろん。貴族の子供が目指すのは不思議?」
「まあ」
不思議なのか、う~ん。
まだ1年の子どもがギリ食えていけなくもないBランク冒険者を目指す。
確かに考えてみると不思議だな。
でもそれを言うなら彼女も似たようなもんだよな。
「興味ないの強さとお金に」
「興味はある」
そんな気はした。
前に英雄の話をしていたとき楽しそうで、高い剣見たときも金がない俺と似たようなリアクションだったから。
「俺も興味あるから早くBランクになりたい」
そのためには良い感じの依頼が長期休みまでに見つかればいいけど。
そう思ってもすぐに良い感じの依頼も優れた案も出ない。
ギルドに着いて俺たちはいつもと同じようにCランクの依頼を達成したと報告した。
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