第22話 教え合いと昼食

魔物退治の依頼を終えて、俺たちは学園の訓練施設にいる。

さっきの会話でお互いに魔法を教えると言ったからだ。

まだ疲れは残っているが、練習しようと思う程度には元気だ。

これも日頃している筋トレの成果だろう。


さて魔法といっても何を教えるのがいいのか。


「土魔法は得意だけど」

「そうなの?」

「はい」

「分かった。なら土魔法で」

そうして俺たちは魔法の練習を開始した。


さて、今まで感覚でやってきたところがあるから教えるとなると難しい。

とりあえず土魔法を使って魔法を撃ってもらった。

彼女は最初に詠唱、そして石が放たれた。

うん、普通だ。


だけど遅い。

彼女は近接戦闘が主だから詠唱から発射の遅さは命取りだ。

といっても短縮魔法は努力だから俺が何か言えることもないし……あれ教えることがない?


いや何かあるはずだ、考えろ考えろ。


「壁とかって作れる?」

「壁?」

「作れたら、こっちが不利なときに壁作って逃げて体勢整えられかなと思うんだけど」

彼女は頷いた。


「小さき土の精よ我が力を贄に大地の片鱗を行使する土壁ソイルウォール

徐々に壁が出来上がっていくが、途中で崩れた。

「もうちょっと小さいのは?」

「やってみる」

彼女が詠唱したら膝程度の壁ができた。これでも相手を混乱させるのに十分だけど、時間がかかるな。


「うーん、そうだな。例えばこうやってみたら?」

俺は壁を作ってみる。

「小さき土の精よ我が力を贄に大地の片鱗を行使する土壁ソイルウォール

地面から壁を引っ張ってくるようなイメージで。


「壁が空中で出来ていくよりも、地面から引っ張ってくるイメージでやってみたら?」

「分かった」

詠唱をすると、地面から土が盛り上がってきた。

数センチのところまでいって止まった。


その後も何度か試したが壁と呼べるほどのものはできなかった。

うーん、これぐらいなら最初から出来ていたよな。


悔しいというか格好悪いというか。

教えると言ったのに、あまり役に立った感はない。


そのままバトンを交代して、次は彼女に強化を教えてもらうことになった。




俺は一通り強化した状態で素振りやら踏み込みやらをやって、彼女に見てもらった。

「全部使えるんだ、珍しい」

「そう?」

「火、土、水、風、強化使えたら珍しいかと」


そうなのか。本の通りにしただけなんだけど、すべて使えるのは珍しいのか。

転生のアドバンテージかもしれない、好感度が見える力と一緒に付与されたとか。


「それで、どう俺の強化は」

「うーん」

悩んでいる。やっぱり人に教えるのは難しいのだろう。


「足を強化するときに足だけ集中してるとかはない?」

「あー、してるかも」

速く移動したいときとか足だけに魔力を集中している。


「強化を体全体にしてみて」

体全体か。言われた通りに体全体を強化する意識で持っている剣を振った。


「おっ」

良くなったかも。続けて走ってもみたが速くなっている気がする。

体が軽いと言うんだろうか。

前のときと比べて格段に良くなったわけではないが、こういう小さい変化で生死を分ける戦いもあるかもしれない。

それに練習を続けていけばもっと強化が上手くなるかもしれない。


無論、戦わないに越したことはないが。

「良くなった気がする」


彼女は頷いた。

「最終的に体全体を強化したまま特定の部位を強化する、という感覚が大事らしい」

「へー物知りだね」

「教えてもらったことをそのまま言っただけ。私もまだ全部はできてない」

教えてもらったもしかして。


「師匠がいたのか」

「師匠っていうか……親」

複雑そうな顔をしている。

この年頃だし親の話題は恥ずかしいのだろう。分からなくはない。


彼女ちょっと反抗期っぽいし、いや反抗期は親にしてクラスメイトにはしないか。

反抗期と中二病が混じったような感じかもしれない。

デリケートな時期だ、変に突っ込まないでおこう。


「結局、何も教えられなかった。ごめん」

「いや別に」

素っ気ない。

う~ん。ちらっと好感度を見る。減ってない。

良かった。


でもこのまま解散するのもな。

なんか後味が悪い、主に俺が。

教えてほしいと言われて了解して何も教えられなくて。

結局、彼女に教えてもらった。

考えるほど格好悪いな。


何かお礼できないだろうか……そういえばまだ昼飯食べてないな。

「お腹って減ってる?」




ということで俺たちは学食にやってきた。休日で遅めの昼飯だったけどそれなりの人がいる。

俺たちは食堂で昼飯を頼む。


食堂にも席はあり、貴族席と平民席で分けられている。

貴族席といっても椅子が豪華で宝石が散りばめられているわけではなく単に平民と区別しているだけだ。


2階建てで上の席が貴族、下が平民。争いが起きないようにだろう。

ゲームのときだったら最終的に主人公が中心で貴族市民関係なくわいわいがやがややっていた印象がある。


ただ俺たちは貴族席には座らず外で食べる。

この世界の制度をどうこう言うつもりはない。

単になんか慣れないから外で食べる。

というか貴族席に座っているとき変に視線を感じるから座りたくないだけだ。

俺の被害妄想かもしれないが、でもこいつ嫌われてるからな。



フリートさんも外で良いと言ってくれたので外にあるベンチに座って食べる。

周りにはほどよく人がいる。

といっても過ぎ去るか自分たちのことで一杯か、俺たちを見る人はいない。


献立はパンとスープのシンプルさ。

館でも似たようなだったからこの世界の定番メニューなのかもしれない。



「奢ったのに」

「あの程度で奢られても」

そういう彼女も俺と似たような献立、俺より量が多い。

「何?」

「いえ何も」

気にしているのかも知れないあまり見ないでおこう。


あまり役に立たず、逆に強化を教えてもらったからお礼として奢ろうとしたんだけど。

それは彼女が拒絶した。

理由はさっき言った通り、あの程度で奢られてもと。

しつこくしすぎるのも嫌われそうだしということで普通の昼飯となった。


何か教えてもらっておごるというちょっとした青春みたいなことをしてみたかったけど、またいずれだな。


黙々とパンとスープを口に運ぶ。

そこそこ美味い。

食堂のご飯は何度か食べたが口に合う。


「……」

「……」

蟹でも食っているじゃないかという沈黙。


何か話題はないだろうか。

「ありがとう、強化教えてもらって」

「いえ」

「このまま強くなったらAランク冒険者にでもなれるかな」

共通の話題といえば冒険者かな。


「なりたいの?」

「受けられる依頼が増えるからね、お金も稼ぎやすくなる。まあAランク帯の魔物を倒せるかどうかだけど。Aランク冒険者になりたくない?」

「……別に」

興味はないのか、てっきりそっち方向に興味があるかと思っていた。


「でも、かっこいいとは思うよ。英雄みたいで」

英雄、この世界にもそういう話があるのか。

まああるか、なんなら前世よりありそうだ。


「Aランク冒険者の英雄とかいるの?」

「ランクは分からないけど冒険者の英雄はいた」

それから彼女は英雄やらこの世界の物語について話してくれた。


「竜退治とか、魔物侵攻を防いだとか色々あって」

口調は淡々としている。

俺は頷きや相槌をもって彼女の話に応えた。


淡々としているが楽しそうに見える。

こういうのに詳しいのだろう。

だけど話すことに集中しすぎたせいかパンやスープが置いてあるトレーが不安定になった。


「あっ落ちる」

「あ」

パンやスープは一切こぼれることなくトレーは不安定状態から脱した。

さすがの反射神経。

ただ彼女はバツが悪そうだ、顔をそらしている。


「食べよっか」

「……ええ」

また無言の食事。

結局、続きを話してくれることなく昼飯は終わった。

でもまあ、一緒に昼飯を食べるぐらい仲良くなれた。そう思うことにした。

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