第21話 歩み寄り

チーム授業でフリートさんと協力してから、その後もなんだかんだとギルドで偶然会っている。


ここまでは前にもあった、同じクラスだから時間の空きも似たようになる。

特に放課後はよく会う、練習かギルドの依頼を受けるかぐらいしかお互いしていないから。


今までの違いとして彼女の態度が軟化した。

具体的に薬草採取の依頼を受けて一緒になったら、近い場所で作業をするようになった。


今までも薬草採取とか依頼がかぶることはあったけど、お互い離れているか、気づかずに近くにいたかだった。


彼女いわく「一緒になったときに避けるのも、あれだから」とのこと。

彼女なりの歩み寄りなのだろうか。

どっちにしろ俺も賛成だ。


どうせ一緒の依頼を受けているのに、現地でばったり会ったらお互い離れるという、なんとも言えない気まずさが解消される。


ということで日々の薬草採取のときは彼女と一緒になることが多くなった。

だからといってやっていることは個人で薬草採取だから行き帰りに彼女と一緒になるぐらいの変化だ。

話が弾むほど仲良くなったわけでもない。

それでもまあチーム授業の不安は解消された。これからは協力してくれるだろう。


となると、次の不安はお金か。

頭を悩ませ薬草を担ぎながらギルドまで帰る日々を送った。




冒険者ランク、字面通り冒険者の階級。

ランクが上がるほど受けられる仕事が増える。そして今日、そのランクが上がった。

ギルドの受付でDからCに上がったことを報告される。

ちなみに俺だけじゃなくフリートさんも上がった。


「おお」

彼女もランクが上がって嬉しそうだった。

新しい玩具を買ってもらった子どもみたいな無邪気な笑みをしている。


「なっ、何か」

「いや何も」

睨まれてしまった、見るのはよそう。


ともかくこれで俺たちは新たな依頼を受けられる。

今日はもう夜が近いということで寮まで帰り、そして次の休日。



俺とフリートさんは依頼書を見ている。

Cランクからは魔物相手の依頼が出てくる。

危険だけどそのぶんお金は稼げる。


俺は1枚の依頼書を手に取る。


「それ受けるの?」

横から彼女が見てくる。


「そうしようかな。一緒に、受ける?」

軽く言ってみる。

嘘だ、軽く言ったわけじゃない、断られるかもしれないと内心ドキドキだ。

この世界に来てから積極的になったつもりだけど、慣れないな。


「……せっかくなら」

ということで俺と彼女は一緒に依頼を受けることになった。

薬草採取が終わったから別々になる可能性もあったが、言ってみるものだな。


受付に2人で依頼を受けることを伝える。

そのとき何度も危険だということを受付の人に言われた、それはもうしつこいほど。

俺たちはそれでも受けると言ってギルドを出て道を歩く。


「子どもだからかな」

自分の体を見る。この年にしては大人びている気がするが、大人から見たら子ども。そら止めるか。


「それと学生というのもある」

「それはどういう?」


彼女が言うには、まだ1年が冒険者登録してCランクの依頼を受けることは稀、というかほぼないらしい。

それが貴族ならなおさら。大事な子どもで、学園の教育途中だからな。

万が一なんてことも起こる。


貴族じゃない学生でもCランクの依頼を受けるのは2年ぐらいかららしい。

1年で受けるのは学園入学前から魔物と戦っている家系とか。


「道楽だと思われたかも」

「道楽って」

周りから変に思われるのは嫌だけど、だからといって止めるわけにもいかない。

お金と力は大事だ、俺の場合まだ学生だからという言葉に意味はない。いつ死ぬか分からない悪役人生だ。


だけど彼女はどうなんだろうか。

わざわざ冒険者になる理由。


前に聞いたときは似たような理由と言っていたが、お金なのか、力なのか、全く別の何かなのか。

そんなことを考えていたら門まで着いた。

ここから一歩出れば外。俺たちはその先に行って魔物を退治する。


思考を切り替え外に出て周囲を警戒。

魔物がそこらじゅう闊歩しているような場所ではないと分かっていても緊張する。

それは隣を見ても同じだった。フリートさんは授業で森に入ったときと同じように周囲を警戒している。


前の迷路のときもそうだったけど意外とビビリ? 

最初の印象ノータイムダッシュだったけど。


「……魔物はいない」

「確かに、思ったよりいないな」

少し拍子抜け、いや油断しちゃ駄目なんだけど。


「警戒するに越したことはないと思う」

そう警戒するに越したことはない。

そう思っていても常に警戒し続けることは難しい。


数十分も警戒し続けていれば、ふとした瞬間にまったく別のことに意識を向けたりしてしまう。

瞑想をして少しは集中力が鍛えられたと思ったんだけどな。


授業のときはもっと警戒していたはずなのに、いやあれは周りの雰囲気のおかげでもあった。

青い空と地面の草原は、映画でも見ているような風景だった。

要は綺麗だ、それに目を奪われかけている。


よくないよくない。こういう油断が死亡フラグに繋がるかもしれない。

「よし、行こう」

気合を入れ直し声に出す。


「もう行ってるけど」

彼女は冷静だった。

ちょっと恥ずかしい。




そのまま歩いて目的の場所についた。

依頼書に書かれていた場所だ。

ここら一帯に魔物がいるはずだけど。


「いた」

彼女が指し示す方向にぴょこぴょこと何かが飛んでいた。

目を凝らして見る。

小さい石みたいなのが飛んでいた。

たぶん目的の魔物、名前は石モドキだっけか。そのまんまだな。

魔物に近づく。


「もうちょっと近づいたら魔法を撃つ。近づいてきた魔物は頼む」

彼女の頷きを見て、俺は魔法の準備をした。

ここは土魔法で石を生成してぶつけてみるか。魔物硬そうだし。

ん? なんかごそごそいってる?


草を揺らす音、足元からする。

「っ!」

石が飛んできた。隠れてたのか。


石型魔物は俺の体を直撃。自動展開される鱗でダメージはない。

逆に魔物が鱗に当たった衝撃でくらくらしている。素早く魔法で倒す。


すぐ別の魔物に土玉を2、3回放ってなんとかぶつけた。

めちゃくちゃ速いわけではないが小さいから狙いにくい。


フリートさんの方を見れば、剣を使って石モドキと戦っている。

魔物に向けて剣を振り外したり、当てたりしていた。

何度か魔物が彼女の体にぶつかることもある。

俺は援護するように、彼女に向かってくる魔物を魔法で倒す。


「っ! はっ! っ! はっ!」

あああ、周りの魔物が鬱陶しい。


「暴風の片鱗を行使するウィンド!」

周りに風を発生させて魔物を遠ざける。


一応持ってきた剣で応戦もしてみたがなかなか当たらない。


剣を振ったり魔法を撃ったり、そんなことを数十分続けてやっと周囲に魔物の気配がなくなった。


「はぁはぁ」

なんか精神的に疲れた。


あっちはどうだろうか。彼女の元に向かう。


「大丈夫?」

俺より魔物にぶつかられていた。近接だから仕方ない部分もあるが大丈夫だろうか。

「なんとか。強化したので」

見た感じ目立った怪我はない。


「……そっちは」

「ん? 俺は大丈夫」

「そう」


しかし、周り石だらけだな。


「回収しよう」

俺たちはその場で倒れている魔物に近づき、体の一部を剥ぎ取る。

ギルドに倒したという証を持ち帰るためと、素材を回収するため。

「……結構むずい」

手間取り、途中から彼女に手伝ってもらいなんとか剥ぎ取り終えた。


スムーズとは到底言えないが、依頼書に書かれたことは達成した。

怪我がほとんどなかったのは幸いか。

町近くでCランクだとこれぐらいの強さが基準なんだろうか? 

依頼や場所によって変わる可能性もあるかもな。

魔物退治の依頼を受けるのは体調が万全な休みの日とかにしたほうが安全か。




俺たちは町に戻り、ギルドで依頼達成を報告した。

「はい、依頼達成です」

無事、受付の人から報酬を受け取った。

薬草採取よりは多い。

ただめちゃくちゃもらえるほどでもない。

装備品や消耗品とかで消えそうだ。


「あのCランク帯の魔物についてなんですけど」

俺は疑問に思っていたCランクの魔物について受付の人に聞いてみた。

ちょうど周りに人も少ないし良い機会だ。


受付の人いわくCランク魔物の強さは、一般人にはそこそこ脅威だが俺たちみたいな魔法使いだったら脅威ではないというのが大体の基準らしい。


要は、魔力を使って身を守れるかどうか。


Cランクにも幅があり、畑を荒らす魔物や打撲程度から当たりどころが悪ければ死ぬ魔物もいるらしい。


「より上の魔物だったらどうなるんですか?」

フリートさんが会話に入ってきた。

さっきまで素知らぬ顔だったが、話が進むほどこっちに寄ってきていた。

好きなのかもしれないこういう系の話が。


「そうですね。Bランクとかは集団で連携して襲ってくるのもいますし。Aランクで巨大な魔物もいますね」

「どこにいるものなんですか、そういう魔物は?」

「ダンジョンや森の奥にいることが多いですね」

ダンジョン、胸が踊る言葉だ。やはりこの世界にあるのかダンジョン。


2人で教えてくれたお礼を言って受付から離れる。

さすがに、これ以上占拠するわけにもいかない。


そのままギルドからも出る。


外はまだ明るいが、結構手間取ったから夕方前ぐらいだろうか。

学園に帰ったら魔法の練習をしよう。

あとは、そろそろ家にお金を振り込まないとな。

まだ十分な額は貯まってないけど返すという意志を見せれば変なことにはならないだろう。


「あの」

「ん?」

後ろから声がした。振り向いて見ると、彼女は俯き何か言おうとしている。

なんだろう?


やがてキッと俺を睨んできた。

なんで? 

何かやった? 

彼女との言動を遡る。魔物を任せすぎた、依頼を1人で決めた、あと他にもあるか? 思い当たる節はある。どれだ?


「教えてほしい」

「何を?」

「魔法を教えてほしい」

どうやら俺の推理は無関係らしい。


「どうして俺に?」

「強いから」

簡潔な言葉だった。


「基礎ぐらいしか使えないけど」

「それでも私より上手い」

「分かった。そうだ、なら代わりに強化魔法を教えて」

彼女の強化魔法は何度か見たけど強いと思う。

風やら土やらしか魔法の練習をしていない俺にとって参考にできるところがあるかもしれない。


「分かった。参考になるか分からないけど」

「俺の魔法も参考になるか分からないけど、よろしく」

「……よろしく」

彼女はまだ睨んできているけど、仲良くなっているよね。

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