第14話 協力

「はぁ」

起きて伸びをする。

寮のベッドで初めて起きる朝は思うほど爽快ではなかった。


昨日、食堂でご飯を食べているときにも俺はクラスメイトと交流を深めるでもなく金の稼ぎ方を考えていた。これだけ聞くとなんとも守銭奴だが、金を返さないといけないから仕方ないと思う。


一時は踏み倒そうかとも考えたが、学園にいる間は居場所がバレているし時間が経って変なトラブルが起こるのも嫌だ。

それに払ってもらっているのも事実、返したほうがいいだろう。


そして思い至った、冒険者になればいいのだと。

依頼を受けて金を稼ぐ、中世ファンタジーで王道な稼ぎ方だ。


元より自分の実力と学園を出ても稼げる方法が欲しかった俺にとっては、借金がなくてもいずれこの方法を思いついたかもしれないが善は急げということだろう。

授業を受けたら、さっそくギルドに向かおう。


今日の予定が決まり支度をしてから寮を出た。



昨日と同じ教室に入り、昨日と同じ席に座る。

そして担任が入ってきて授業が始まった。


「皆さんにはこれから2人1組のチームを組んでもらいます」

チーム、学生同士が仲良くなれそうなイベントだ。

チームを組んでこれから先の授業に挑んでもらうと言っている。


「では始めてください」

という言葉でクラスメイトが動き出した。

思ったよりチームができるのが早い。


昨日すでに関係ができあがりつつあったのか、はたまた元より関係があったのか。

あとはまあ俺のことを避けている人もいる。

なんにしろ徐々に人は集まり、チームができあがっていく。


俺も動こうと椅子から立ち上がりはしたが、もうすでにチームになっているのが大半だった。



そして残ったのは俺と、椅子に座っているフリートさんだけだった。

完全に出遅れた、金のことばっか考えていたせいかもしれない。

いや人のせいにするのはよくない、俺の落ち度だ。


よし。

彼女の席に向かう。

積極的になるチャンスだ。

「一緒のチームになりませんか?」

「……」

無視だ、話を聞いていたのかこの子は。


「あの、チームなんだけど」

ちょっと語彙を強める。


「……あっ」

彼女の視線が俺に向いた。語彙強めすぎたかな。


すると彼女は椅子から立ち上がり、そしてキッと睨まれた。

何で? いや怯むときじゃない。


「2人1組のチーム作らないといけないから、チームになろう」

敬語も取ってチームに誘ってみた。

クラスメイトだし、大丈夫だよね?


周りはまだガヤガヤとしているが、この状況が長引けば注目を集めるだろう。

俺たちだけまだ決まってないとなるのも時間の問題だ。


沈黙、1分経ったのか1時間経ったのかと思わされるほどの。

実際の時間は、たぶんそんなに経ってないせいぜい10秒程度。


「……分かった」

「っ、分かったの?」

「うん。よろしく」

素っ気なくはあったが意外にも了承が取れた。


「チームは決まりましたね」


クラス全員が2人1組のチームを作り、次に席替えをすることになった。

席の並びは、さっき作ったチーム同士が固まるように。

ということで空白だった隣に人が座ることになった。


「これからよろしく」

隣に向けて挨拶をする。

「……よろしく」

素っ気なさはあるが、返事はしてくれる。

さっきみたいに無視されないだけ希望はあると思う。


まあ本当にどうしようもないほど嫌いなら何かしら考える必要はある。

人間そういう相性はある。

前世と違って嫌われないような態度を過度に取るのは止めるつもりだ。


でもまあ意外とどうにかなるかもしれない。返事はちゃんとしてくれたし。


「皆さんにはこれからチームでいくつかの課題を受けてもらいます」

この授業ではチームで受けることが主らしい。

協調性やらを身につけるためだろうか、前世で言うところの体育や総合、道徳みたいなものだろうか。


課題があって、その課題をどれだけ上手くやれたかによって成績がつく。

昨日の説明で1年は基礎的な魔法の学習が主で自由な選択はできないが、2年からは成績によって自由に選択できる、とのこと。


2年にどうするかはまだ分からない。

だけど、いい成績を取って悪いことはない。

彼女とはなるべく協力したい。


「では外に出ましょう最初の課題をしてもらいます」


俺たちはぞろぞろと教室を出て、学園の奥にあるでかいグラウンドに移動する。

でかい敷地だ、東◯ドーム何個分あるんだろうか。

そんな日本人単位を考えていたらグラウンドに着いた。


「最初の課題はこれです」

先生がそう言った瞬間、グラウンドに丸いモヤみたいなのが浮かんできた。

黒い風船が浮かんでいるようにも見える。


「これは魔力で作った的みたいなものです。皆さんには協力して的を壊してもらいます」

的壊し。

的あて屋でやったところだ!

まさかあの経験が役に立つとは。


「チームごとに魔法を使って制限時間内に多くの的を壊してください」

説明を終えた先生は、チームを指名した。

すると的がある場所に木が生えてきて、迷路みたいになった。

あれは何魔法なんだろうか? 


何かと何かの組み合わせか、まったく別の魔法なのかもしれない。


指名されたチームは迷路に入ると入り口が閉ざされた、先生は手元にある鏡みたいなのを見ている。

それから数分経って壁がなくなって中にいたチームが出てきた。

それを各チーム同じようにやった。

そして俺たちの番がきた。


先生に促されて迷路に入る。

思ったより広い、おっあの黒いもやもやを壊せばいいんだな。

完全に迷路の中に入ったら後ろで音がした、振り返ると入り口から木が生えてきて、すぐに閉じ込められた。こっから課題が始まるのか。


「どうしよっか?」

彼女に相談してみる。


「先に行って地上の的を壊すので、あとは自由に」

それだけ言って、彼女は一目散に走った。


持っている木剣を振り近くにある黒いもやを一刀両断していく。

実力試験でも見たが相変わらず速い、惚れ惚れするぐらいだ。

だが一気に距離は開いた。


これはチームなんだろうか。


ともかく俺もやるか。

適当な魔法を使い上にあるもやを壊す。


やばっ、もう彼女の姿が見えなくなった。

俺はできるだけ素早く的を壊しながら迷路を進んだが姿が見当たらない。

彼女が速いのか、俺が遅いのか。

たぶん両方なんだろなと思いながら的を壊して数分。


近くの壁が開いた、というかなくなった。

結局最後まで彼女と再会することはなかった。


外に出てキョロキョロと周りを見る。

あっ、いた。彼女も迷路から出てきた。


「集合」

先生の号令で皆が集まる。

今回のポイントと魔法についてちょっとしたアドバイスをしてくれる。


「次回からもよりチームワークを意識してください」

最後に先生がそう言って授業は終了。


俺とフリートさんは互いに無言で次の教室に向かっていった。


どうしよう。

この年頃の女の子と仲良くなる方法など知っているわけがない。


それとも生理的に無理とかだろうか。

悲しいが仕方なくはある。

でもせっかくチームになったのなら仲良くなるに越したことはない。

でも、じゃどうやって?


残りの授業を受けながら、その答えなき問いの堂々巡りに頭を悩ました。

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