第12話 模擬戦闘

入学の日まで俺は学園の施設で練習をした。


勘違いしてはいけないのは俺の目的は入学ではないということ。

入学は手段であり、目的は死なないことプラス流されず友達を作ることだ。


俺にとってはここの入学が死地の入り口みたいなところがあるから矛盾している気もするが、だからといって学園に入学せず1人で何とかできる見通しもない。

それにゲームの主人公も入学するのは来年。その間になんとか強くなって情報を集めて将来を決めて、最悪逃げることも視野に入れている。


それを肝に銘じて練習をし続けて数日後、いよいよ入学の日がやってきた。



荷物を持って学園まで来る。

入学のための実力試験は何日間かある。一気にぞろぞろと貴族の子息子女がやってくるわけではない。

だからだろうか、初日はガラガラだった。


受付の人に入学許可証を渡したら部屋に通された。

読んで書いての筆記があったり、次は魔法を撃ったり、剣を振ったりした。試験官は手元の紙で何かを書いていた。

なんかこの感じ懐かしい。

最後は模擬戦闘で、広い訓練場みたいなところに通された。



使うのは木剣で、使う魔法も低威力。相手に魔法でも剣でも一撃入れれば良いらしい。

いざというときの先生というありがたい手厚さ、死ぬ危険はなさそう。

ちなみに一撃入れた判定は配られた装備品のネックレスで行うらしい。

どういう原理かは知らないが魔導具とかそっち系の何かだろう。



そして相手は知っている顔、というかフリートさんだった。

俺と同じく入学前に学園を歩き回っていたから、いるだろうなとは思っていた。まさか戦うことになるとは思わなかったけど。


「よろしくお願いします」

なるべく笑顔で挨拶する。


「お願いします」

返してくれた、よかった無視されなくて。相変わらず視線は鋭いけど。


挨拶も無事終わり、それぞれ所定の位置まで移動する。

互いに木剣を持ち、数メートル離れて向き合っている。


ドクドクと心臓が鳴っている。偶然で人と殴り合ったことはあるが、魔法もありは初めてだ。落とさないよう木剣を力強く握る。

「始め!」


「っ」

彼女が走ってきた。


「暴風の片鱗を行使する風玉ウィンドボール!」

手のひらを突き出し、魔法を放つ。だが彼女は右に避けた。映画みたいな動きだ。

「暴風の片鱗を行使する風玉ウィンドボール!」

また避けられたが、今度は連続して撃つ!


左右に避ける彼女に狙いを定める、ギリギリ当たりそうで当たらない。

的あて屋の的よりよっぽど速い。距離が縮まり、剣が振られる。

カンッ。

持っていた木剣で防御。

速いし重い。

まずい次がくる。地面を蹴り下がろうとするが、間に合わない。

なら魔法を使って離れる!


暴風の片鱗を行使する風玉ウィンドボール


風魔法の威力を抑え自分に使い強引に下がる。

彼女も危険を察知したのか下がっている。


危なかった。好感度を見てどうこうできる余裕なんてなかった。というかこんな状況で攻撃のタイミングを読んでからって、どうこうできるとは思えない。俺はその域にいない。

現状、俺の勝機は魔法しかない。



下がりながら土玉ソイルボールを心唱で撃つ。

彼女は避けたり剣で撃ち落としたりしながら果敢に迫ってくる。

これじゃ遅いのか、距離を詰められる。


なら。

「大地の片鱗を行使する石散弾ストーンショット!」

数撃ちゃ当たれ。

剣が速いか、魔法が速いか。


果たして、カンッと音が鳴った。次に石がぶつかる音。

「終了! 道具と剣を回収する、集まってくれ」

俺たちは剣を返しに行く。

そしてすべての試験が終了したことと、さっきの結果を聞いて俺たちは解放された。



彼女は前と同じようにすぐに帰ったので俺はゆっくり帰っている。

一緒になったらきまずいし。

結果だけ見るなら俺の勝利だった。


だけど違う、確かにあのとき俺のストーンショットは当たった。

同時に彼女の剣も当たっていた。

俺は彼女の剣を防御しようとして、カンッと剣同士がぶつかりはしたが、あのとき俺の剣は押し切られていた。


どういう身体能力しているんだよと思うが、実際押し切られていた。

それでも俺の体を守ったのは1つ、鱗だ。

はっきりと意識して出したわけではないが横腹に鱗があった、体が危険だと感じたのかもしれない。


そのせいか彼女の剣は当たった判定にならなかった。

服で隠れていて良かった、危うく学園に入る前に死亡フラグが発動するところだった。


というわけで俺からすればコンマの勝負で互角か鱗がなければ俺の負けなんだけど、彼女からすればどうだろうか。


剣で防がれて、先に石が当たったと思っているのだろうか。

好感度見ても前に見たマイナスのままで変化はしてなかったからどう思っているか分からない。

鱗のことがバレないよう祈るばかり。


鱗を出した居心地の悪さはあるが、ルールに逸脱したわけではないはず。それに新しい課題もできた、鱗を制御しなければならないという課題。


課題多いな。


「頑張ろう」

足を進めながら再度、決意を固めた。


それから数日後、俺は晴れて学園に入学することが決定した。

とりあえず一安心、だけどここから本番でもある。

主人公が入学する一年後、その間にできる限り力をつけてお金も稼いで、気のいい仲間と学園ライフを……願望が出てしまった。


いやしかし、俺の目標はただ生きるだけじゃない。

今度はしっかりと人間関係を築いていきたい。

仲良くしたいと思わないと、友達はできない。


当たり前のことだが、前世は嫌われないことを意識してそんな当たり前もしていなかったように思う。


友達100人とは言わずとも、気の合う友人が欲しい。それも簡単なことではないだろう、そもそもこの学園ではできないかもしれない。


そうだとしても友達付き合いの練習を学園ですると捉えることだってできる。

何事も練習は大事だ。


泊まっていた宿屋に分かれを告げて学園に向かう。

次は寮生活、上手いことやっていこう。

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