第11話 学園見学と睨む少女
宿から出て町を散歩する。
あ、ここゲームの場所かな。ここってどこだっけ。こんな場所知らないな。
まるで旅行のような感想を抱きながら歩く。
見れば見るほど、知らないことのほうが多い。
この世界に来てからはゲームの記憶をそれなりに思い出した気がしたけど、案外大したことは覚えてないのかもしれない。
何を覚えているだろうと考えながら歩いたからだろうか、その足はとある場所に向かっていた。
広大な敷地と、大きな建物、それを囲うようにある壁。
学園だ、ゲームの舞台であり、そして悪役の死地でもある。
見れば門が開いていた。入っていいのだろうか?
前世なら部外者が学校に入ろうもんなら即通報ものだろう。
ニュースになりネットにつぶやかれ憶測が飛び交うだろう。
幸い俺の年齢と見た目なら入っても、子どもが入ってきたんだで済まされてニュースにはならないと思うが。
止めとこう、入学試験直前で変なことしたくない。
そう思い去ろうとする。
「……」
横に俺と同じく学園を見ている女の子がいた。
たぶん俺と年齢は近いと思う。
ということは入学者?
ゲームで見たことあっただろうか。
黒髪で凛々しい表情、だが年相応の幼さもある。
あ、目があった。
「何ですか?」
「ああ、いや」
まずい。ついゲームに出ていたか気になって顔を結構長い時間見てしまった。キモいと思われても仕方ない行動だ。
咄嗟に何か言い訳を……。
「学園に入学しようと思ってて、同じなのかなって気になって」
どうだろうか、そこまで苦しくないはず。
必死の言い訳をしても、目の前の彼女は怪訝な顔でこっちを見ている。
チラッと好感度を見てみる。うん、まだ大丈夫。
「入学しますよ」
彼女は淡々とそう言った。
「そうですか、お互い頑張りましょうね」
「そうですね」
それっきりお互いの口から何か発することはなく、沈黙が場を支配した。
俺も話が上手いほうではないからこっから話を盛り上げる術を知らない。
彼女に一応別れの挨拶をして去ろうとしたとき。
「ん? 君たちここの生徒?」
門の方から女性の声が聞こえてきた、見てみると声の主であろう人がいた。
女性は俺たちのほう近づいてきた。
「まだ生徒ではないです」
「ああ、そうか。なら入学者?」
「はい」
「なら見学していく?」
見学?
「いいんですかね?」
「普通に歩く分には、あと身分を証明できるものか学園の入学許可証でもあれば見せてほしい。先生として不審者は入れたくない」
俺は少し考え「「見学します」」隣の彼女と被った。
荷物を漁って入学許可証を見せ、門を通る。
おおっ、敷地内に入っている。
俺たちは学園内を見て回る。
といっても見る場所は限られていてグラウンドみたいな開けた場所とか外の施設だけだ。
さすがに教室とかは入れない。
だけど広いことは分かる。
ゲームの舞台なだけあるな。
「どうだ最後に魔法でも撃ってみるか?」
「え?」
まるでバッティングセンターに行くようなノリで俺たちは先生に付いていき、とある建物に入っていった。
その建物の中は広く、ものすごく簡単に言うなら体育館みたいな感じだった。
訓練場だろうか。
「こんな場所入っていいんですか?」
俺も気になっていたことを入学予定の彼女が質問する。
「大丈夫、将来の生徒だから」
なるほど、だから大丈夫と。
「あそこの壁に魔法ぶつければいいいから」
指で示した場所はただの壁。本当にいいのか? いやでもいいって言ってるしな。
個人的にも魔法の練習はしたい。
「……よし」
俺は壁からそれなりに距離を取って手を突き出す。
まずは風魔法でいいか。
「暴風の片鱗を行使する
詠唱後、風が壁にぶつかる。威力的にそれほど悪くないと思う。
続けて、土、水、火と基礎的な魔法を撃った。
やっぱり使い慣れた風は撃ちやすい。
土もそこそこ撃ちやすい。
水はまあまあ。
火は練習不足が如実にある。
「小さき土の精よ我が力を贄に大地の恵みを行使する
隣では彼女が魔法を詠唱していた。
俺も頑張らないと。
色々と魔法を撃っていたら、さすがに先生も仕事があったのか途中でお開きとなった。
練習時間としては1時間もなかっただろう。
それでも思いっきり魔法を撃てて良かった。
練習の成果はしっかりとあった。
魔法を撃つまでの時間が短くなったり、制御が上手くなったりしていた。
ただすべて良いわけじゃない。
今まで魔法を撃つという経験が少ないせいか、威力が弱いと先生に言われた。
魔力を暴走させる感覚を身に着けろとアドバイスしてもらったが、さすがにすぐ改善はできなかった。
先生は仕事があるので去り、俺は入学予定の彼女と一緒に門まで歩いている。
そういえば彼女の名前聞いてないな。
顔を見ても何か思い出すことはないから分からない。
聞く必要があるわけではないが、挨拶ぐらいはしたほうがいいだろうかと今更ながら思う。
「何か?」
「いやそういえば名乗ってなかったと思って」
「ああ」
うん、タイミングとしては今だろう。
「俺はリージス・スモールディアです」
なるべく笑顔で挨拶をする。
前世でも俺はそうやって日常を過ごした。
異世界では流されないように生きるつもりだが、常日頃から喧嘩腰でなくてもいい。というか毎日それは疲れる。
彼女は俺の名前を聞いた瞬間、目を鋭くし睨んできた。
そして好感度の横棒がマイナス方面に伸びた。
何で?
「私はスイラ・フリートです」
彼女はそれだけ言って門まで向かっていった。
何が起こった?
俺の名前を聞いた後に好感度が下がり、そして睨まれた。
つまりは敵意だ。
俺が何をしたと? そう思ったがすぐに仮説は立った。
ああでも、リージス《こいつ》だったら何かしているかもと。
意外とすぐ疑問は解消した。いや合っているかは分からないけど。
でもたぶんそうだろう、彼女が貴族の娘なら俺の噂を聞いていてもおかしくない。
「はぁ」
ここでも嫌われるのか俺は。
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