第10話 旅路と新たな町

ガタンガタンと揺られながら外を見ると、後ろ向きに景色が流れる。

草原があって馬が道を歩いている。絵に描いたようなのどかさだ。

だがこの雰囲気に呑まれてはいけない、俺にはすることがある。


手のひらを上にして「大地の片鱗を行使する土玉ソイルボール」と口にする。

手に小ぶりの石が出てきた(最初は土魔法じゃなくて石魔法ではと疑問になったが慣れてきた)。


うん悪くない、だけどこっからが本番。さらに1つ2つと小ぶりの石を追加する、もちろん最初に出した石はそのまま。


「おお」

対面に座るアスレアさんは興味深そうに俺の手のひらを見ている。


「くっ」

こぶし大の石や水を1つだけ出すならそれほど難しくはない大小も調整できる、だけどそれを小さく複数となると1つ1つに意識を向ける必要が出てくる。

集中力と制御が求められる。


「暴風の片鱗を行使する風玉ウィンドボール

さらに風を吹かせて石を浮かせる。

このまま。


「あっ」

ガタンと馬車が揺れた瞬間、手からぼろぼろと石が落ちた。

難しいな。

対面で座っていた護衛がこっちを見てくる。

俺はすぐに落ちた石を隙間にあるものも含め熱心に拾う、気分は砂金を探すかのように。

そして魔法でバラバラにして、席に座って続ける。


旅が始まってから数日、移動と休憩を繰り返していく間、どうせなら何かできないかと思って初めた魔法の練習。


スマホといった便利な時間食い道具はないから、延々と手から石を出し続けそれを風で浮かすということをしていた。

集中力と制御の特訓になるが、さすがに集中力が切れてきた。


「ふぅ」

息を吐くと同時に馬車が止まった。

聞こえてくる声から休憩だと分かり、俺は馬車を降り休憩した。

結局、休憩が終わったら魔法の特訓をしたけど。

やっていることは館と変わらない、ただ場所が変わっただけだな。




昼は休憩と移動を繰り返し、夜は村に着いて物資の補給と宿で就寝。

実に順調な旅だ。何度か馬車の車輪がハマるといったこともあったが、それ以外は特に目立ったトラブルもない。これも御者や護衛がいるおかげだろう。


それに魔法のほうも順調だ。

「よし」

手のひらの上に浮かぶ石の数々。地面に落ちることなく留まっている。

石を風で浮かしている。制御と集中もいい感じ。


「おっ、と」ガタンと大きく揺れた。

それでも手の中の石がこぼれてないのは練習の賜物。

そんな達成感を感じていたら外から大声。


何だ?

休憩じゃないよな、トラブルだろうか。

聞こえてくる声に耳を傾ける。

なるほど、馬車の車輪がハマったらしい。

しかも2台両方の馬車が。


俺は馬車を降りて、日差しに目を細めながらアスレアさんや護衛の人たちと手伝ってハマっている車輪を抜け出させる。


一部の護衛はキョロキョロと辺りを見て忙しそうだ。

周りは草原で開けている。

盗賊が来てもすぐ分かりそうだ。

だとしても、早く抜け出させるに越したことはない、そう思ったとき音が響いた。

殴打音というのだろうか、何かと何かがぶつかった音。


「魔物だ!」

次いで誰かの声。


何だ! 周りを見る。

するといた、何かがいた、地面に。

なんだあれ? 小動物のような何かが草の隙間からこっちを……こっちに向かってきた!?

「いっ」気づいたときには遅く俺はそいつに体当たりを受け、そうになったが護衛の剣が先に魔物を切った。


なんだあれ? リスのようなネズミのようなウサギのような見た目だ。


「中に入れ!」

また誰かの声。

言われた通り中に入ろうとするが。


護衛からすり抜けてきた小動物、いや魔物がこっちに。


「なっ」

鈍い音がした。

眼の前には魔物からかばうように立っていたアスレアさんが、地面に尻もちをついた。


何で。

俺は咄嗟に彼女に近づく。近くにはさっき見た魔物がこっちに向かってきている。


俺は手に魔力を集めて風を生成。

暴風の片鱗を行使する風玉ウィンドボールと心唱。

魔物に向かって撃つ。

だが風に気づいたのか横に避けた。

くっ、体が小さいのか。


それなら。

大地の恵みを行使する土玉ソイルボール

手に石を生成、1つじゃない馬車でやったように複数。

複数の石を手に生成してそのまま撃つ。


石散弾ストーンショット!」

石は拡散しながら放たれ運良く魔物にぶつかった、体がふっとび地面に倒れる。

やったのか?


魔物をよく見てみる、石のような頭、目はギラついていて見える牙は鋭い。

そして体がピクピクと痙攣していた。


ネズミでもウサギでもない、思ったより怖い見た目をしていたがパッと見は四足歩行の小動物だ、なんか罪悪感がある。


いや、異世界でこの考えは危険か、博愛気取っても俺はたぶん貫けない。

いざとなったら殺すだろう、そういう中途半端な人間になることは目に見えている。

俺は魔物に近づいてできるだけ強い威力の魔法を発動して殺した。

「……」


周囲を見ると騒動は収まっていた。いや元より騒動と呼べるほどでもなかったか護衛は冷静だったし。

アスレアさんは大丈夫そうだ。

護衛の人たちも慌てて彼女に近づいている。

俺も彼女の元に向かう。


「大丈夫ですか?」

「大丈夫です」

微笑みながら彼女はそう言った。

見た感じ大丈夫そうだ、どこか痛くてかばっている感じもない。

好感度を見ても異常はない。好感度のどこを見て異常とするかという問題点はあるが。


「ごめんなさい俺がもうちょっと速く中に入っていたら」

「いえ、リージスさんには助けてもらったことがありますので。お互い様です」

助けた? 

……当たりやの男のときか? あれは助けたのか微妙だけどな。


「一度、ちゃんと見てもらってください」

俺が見るより、本職の人に見てもらったほうがいいだろう。

痛いけど我慢しているという可能性もある。


「助けてくれて、ありがとうございます」

「はい」

俺たちは再度、車輪の問題に取り掛かる。

さっきみたく魔物が来ないか心配したが、襲撃者は来ず車輪は本来の機能を取り戻し回転することができた。

馬車に乗って旅は再開した。


座りながらじっと自分の手を見る。

複数の石を撃った、石散弾ストーンショットなんて咄嗟に名付けて。

悪くない魔法だと思う、当たったのはまぐれだけど。


命中率が高い魔法ではない、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、とはなんか違う気もするが、とりあえず一個でも当てれ精神で撃った魔法だ。

ただ命中を意識するなら一個の石を大きくすればいいような気もする。


ともかく、一応実践でも使えた。それが分かれば収穫は十分。

座って揺られながら、より強くなる方法を模索した。




馬車が進む。

今日も魔法の練習をしていた。

どうすればいいか、なんて考えて、だけど集中力が切れて息抜きに外を見た。

いつもと同じような自然、だけど違うものも見えた。


「城壁だ」

城壁、敵からの侵入を阻む壁。

その程度の知識しかない。

あと分かることとして城壁があるならその中は恐らく町があるということ。

この旅でも壁がある町に入ったことがある、物資だったり寝床だったりの目的で。


ただ今回そういう目的であの町には入らない。


馬車が徐々に壁に近づいていく、壁もそうだが何より列にならんでいる人の多さに目を引く。

俺たちが乗っている馬車もしっかりと最後尾に並んで、前に進んでいく。

時折、俺たちの馬車より後に来た馬車が前にいることもある。

横入りしているわけではないと思う、恐らく偉い人専用があるんだろう。


そんなことより、魔法の練習と。

土と風に関しては馬車内で練習した、威力を抑える必要があったから色々な状況での集中と制御が主な練習だった。


石をできる限り小さくしたり、石を風で浮かしたりなどなど。

火と水は外で休憩しているときに練習した。

この2つは威力を抑えても馬車内じゃ使いにくかった、特に火は危険だ。


突飛なことはできてないが、この4つに関して基礎的なことはできるはずだ。

あとは回復魔法と強化魔法を覚えたい。


そんなことを考えていたらいつの間にか検問のところまで来た。

身分やらの確認を済ませたらすんなりと通れた。

これは俺が貴族の弟だからか、アスレアさんたちのおかげか。

そう思いながら町の様子を見る。


「すご」

遠目から見て分かる活気のよさ。ここらへんは外から来た人が多いのだろうか、目を引く物が多い。


もうそろそろだろう、そう思っていると馬車が止まった。

降りて周りを見る。


「おお」

人も多い、それに色々な服装の人もいる。この町の規模は、館があった町と同じかそれ以上のような気がする。


「イージスさん」

「っ、はい」

彼女も同じく馬車から降りている。

やば、キョロキョロしすぎたかも。

初めて会ったときといい、タイミングよくかっこ悪いところ見られるな。


「ここでお別れですね」

「あ、そうですか」

ここでお別れか。

館からここまで、結構長かったんだな。

旅のときは大所帯の旅で、あまり彼女と話す機会はなかったけど、楽しい旅だった。

トラブルもちょっとあったけど大きなことは起こらなかった。


「頑張ってください」

「はい頑張ります」

彼女から教えてもらった瞑想で魔法が使えるようになったと言っても過言じゃない、それ以外にも気づかせてくれたことがある。


「また」

「はい、また」

互いに別れの挨拶をして彼女は去っていった。


あっさりとした別れ。

同じ町にいるしどこかで会うことを考えれば、しんみりとしすぎてもだしな。

よし、頑張ろう。




馬車から降りて、俺は町を見て回っていた。

入り口近いからか活気がある。

並んでいる店も食べる物、服、よく分からない道具やら色々ある。


この場所は前世でゲームとしてやっていた時に見たことがある気がする。

画質は明らかに今のほうが綺麗だ。

まあ、ゲームと現実の画質だと文字通り次元が違うから比べるものでもない。

ゲームの綺麗と、現実の綺麗は言っているニュアンスが違うからな。


しかし本当にゲームの世界にいるんだな。

これが俗に言う聖地巡礼なんだろうか。


そう思いながら、足を進めていく。

何か買ってみたいと思うが残念ながらそんな余裕はない。


賑わいを横目に見ながら進む。目指すは宿、今日の寝床だ。


ゲームとかだったら、どこの宿で寝ても体力や魔力は回復した。

ゲームよっては特典とかが付いているものもある。

この世界のゲームはどうだっただろうか、あんまりそこらへんは覚えていない。


それにもうゲームじゃない。

宿といっても色々ある。

高い宿から安い宿、需要によってその数は変わる。

この町も例外ではなく様々な客層のために宿の種類は多岐に渡る。


そして俺が泊まる宿は、もちろん安い宿。

まず宿の見た目から、築何十年なんだと思うような木造建築。

床はギシギシと鳴り、接客も気怠げな雰囲気を隠そうとしない。

階段を上り部屋に入れば、ベッドと机と椅子が置いてあり、そしてその家具を置くだけの最低限の広さ。

それが俺の泊まる宿。


分かってはいたが、館で暮らしたからか落差がすごい。

ベッドに座っても、やっぱり館のはすごかったのだと実感する。


まあ用意してもらったから文句は言わないけどさ。

それにここに長く住むわけでもない。

学園に入学すれば寮ぐらし、本を置くスペースぐらいはできるだろう。


一応は入学前に実力を測る機会があるが、試験というわけではないから。

落ちることはない。


……落ちないよね?


いやさすがにいけるはずだ。

ゲームの悪役も合格した。そもそも魔法のことを学び成長させるための場所だ貴族でも、そうじゃなくても落ちることはない。義務教育といっていい。


主人公(それとゲームのヒロイン数名)も受かっている。

いやでも、そもそも主人公たちは存在からして例外みたいなもんか。

あんまり参考にならないな。

それに、主人公が入学してくるのは今年じゃなく来年。


「うん」

できるだけ緊張しないよう色々考えるが、緊張してしまう。

だめだな。ずっと室内にいても色々考えるだけだ。

ギシと音が鳴るベッドから立ち上がる。

外に出て気分転換でもしよう。

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