第8話 贈り物Part2

ぐぅぅ。腹が鳴った。

転生前リージスから色々聞いて、魔法や鱗を試していたらかなり時間が経った。


だけど空腹よりも疲れがある。

この感覚、前にもあった。

魔力がない。


たぶん鱗の魔法を使ったからだろう。

あれは魔力を大分と食う魔法というのが分かった。


とりあえず本は隠す。

隠し場所は……ベッドの下か。

こんな場所でいいのかと思うが、今までバレてないだろうことを考えると実績がある。

信頼しようベッドの下を。


外を見ればいつの間にか真っ暗。

結局その日は食事を一切取ることなく一日が過ぎた。




「うぁぁ」朝起きて、ベッドから出るという一連の行為をする。

ぐぅぅ。腹が鳴った。

昨日色々していたら一日が経った。

何も食べてない。


空腹だけど、いつもの筋トレをする。

もう癖になっている。


次は風魔法。

「暴風の片鱗を行使するウィンド

紙やら布やら浮かせそうなものを床に置いて机まで運ぶ。

部屋で何かできないか考えたすえ編み出した練習メニューの1つ。

ゲームっぽくて楽しい。


制御とか威力とかの練習になる。

朝ごはんの時間がきて扉がノックされたら終わり、俺は朝食に向かった。




おかしい。

俺は座っている。

目の前にはパンやスープというお決まりのメニュー。

女性が運んでくれた。

そう女性が運んでくれた。


チラッとその女性を見る。

昔と違いしっかりと顔と好感度を見ることができる。

素晴らしい一歩だ! と喜びたいんだが俺の目線は顔ではなく自然と胸にいっていた。

服の上からでも膨らみが分かる。


おかしい。

なぜ? 急に? 今までこんなことはなかった。

人の顔を見てなかった頃は胸を見ることも当然なく、顔を見ることができた後も胸に視線がいくことはなかった。

まったくなかったとは言わないが、ガッツリ見ることはなかった。


確かにこの体は年頃の体だ性欲も溢れているだろう。

ただ俺の精神年齢的にそこまでがっつくほどじゃ……精神?


精神、魂、混ざっている。

頭に浮かぶのは転生前リージスとの会話。

「俺の魂は、まあ色々あってなくなった」

変わらないと思うが」


「そういうこと?」

そういうことなのか? 魂が混じっているなら可能性としてはある、のか? 

正直そこらへんの仕組みはほとんど分からないが、悪役の性格が一部受け継いてでも不思議ではない。

だって悪役の体と魂があるんだから。

そういえば使用人からエロガキと言われていたな。

つまり今の俺は性欲が膨張している?


ともかく胸から視線をそらす。

女性はそういった視線に気づきやすいなんて聞いたことがある。


「ごちそうさまでした」

さあ、練習だ! 思わぬハプニングもあったが、やることは変わらない。

庭に行こう。



いつもの場所で風魔法。

威力や制御が、魂が混ざったことでどれほど変わったのか確認する。

「暴風の片鱗を行使する風玉ウィンドボール

「おぉ!」

魔法をまじまじと見ながら、アスレアさんは感嘆の声をあげる。

そんな楽しそうな彼女をチラチラと見る俺。


なんというか、世話になったからそういう目で見るのはどうなんだと思わなくもないが、仕方ない部分もある。

だって可愛い。

長くて白い髪を揺らして無邪気に見てくるんだから。


服的にそこまで露出は多くないし体のラインも俺と同い年ぐらいだからはっきり分かるほどではないが、風の影響でスカートが揺れて……俺は何を考えているんだ。


「あっ、まず」

雑念がありすぎたせいで風魔法の制御がまずいことになった。

なんとか抑える。

その一瞬、アスレアさんのスカートがひときわ大きく揺れた。

そして見えた、白い布地と太ももが。


「くっ」

なんとか風魔法の暴走は止まった。


「大丈夫ですか?」

「……うん、大丈夫」

彼女が近寄ってくる。

頭に浮かび上がるのはさっきの光景。


「……よし!」

意味もなく声を張り上げる。

近くに来ていた彼女はなおも心配そうな顔をしているが、練習を再開するといって距離を取る。


今度は大丈夫

煩悩を振りほどきながら魔法の再確認をする。

そして一通りの魔法を確認した。

例外として火魔法は使わなかった、怖いから。

分かったこととして、魔法の威力や制御は上手くなったと感じる。


その後も風魔法で遠くの草を揺らし、土魔法を生成中に形を変えたりした。


毎日やっていることは変わらないが、成長が目に見えるのは良い。

魂云々以外にも体が子供だから成長も早いんだろう。




それから数日、練習の日々だった。

魂が融合したことで色々と変わった。

魔法も上手くなり、危険だけど鱗という特殊な魔法が使え、そして性欲が膨張した。

最後のは余計じゃないかと思うが、どうにもならない。自制しよう。


ともかく強くなった。これは事実だ。

生きる確率が高まったのだ、喜ぼうじゃないか。


永遠にこんな生活が続くんじゃないかと思うほど今の生活に慣れてきた頃。

俺はある日の朝、兄に呼び出された。




「話とは?」

木でできた重厚感ある机には本やら書類が丁寧に置かれている。

奥の椅子に鋭い目つきでこっちを見ている兄。

当主であり領主であり伯爵である、この館の最高権力者の兄。

肩書のせいか迫力を感じる。

年齢的には前世の俺より少し下ぐらいなんだろうけど、俺には出せない雰囲気だ。

人生経験の差は歴然か。


「学園についてだ。入学の時期が決まった」

兄は一方的に話した。

何度か俺が話を止めても構わず話し続けた。

俺に拒否権はないのだろう。

そして俺が、館を出る日が決まった。


兄の部屋から出て一息つく。

ゲームでもこうやって学園に向かったのか。

もしかしたら口喧嘩の1つでもしたのかもしれない。



話の内容は魔法が使える貴族の子と、同じく魔法が使える平民(例として主人公)は基本的に学園に通う。

ということでリージス行けと言われた。


学園は俺にとって死地であるが、ここで反抗する必要はない。

なぜなら主人公が入学してくるのは1年後。

俺が2年生のときに主人公はやってくる。

主人公がいないうちに学園で色々と学び、そして強くなる。

その後に学園から逃げ出すか、残って主人公になるべく関わらず過ごすかは追々考えよう。


もちろん途中で命の危機がきたらなりふり構わない。

俺はもう周りの目を気にしないように生きていくと決めた。


「大丈夫ですか?」

「ん?」

声がした方にはアスレアさんがいた。


「ああ、大丈夫です。ちょっと考え事を」

廊下でずっと突っ立っていたら心配されてしまった。


「学園に通うことになりまして、それについて考えていました」

「そうなんですね。おめでとうございます」

魔法が使える人は通うことができるそうだから、おめでとうもない気がするが。

ここは素直に受け取っておこう。


「いえ。瞑想を教えてくれたおかげで学園に行っても恥はかかなくて済みそうです。ありがとうございます」

「大したことではないです」

はにかんだ表情を浮かべている。

ちらっと好感度を見る。減っていない、上手いこと喋れている。


……なんかあるとどうしても見てしまうな。

今度は好感度をあまり見ない努力をしないといけないかも。


「ああ、そうだ。アスレアさん、旅の間よろしくお願いします」

「へ?」

彼女にして珍しく素っ頓狂な声。


「あれ、聞いていませんか。一緒に町に向かうと」

兄から治癒術師たちと一緒に行けと言われた。

館から体調不良者もいなくなり、しばらく経っても何も起きないからということで治癒術師たちも帰ることになったらしい。


「そうなんですね」

知らなかったらしい。


「改めて。よろしくお願いします」

「はい。よろしくお願いします」

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