第4話 魔法をぶっ放す

俺は翌日、翌々日も練習に励んだ。

そのとき治癒術師の子も様子を見に来ることがあった。


なんでも彼女は教会から来た見習いの治癒術師で、本格的な治療は男の人がやっているらしい。

その間彼女は手伝ったり、休憩のときは色々館内を見たり、俺と会話したり。

なんでも教会から同じぐらいの年の子と仲良くしてとも言われているらしい。


なんというか繋がりを求める大人の世界の匂いがする。

残念なことに俺と繋がったところで益はないだろう。

だからといって彼女を遠ざけることはしない。

この館で同い年(肉体年齢だけど)ぐらいなのは俺ぐらいのものだ。


必然的に俺と彼女が一緒になる時間が定期的にできた。

そのおかげで彼女の名前もアスレアだと判明した。




いつも通り練習、そして休憩。

地面に寝転がる。

芝生の上で青空を見る。なんかいいな。

耳をすませば風の音が聞こえてきそうだ。


「ありがとうございます、瞑想教えてくれて」

青空を見ながらお礼を言う。

瞑想のおかげか最近は魔法の制御も上手くなっている。

「いえ。大したことではないです」

「学園に通って学んだんですか?」

ここでいう学園とはゲームに出てくる学園のことである。

情報収集もしとかないと。


「通ってはないですね、教えてくれる人がいました」

「へぇ」

「リージスさんは通う予定が?」


学園。

俺にとっては死ぬ可能性がある場所でもある。

だけど同時に強くなる知識がある場所、教師もいるし今の環境よりは良い。


「行ったほうがいいですかね?」

「う~ん。通ったことがないのでなんとも」

「ああすいません。変な質問しました」

俺以外の人の意見も聞きたかったんだけど、なんとも曖昧な質問をしてしまった。


「いえ。近くで見たことありますが大きかったですよ。教師も設備も良いと聞いたこともあります。貴族のご子息も通っていると」

「そうなんですか、良く知っていますね」

知っているけど知らないふり。

なんなら見たことも通ってもいた。ゲームの中で主人公として。

記憶曖昧だけど。


「学園に近い教会で見習いとして治療の手伝いをしているので、見る機会も知る機会も多いんです」

なるほど。ということはここに来たのは出張みたいなものか。


しかし、学園か。

一通り学園の話を聞いたら、立ち上がり魔法の特訓を再開する。

学園に行くにしろ行かないにしろ、強くなることは無駄にはならない。

俺は練習を続けた。



瞑想をして、魔法を唱え、剣を振る、毎日ヘトヘトになるまでする。

そんなことを1週間以上は続けた。

そして続ければそれなりの成果は出てきた。

特に魔法は顕著に成果が出ていた。


「小さき水の精よ、水魔の一部を操る我に力を与えよ」

水の玉が手のひらに浮かび上がる。そのまま撃たずに空中で静止させる。

俺はさらに水の玉を小さくしたり大きくしたりした。

水玉ウォーターボール

適度な大きさになった水の玉が放たれる。そのまま真っすぐと思いきや重力に引っ張られるように地面に落ちた。


「これが水玉」

ちょうど来ていた彼女はそれでも興味深そうに水たまりを見ていた。


「う~ん」

制御はできるようになったと思う。

ただ飛ばすことができない。なんでだろうか。



一番遠くまで影響を及ぼす風魔法の詠唱をしてみる。

「小さき風の精よ我が力を贄に暴風の片鱗を行使する、風玉ウィンドボール

5メートル先の草がかなり揺れた。それより先の草も揺れている。

手持ち扇風機からは脱した。だけどこれでも強風程度。

攻撃魔法とは呼べない。


なんでだろうと色々考えた、そしてある1つの結論に至った。

それは、敷地内だからでは? という結論。

俺が最初、魔法を練習するとき風を選んだ理由も他の魔法と比べて危険じゃなさそうだったからという部分もあった。

つまり魔法を飛ばして何か壊すのが怖いという心理が働いて上手く飛ばせないんじゃないかと思っている。


「外に出るか」

今までは、館内でできることを優先した。

これからは外に出て色々と探してみるか。

町の外れとかで思いっきり魔法を撃てる場所もあるかもしれない。


善は急げ。俺はアスレアさんに外に行くことを話して、すぐに出ようと準備をした。

そして玄関まで走った。




俺は外にいる。

後ろには護衛がいる。

外に出ようと思ったら護衛と一緒にと言われた。

俺を守るためなのか、俺が勝手をしないためのお目付け役なのか。

たぶんどっちもだろうな。


多少窮屈な思いをしながらも歩きながら周りを見る。色々な店がある、ご飯とか雑貨とか。

剣とか置いてある店もある、あれは武器屋だろうか。

守衛にお金を渡さなくて自分から買いに行けば良かったかもしれない。


前世じゃまず見かけることがない店の数々。

こうして見ると記憶にない店のほうが多い。

思い出したといっても断片的だ。

元のゲームが3DCGではなかったから当たり前かもしれない。


あの店も知らない店だし……ああ思い出した! 魔法が撃てる店。確かここの道に入って「うっ」いきなり首根っこを掴まれた。

「そちらの道は危険ですので」

「あ、はい」

大人しくさっきまでの道を歩く。


魔法が撃てる店を思い出したけど、ちょっと奥まった場所にあって治安の関係からか行かせてもらえない。

これじゃただの散歩だ。

強行して行くこともできないので、周りの店や地理を見て館に戻った。




散歩をした成果として最初に町の外れで魔法を撃つというのは魔物がいて危険だということが分かった。

大した強さではないらしいがまともに魔法を使えない今は止めときたい。


次に魔法が撃てる店を思い出した、これは魔法を使って的を壊すゲームをすると景品がもらえた店のはず。

だけど行くには暗い道を歩くことになり危険だ。


どっちもどっちだな。



そうだな……店に行ってみるか。

記憶にあるなら行っておきたいし、なんとなく道も覚えている気がする。

上手くいけば外に行くほど危険ではないと思う。

そうと決まればということで色々と準備をした。


それから数日後の昼。ベッドから起き上がる。

よし、外に出よう。

目指すは魔法を思いっきり撃てる場所。




色々と準備をして窓から庭に出る。

館を警備している人はいるが、注意は外に向いているから外出するのは容易。

帰ってくるときは少し大変かもしれないが、俺は館の人間だ。

たとえ帰った時でも敷地内に一歩でも足を踏み入れば中にいる守衛に見つかっても問題ない。

館の周囲に隙間なく警備がいるわけでもないから大丈夫だろう。


行き帰りを考え、周りを見ながらバレないように外に出た。

時間は限られている、すぐに店を見つけないと。


体を隠すように、館で見つけた布を目尻まで深くかぶりながら走る。

なるべく目立たないような服装にしたつもり。

だけど服装とかで見る人から見たら貴族だと分かるかもしれない。だから一応の対策。

貴族の子だとバレたら面倒くさくなりそうだし。




護衛に首根っこを掴まれた場所まで来た。

そこから路地裏に入る。

きょろきょろと辺りを見る。

どこにあったかな? 


こっちだろうか、あっちだろうかと思いながら進む。


奥のほうまできたと思うけど店は……あれか?

木造の建物。

看板を見ると、的あて屋と書かれてある。

店名の周りには、火球が的に向かって飛ぶ絵が描いてあった。何をするのか分かりやすい。

扉を開く。

中は明るく、右側にカウンターがあり人がいた。

話しかけてみよう。


「ここって的あて屋ですか?」

「表の看板見れば分かると思うが」

「すいません」


声が怖く威圧感がある店主だ。顔をまともに見られない。

「これでお願いします」

懐に忍ばせていたお金を渡す。

「1回、基本的な魔法で的壊せよ。あと」


店主から注意事項について説明される。

要約すれば広範囲で高度で威力が高い魔法は撃つなと言われた。

例えば水玉ウォーターボールとかの単発系を使えと言われた。

それも、でかくしすぎるな威力を込めすぎるなと言われた。


一通りの説明を受けて奥にある地面よりちょっと高い台に立つ。

目の前には開けた場所。

「練習だ」

その声と共に開けた場所に的が現れた。


何の魔法にしよう。

やっぱり風魔法かな。

使い慣れているし、あれが一番遠くまで届く。

ちょっと見えづらいけど、目を凝らせば分かるから大丈夫だろう。


「小さき風の精よ我が力を贄に暴風の片鱗を行使する」

手から風の玉が生成される。

大きさはこれぐらいでいいはず。

威力はいまいち分からない、魔力を込める量で決まるんだろうか? 

それなりに込めるよう意識する。


ここに来た目的は1つ、魔法が遠くまで飛ばせるかどうか。

的に当たる風玉をイメージして「風玉ウィンドボール!」叫ぶ。


目を凝らしながら見る。

真っ直ぐ飛び、的にかすって奥にある壁に当たった。


「残念だな。は?」

「よし! よし! 飛んだ!」

思わずガッツポーズ。

予想は正しかった、あの館では壊れると思って撃てなかった。バイアスみたいなものだろう。

「あ、すいません。本番お願いします」


店主は怪訝な顔をしながらも本番が始まった。


的あてが始まり魔法を撃ちまくった。

正直、的あてをやっていたかと言えばしていなかったように思う。

終始、魔法を撃つ練習をしていた。

そもそも、魔法を撃つという行為が初めての俺にとってこの的あては難しい。

だって的ビュンビュン動くし、そもそも威力の調整もまだ不慣れで的を壊せない。


だけどそんなことより、一歩進めたことが嬉しい。


的あては1つも的を壊すことなく終わった。

最後に至っては魔力がなくなりかけて撃つことすらできなかった。

「また来ます」

だが、なぜか気持ちが良かった。

「……どうも」


瞑想に続いて、的あて屋通いが練習に追加された。

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