第3話 少女との出会い

翌日、朝起きてご飯を食べて練習する場所を探した。あまり人がいないところと、魔法使っても大丈夫なところ。

なんてうろうろしていると周りの視線が集まる。


俺は悪役についての記憶を少しずつ知ってきている、思い出してきているといってもいい。

使用人に暴言吐いたり、胸揉んだり、本破いたりした記憶だ。


他にも嫌われるだろうなという行動はしていた。

だけどこの視線は憎悪というよりは、あくまで嫌悪感ぐらいだと思う。

何をやらかすのかわからない視線というのが分かった。

それが分かったところで好意的じゃないから嫌だけど、それでも館にいる間は慣れないといけない。


幸い記憶の影響で人格が変わってきているという感覚はない。

映像を見ている感じだった。

変わったことに気付いてないという可能性もあるが、それは考えても仕方ない。


練習場所は庭になった。そこそこ広い。花とか木があるから気をつけないといけないけど。

とりあえず何度か風魔法を撃とうとするが霧散する。

他の魔法も試してみたが、水魔法は足元に水をまき、土魔法は足元に石ころを量産した。


風はできているから魔力はあるはずだ、ということは制御の問題か?


制御するには……声に強弱をつければいいのか?

息を吸って勢いで言う。

「小さき! 風の精よ! 我が力を贄に! 暴風の片鱗を行使する! 風玉ウィンドボール!!!!」

撃つということは力を込めること、詠唱の節々に勢いをつけてみた。


俺の考えも虚しく霧散。


だめか。技名を叫んだんだけどな。

それから何度か魔法を撃ってみたが、どうにも上手くいかない。

いやちょっとずつ進展はある。

風の威力が大きくなったり小さくなったり、ちょっと前に飛んだりもした。


だけどやっぱり制御不足感がある。

現状は壊れた手持ち扇風機があるだけだ。

どうすればいいだろうか。


進展がない。そう思ったとき、誰かの声が聞こえた。

なんだ?

声の近くまで移動、隠れながら耳を澄ませてみる。


どたばたして何やら準備をしている。

人が来ると聞こえた。

どうやら教会から人が来るらしい。

なんでだろうか?


……ちょっと見に行ってみようかな。練習も大事だけど、情報収集も大事だ。




練習は一旦切り上げ館に入って、周りの話に聞き耳を立てた。


教会から俺と同い年ぐらいの女の子が1人、男の人1人の治癒術師が来るらしい。

理由は館内で気分が悪いと言っている人が数人いるらしく、その治療らしい。


どういう2人だろう?

その2人の来客に会えるだろうかと庭から廊下に移動して歩いてみるがいない。


廊下にはいない、もうどっかの部屋に入ったのだろう。

ゲームの登場人物かどうか、会って確認しておきたかったんだけど。

いや無闇に会うのも危険だろうか。



「あ」

人がいる。だけど目当ての人じゃない。

つい視線をそらしてしまう。

「何をしている」

「来訪者が来たとのことで挨拶をしようかと」

兄に会ってしまった。


「家のことに興味がないと思っていたが」

「はは」

まあ確かに興味はない。

俺は自分が生きることに必死だから。だから返す言葉もない。


「勝手なことをするな」

「はい」


今の会話の通り、俺たちは仲が悪い。

最初に会ったときちらっと好感度を見たらどの使用人よりも低かった。


理由は推測になるが俺というか悪役の言動のせいではないかと思っている。

俺と兄の両親はいない、もう亡くなったらしい。

ゆえにスモールディア家の当主は兄である。

当主である兄は素行不良の弟に頭を悩ましている、ゆえに仲が悪い。たぶん合っているはず。


兄に関してはあまり関わりあいになりたくはない、それはきっとお互いに。




兄と会った後も館内を探し回ったが来客の姿は見つけられなかった。

ということで俺はいつもの庭で練習を再開した。

魔法は上手く行ってないから気分転換も兼ねて剣を振ることにした。

技術というよりも体力づくりという側面が強い練習だ。

体力はあったほうがいい、いざというとき反撃もしくは逃げられるように。


「はっ!」

素振り、袈裟斬りをする。

剣を振るだけで結構疲れる。だけどなんかいい。

前世じゃできないことをやっている気がする。


「はぁはぁ」

数分も続ければ息も絶え絶えになり、剣を杖代わりにして体重を預ける。

「これで、どう敵を倒すのか」


手元にある剣を見ながらふと思う。

敵と口にはしたが具体的に何かというわけではない。

人だったり魔物だったり、命を奪ってくるやつらのことだ。


「ん、こうか」

休憩を終えて剣を片手に持って振ってみる。

さっきと違い目の前に人がいるイメージで振ってみた。

やっていることはシャドーボクシングの剣版だ。


何度か片手で振ったら、次は両手に剣を持って振った。そして次には移動しながら剣を振った。

傍から見ればごっこ遊びだろうが、俺からしたら真剣だ。

なんせ命に関わる。

まあ、まったく楽しんでないわけではないけど。

それでも将来のことを考えると真剣になってしまう。

なんて考えながら剣を振る。


「おっ、いっつ」

体力もない状態で剣を振っていたら盛大に転んでしまった。

「はぁ。あっ」

人が見えた。俺と同い年くらいの女の子。咄嗟に顔を逸らす。


いつからいた!? 普通の練習ならいざしらず、さっきのあれを見られたのか。

いやこっちは真剣だったけど、他所から見たら虚空に剣振り回して盛大に転んだ奴だ。

カッコ悪いとかいう話じゃない。



「……どうし、ました」

ひねり出した答え。

気恥ずかしさから顔を合わせづらい。


「リージスさんの様子を見に来ました。体調はどうでしょうか?」

ああ例の治癒術師。俺もやるのか。

「ああ、大丈夫です」

たまに頭痛はするけど、あれはたぶん違うだろう。

決まってなるときは記憶を思い出しているから、転生者特有の何かだ。


「すみません、邪魔してしまって」

無邪気な言葉、だが不思議と胸にきた。


「いや大丈夫です……どうですか使用人たちの容態は」

話題転換でもあるが、気になっていたことでもある。


「そうですね」

彼女は使用人たちの容態について話してくれた。

大したことにはなっていないらしい。

だが兄も体調が悪いらしく、しばらく様子を見に来ることになると言った。

体調悪かったのか、あんまりしっかりと見てないから分からなかった。


「そうですか、ありがとうございます」

ちょっと休憩できたし、続けるか。


淡々と詠唱をして、剣を振る。

彼女はまだ俺のことを見ていた。

様子見というやつだろうか、別に体調は悪くないんだけどな。

傍から見れば失敗だらけ恥ずかしいし見られたくない。

だけど四の五の言っている時間もない。



あ、そうだいるなら。

「あの、魔法の制御、というか魔法が上手くなるコツとか練習ありますかね?」

聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥ということで聞いてみた。


「上手くなる。攻撃魔法は得意ではないのですが……こういう練習ならありますよ」


そうして教えてもらった練習法は、瞑想だった。

いやこの世界で瞑想と呼ばれているかは定かじゃないが、やっていることは瞑想だ。

座って目をつぶって魔力の流れを1つにまとめる感じで行うらしい。


「やってみます」

剣を置いてあぐらをかいて目を閉じてみる。

魔力を一つ、一つ。


使用人の声が聞こえる俺の悪口だろうかいや集中……剣の練習もどうすれば上手くいや集中……彼女の名前ってなんだろう。


俺は目を開けた。

「どうですか?」

「うん。難しい」

意外と人間って色々考えているんだということが分かった。



それから俺は彼女が去った後も瞑想を行った。

果たしてどれほどの効果があるのか分からないが、やって損はない。

魔力や体力も有限だ、一日中練習はできないから空いた時間にやってみよう。


こうして新たに瞑想が練習に追加された。

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