第2話 強くなるために魔法を覚える

俺は再度館を散策する。だけど今回は人を探すんじゃなくて周りの景色を見る。俺がやっていたゲームなのか確認する。


そして恐らくそうだろうと思う、何度か強くてニューゲームで周回したしここらへんも見たことがある気がする。


といっても何年も前にやったゲーム、グラフィックも3Dじゃない。

だけど記憶はある、ネットで落ちてた無料のパソコンゲーム(違法じゃないよ、最初から無料だった)で、やっていた人も少なかったからか情報もないし進めるのに苦労した記憶だ。


何年も前なのに記憶があるのは、この世界に来たことで何らかの力が働いて思い出されているんだろうか。


ともかく散策はこのくらいにして、できることをしよう。

ゲームの悪役なら死ぬ可能性がある、また死ぬなんてごめんだ。

死ぬ痛みなんてもう味わいたくない。

そのためにも強くならないといけない。

剣と魔法の練習をしないと。


まず剣を手に入れようと思い館の出入り口に向かう。

この先に守衛がいる。

その人に話をしてみよう。




だめだった。

危険だからという理由で剣は貸してくれない。

嫌われているし、俺が何するか分からないからだろう。

守衛の人も怪訝そうな声だったし。


今度は魔法だと思い悪役の記憶を辿って書斎に行ってみたが、これもだめだった。

開けようとしたとき通りがかった使用人に俺が本をめちゃくちゃするから入ったらだめだと言われた。


いったい何をやっていたんだリージスは。


まずいなこれ。

自室に戻って考えるがこれはまずい。剣はまだしも、魔法はいけると思っていた。

試しに魔法を出してみようと思ったが、よくわからないから無理だった。

ゲームなら魔法の欄から選択すれば発動できたんだけどな。

好感度が見られるなら魔法の選択画面も欲しかった。



そうだな……書斎に潜入するしかないか。

問題はどう忍び込むかだけど。

鍵はかかってなかった、室内だから大したセキュリティではない。

ようは見つからずに入って、見つからずに出ればいい。

使用人がどう動くかさえ分かれば大丈夫のはず。


色々と準備しよう。

俺は自室で何か使えそうなものがないか探したりもしてみた。

「おっ、これは」


次の日、部屋で見つけたのを持って守衛の人のところにやってきた。

「ん? どうした」

昨日も聞いた声。

若い人で好感度を確認したら、ゆうほど俺のことを嫌っていない。好いてもないけど。


「どうしても剣は貸してくれませんか?」

「さすがに危険だからね」

「これでも?」

俺は懐からそっとお金を見せる。


「ん~」

悪くない反応。さらに見せる。

「おもちゃでもいいです。だけどなるべく重さは同じもので」

「それも危険ちゃ危険だけど、まあ分かりました」

そう言ったところで俺はお金を隠す。


「それとできれば書斎に入りたいんです。使用人に話して入れてもらえませんか」

懐に隠したままそんなことを言う。

「んー、それは無理かな。俺が言ったところでどうにかなるとは思えない」

「分かりました」


俺は見せたお金の一部を渡す。すべて渡すのは終わってから。

その後、色々と話を詰めて自室に戻った。


「上手くいったのだろうか?」ベッドに大の字になって思案する。

好感度から使用人よりは話ができると思ってこんなことしたけど、どうだっただろうか?

部屋にあるもの勝手に渡したし、成果があると信じたい。


数日後、俺の手元には剣があった。

剣といっても木剣、これが限界らしい。

重さは本物と同じぐらいのほうが訓練になりそうだけど贅沢は言ってられないか。


「はっ! はっ!」

部屋の中で軽く振ってみる。横、縦、袈裟斬り、突き、思いつく限りの振り方をしてみた。

「はぁはぁ」

思ったよりしんどい。使ってこなかった筋肉を使っているそんな感覚だ。

でも訓練になるとは思う。


後は、魔法だ。

使用人の動きは大体理解したから、今日の夜に忍び込む。

と、その前のこの剣隠さないと。どこにしよう。うーん、ベッドの下にしようか。


剣を隠そうと四つん這いになって、ベッドの下に手をいれたら何かとぶつかった。

なんだこれ、本? それを掴んで引き寄せる。

悪役がベッドの下に隠している本、なんか怖いものとか出てこないよね。

結構分厚い本だ。ちょっとおどろどろしい表紙。


パラパラとページをめくってみる。

「うっ」

思わずうめき声をあげる。

読めはするけど文字が多い。

この世界に慣れ始めた俺にはまだ早い気がする。

剣と共にベッドの下に忍ばせる。

またいずれ読む機会があったら読もう。




深夜、自室から抜け出して書斎の扉の前に立つ。周りを見渡して開ける。

この時間、周りに人は来ない。


これで本を探せる、後は魔法関連の書籍があるかどうか。

そっと入って、そっと扉を閉める。


「おおっすごい」

壁には棚があり、そこに本が置かれていた。

こういう光景は図書館ぐらいでしか見たことない。

家にこういうのがあるのはちょっと壮観。


視線を棚にある本の背表紙に向ける。

欲しいのは初心者用の魔法関連の本。

持ってきたランタンをつけて探す。


歴史、地理、法、これは土地関連だろうか? 当たり前だが魔法以外の本もある。

どれだ、どれが魔法の本だ?

……これか?

それっぽい本を見つけた。パラパラとめくって読んでみる。


うん、たぶんこれだ。

火とか土とかそういうのがあるし、何か詠唱しそうな文字もある。

これを持ち帰る。

本が置いてあった場所は色々といじって、持っていったのをバレにくいようにする。

全部の本を調べられたらバレるけど、パッと見るだけでは分からないようにしてと。




ん? これって足音?

まずい、どうしよう。

入っていることがバレたら本取られそうだし、見つかりたくない。

本棚はいじった、どうにかして出たいけど……窓から出るか!

本とランタンを持って静かにダッシュ、窓を開けて庭に出て窓を閉じる。

「ふう」

腰を低くして地面に手を付け、なるべく見えないように四つん這いになる。

「誰かいるのか?」


「っ!」

ほふく前進みたいな姿勢になった。

このまま進んだほうがいいのか、それともじっとしてたほうがいいのか。でもランタンとかあるし音鳴るよな……。

ガチャ、扉の音がした。

行ったか!?

いや油断するな。○○+か!? のとき油断してはいけない。

体ごとゆっくりと窓の方に視線を向ける。

いないな。

このまま行くか。ほふく前進で自室の窓まで進んだ。


「はぁ疲れた」

壁に寄りかかる。ここならすぐに自室まで飛び込めるから、安心して読める。

疲れてはいるがそれより好奇心が勝っている。

なんたって魔法だ。

その手の作品を何度見たか。

近くにランタンを置いて本のページをめくる。


基本の属性である火・土・水・風について書かれていた部分を読んだ。

確かゲームでも主人公が最初に覚えるのはこういうのだった気がする。


「よし、やってみるか」

仁王立ちになり、片手を前に突き出す。

最初の魔法は風魔法。火は危ないし、岩や水は残りそうだしという理由。

風は見えづらいけど証拠は残らないだろう。


「ふう」本に書いてあったのは確か、体に流れる魔力を自覚して、一点に魔力を集め、その魔力を変化させる意識を持ち、発動したい魔法のイメージを膨らませるだった。

その補助として詠唱があるとも。


魔力を感じるか難しいな、血液循環みたいな感じだろうか? 


流れる魔力を意識して、突き出した手に集める。

「小さき風の精よ! 我が力を贄に暴風の片鱗を行使する!」

ちょっと言うのは恥ずかしいが失敗してもいやなので朗々と詠唱する。もちろん周りに聞こえないよう声量は落とした。


体から何かが抜けるような感覚、同時に突き出した手のひらから徐々に風が集まる。周りの草も影響を受けて揺れている。


よく見れば光ってる? よくよく見ないと分からないが風の中がキラキラしている。魔力か何かが光っているのかもしれない。


俺は最後の詠唱を口にする。

風玉ウィンドボール!」

突き出した手のひらから風を感じる。


これが魔法! って思ったのも一瞬。集まった風の玉が霧散した。

「あれ」

おかしい、この魔法は前に飛ぶはず。


まあ最初だし、こんなもんか。


その後も何度か風魔法を試したがどれも成功はしなかった。




「疲れた」

これが魔力切れの感覚だろうか。

耐えきれず地面に倒れる。


疲れた体を大の字にして夜空を見上げると、星たちが光っていた。

綺麗。

前世より綺麗に感じる。


「ふぁ」

寝そう。

だけどここで寝ると本が没収されてしまう。

眠い目をこすってなんとか起き上がり、ランタンと本を手に窓から自室に入る。


あまり上手くできなかったが、最初だしなこれから練習して、なんとか生きよう。

そう意気込みベッドに倒れた。

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