嫌われ嫌いが悪役に~今度こそ流されず積極的に人と向き合ってみようと思います~
草原紡
第1話 悪役転生。案の定嫌われる
目を開けると暗い場所にいた。
どこだろうか、自室? いやにしては知らない天井だ。
仰向けになっている体の上半身だけを起こす。
「うっ」
頭が痛い。寝違えた? いや寝違えなら首とかか。
痛みを感じながらも徐々に目が慣れてきて周りの物が見えてくる。
やたら品が良い、というか豪華な部屋だ。
「ここ、どこ」頭を上下左右に振っても見知っている物は1つもない。
「どうしようか」上半身だけ起こしていた体を倒す、ふわふわのベッドが受け止めてくれる。
誘拐? 攫われるときに頭を殴られたから痛いのか?
いやそんな価値、俺にないだろう。
それに扱いが丁寧すぎる。ひとまずベッドから出てみる。
体を伸ばしながら近くにあった窓から外を見てみる。
うーん、真っ暗。見てもまったく分からない。
もう一度室内を見渡す。
暗いからはっきりとは見えないが、なんか高そうな物しかない。というかどことなく違和感があるというか、なんか俺がいた日本とは違うというか。
完全にイメージでしかないが漂う西洋感というか……!
まさか、そういうことか? 自分の体を触りまくる。髪から顔、体、脚。
やっぱり、なんか幼い気がする。というか身長も縮んでいる。
西洋感と小さい体、つまり「転生したのか?」
突拍子もない結論だけど可能性としてある、と思う。
まあ転生といってもこの体の産まれた頃からの記憶はないから、厳密には違うのかもしれないが。
ともかく調べられるところは調べよう。
それから俺は小さくなった体や、やたら気品が高そうな部屋を詳しく調べてみた。
「うん。異世界という可能性は十分ある」
調べてみても現代的なものが見当たらない。
「後はあの扉か」
さっき調べたときに見つけた扉に近づき、ゆっくりと開けてみる。
鍵はかかってなく、いきなり人が襲ってくる感じもない。ただ部屋と同じくらい真っ暗な廊下が見えた。
扉から少し顔を出して、右見て左見て誰もいないことを確認する。
「ふー」
息を吐き出し一歩踏み出す。
とりあえず情報が欲しい。俺が誰で、ここがどこなのか。
痛む頭を抑えながら廊下を進み左右に視線をやっていたら、人の声が聞こえた。
声がしたほうに目線を向けると人がいた。暗くて見えづらいから近づいてみる。
驚いたような怖がっているような表情と、なんだあれ?
女性の顔の横らへんに、なんか半透明な板が浮いている。
女性はこっちに近づいてきて何か喋っているが、なんて言っているのか分からない。少なくとも日本語ではない。
「ああ、いや」どうしよう何を言えばいいんだ。言葉が通じる感じでもないし。
「うっ!」頭に痛みが走った。頭を抑えて地面にくずおれる。
なんだ? 何か思い出しそうな気が。
近くで様子を見ている女性は驚きや恐怖を通り越して、若干引き気味な表情になっている。
「ふぅ」
息を整える。まだずきずきと痛む頭を抑えてゆっくりと立ち上がる。
遂には怪訝な表情までされてしまった女性に向き直る。
「大丈夫です。あの、部屋に戻ります」
恐らく通じてはないだろうが反射的にそんなことを言って、そのまま来た道を戻り、部屋のベッドに腰掛けた。
恐らく、きっと、たぶんここは異世界で、
そしてあの女性は恐らく俺の名前を言っていた。
「リージスが俺の名前なんだろうか?」
あくまで連呼していたのがそれというだけ。他にも何度か聞いたことない言葉は出てきていた。
もしかしたらこの世界で大丈夫ですかという意味かもしれない。
後で詳しく調べる必要はある。
「あーだめだ頭が混乱してきた。それに痛い」
正直言えば俺は今、夢を見ているのではないかと思っている。突拍子もないし、これからどうするべきか分からないし。
「……寝よう」
色々と気になる点はあるが、とりあえず寝よう。逃避に近い選択かもしれないが、一旦リセットするのは悪い選択とは思えない。
ベッドに横になり目を瞑る。
もちろんすぐに眠れるはずはなく、意識はすぐに前世のことやらこの世界のことについて必死に考えていた。
頭痛いな。
朝になった。頭を上下左右に動かして、ああやっぱり夢じゃなかったなと思う。
「あんまり眠れなかったな」
ずっと記憶を掘り起こしていたせいか、疲れが体に残っている。
だがその甲斐あってか思い出したことがある。
まず前世の死に際。
「まさか車に轢かれて死ぬとは」テンプレ過ぎるというか。
確か、どっかの交差点にいていきなり悲鳴が聞こえて周りの人間がパニックになって逃げて、俺もわけが分からずそれにつられて逃げて、そして迫ってくる車にはねられた。
そんな終わりだった。
その後は、なんか体がふわふわして誰かに会ったような気もするんだけど、思い出せないな。
結局、あの悲鳴とかはなんだったんだろうか。……まあ考えても仕方ないか、今の俺が知ってもたぶんもう意味はない。
それより大事なのは、この体のことだ。
俺はこの部屋にある鏡に近づく。
昨夜は暗すぎて分からなかった輪郭がはっきりと映っている。
この年にして、いずれ悪いことしそうな悪人面だ。
「本当に子供になってる。うっ」
また頭が痛くなった。
それと同時に記憶みたいなのが流れ込んでくる。
学園で自分より弱いだろう人を配下にして、周りに女子生徒を侍らせて、周りからお金を巻き上げている風景が頭に浮かんだ。全部、鏡に映っている男がしていた。
まさか、いやでも。
昨夜、記憶を掘り起こしているときにもう一つ思い出したことがある。
あるゲームのことを思い出した。昔にやったパソコンゲームで実に不自然な思い出しかたをしたから、この世界と関連があるかもしれない。
この男とゲームの関連……俺は、主人公と敵対する悪役に転生したかもしれない。
突拍子もない結論だが的外れでもないと思う。
ということはゲームの世界ということになるのか。
「ゲームの悪役に転生するとは」
ゲームの世界に入るそれだけでも混乱ものだがまさか悪役に転生するとは。
何の仕打ちだろうか。
「はぁ」
ひとまずこの館を探索しよう。考えるのはそっからだ。部屋を出るため扉を開ける。
「おはようございます。リージス様、体調の方は大丈夫でしょうか?」
昨日、廊下で会った女性が立っていた。
「ああ、おはようございます。体調は大丈夫です」
昨夜の件もあるし様子を見に来たのだろうか?
「それは良かったです」
ほっとしたような顔をしている。
ん? というか、言葉が分かるな。
普通に返事もできたし、なんでだ? 一晩経ったからだろうか。
もしかしたら時間が経つごとにこの体が覚えていた知識を思い出していくのかもしれない。
「リージス様、どうかいたしましたか?」
「いや、なんでも」
分からないことはまだ一杯ある。
女性の顔の横にある半透明な板だってそうだ。前見たときはしっかりと見なかったが、なんだろうあれ。
左右対比のグラフみたいな見た目だ。真ん中の軸より左に暗い青色の横棒がある。
本当何だろうか?
「あ、それと。お食事について何ですが、どういたしましょうか?」
食事か、なんて思っていたら。ぐ~と腹が鳴った。空腹の実感はごたごたのせいであまりなかったけど、体は欲しているらしい。
俺は食べたいと素直に言ってそのまま食堂まで付いていった。
気になることはあるが、俺の名前がリージスというのは分かった。
この調子で色々と知っていこうと食堂まで向かう。
なんだろうかこの視線は? 時折、すれ違う使用人? が俺を見てこう何とも言えない視線というか、はっきり言うとあまり好意的とは思えない視線が向けられる。
あの変な板も暗い青色の横棒もあったし。
なんてことを考えていたら食堂に着いた。椅子に座り目の前にあるパンやスープを一口食べる。
うん、普通だと感じてしまう。
比べるのは野暮だと思うが、どうしても無意識に前世と比べてしまう。
いや、やめようせっかく作ってくれたんだありがたくいただこう。
ふと食事中、マナーという言葉が頭をよぎった。作法とかまったく分からなかったから、周りをちらちらと見て合っているかどうか確認しながらの食事だった。
特に何か突っ込まれることもなかったけど、作法を意識しだしてから味はよく分からなくなった。
食事も終わり1人館を歩いて、使用人らしき人たちを見つける。
ちょっと気になることがあるから失礼かもしれないが耳をすませる。
「リージス様起きたんでしたっけ?」
「そうそう」
「はぁ、どうせなら一生体調悪かったらいいのに」
「それはそれで面倒くさいと思うけどね」
やっぱり。悪役に転生という時点で薄々思ってはいたが、俺は嫌われているらしい。
ちらっと顔を出して話をしている人たちの顔のその隣にある板を見てみる。
その板には見慣れた暗い青色の横棒。
これって……確証はないが、恐らく好感度的なものじゃないだろうか。
そしてあの暗い青色は、マイナスの好感度を意味していると思う。
まさかこれでプラスの意味ではないだろう、どんだけ天邪鬼だらけの館なんだという話になる。
「はぁ」
嫌われているのか……。
人に嫌われるのは嫌いだ。
大抵な人も好んで人に嫌われようとはしてないはず。
俺も同じく前世では、なるべく人に嫌われないように人と接してきたつもりだ。
自分を出さず他の人の意見に同意し、なるべく言葉を選んで過ごしてきたつもりだ。
それなのに、いやだからこそと言うべきだろうか、友達と呼べる人はできなかった。学校で多少会話はするが、プライベートで遊ぶような人はいなかった。
曖昧な人間関係だった。
……思い出したら気が滅入るな。
まあ、最初から嫌われているなら、曖昧な態度をとることもないか。
「はぁ」
前世では嫌われたくないばかりに流されて生きてきた。
その生き方を悪いとは思わないが……。
でも前世みたく誰にも好かれなくて、流されてばかりの人生はもう送りたくない。
「勝手に部屋に入るなって言うくせにほっとくと怒るし」
「ガキだな」
「ただのガキならまだ可愛いけど、エロガキだからね」
「ああ」
やめようこれ以上聞きたくない。
いや正確に言うなら俺じゃなくてこの体の元の持ち主である悪役に言われていることだと分かるんだけど、それでも聞き続けるのはいやだ。
ということで、すぐにその場を去って館にいる他の人の好感度を見てみた。
結果として案の定、嫌われていた。
横棒の長さは人によって違うけどマイナスではあった。
「はぁ」
再度ため息。どうやって好感度の表示を消せるんだろうか分からない。
まあ仕方ない、よな。ともかくできることをやろう。
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