第42話 トロルとコング

 三階層まで降りると、ほとんど人の気配がしなくなった。


 わずかに存在する他の探索者とは十分に距離を取れるエリアを選んで僕らの狩場にする。


 少し離れたところに一組だけ別の探索者がいるみたいだけど、これだけ距離が離れていたらかちあうことはないだろう。


 早速最初の獲物を見つけた。


 トロルだ。


 この魔物の特徴を調べたときに思ったことがある。


 僕たちなら楽勝なんじゃないか。


 その理由は壁尻さんのスキル≪チェーンシール≫の存在だ。


 ≪チェーンシール≫は相手のスキルや魔法、アビリティを封じるスキル。


 もしトロルの異常な再生力がスキルやアビリティの効果なのであればこのスキルで封じてしまえる。


 再生力を失ったトロルなんて、ただのトロくてでかい的だ。


「壁尻さん、お願いね」


 ぷりん!


 気付かれないように射程圏におさめてスキルを放つ。


 スキルの鎖が未だこちらに気付いていないトロルに巻き付いて行く。


 行使成功だ。


 あとはこれで再生力を封じれたかなんだけど。


「どっちがいく?」


「僕が行った方がわかりやすそうだ」


 そう言っててっちゃんはロングソードを構えて駆けだしていく。


 トロルの大ぶりなパンチを躱して切りつけた!


 滴り落ちる魔物の黒い血液。


 しばらく様子を見てみたが、一向に傷がふさがる様子がない。


 うまくいったかな?


「しまった。先にシールなしの状態を確認しとけばよかった」


 まあ、多分うまくいってるでしょ。


 みんなで攻撃を加えるとあっけなく倒せてしまった。


「上手くいったね」


「これはいい狩場を見つけたかも?」


「壁尻さんのおかげだね」


 ぷりん!


 壁尻さんはそれはもう見事なドヤ尻で、自信の戦果を誇っていた。




 トロルは楽に倒せることが分かったので、お次はパワーコング。


 空を飛べるピチ子に索敵を任せて誘導してもらう。


 いた。


 こちらに背を向けてる。


 気付かれないようにもうちょっと接近して——。


 パワーコングがこちらを振り向いた!


 僕とパワーコングの目があう。


 あ、意外とつぶらな瞳。


 じゃなくて!


「気付かれたっ!」


 パワーコングがこちらを威嚇するようにドラミングしはじめた!


「てっちゃんはバフ盛ってからタゲ取り! わん太郎も加勢して牽制を! 壁尻さんはバインドから試してみて! ピチ子は前衛にバフを!」


「≪アイアンスキン≫≪フレンジー≫≪ヘヴィウェイト≫! ≪シールドチャージ≫!!」


 バフを盛ったてっちゃんが突っ込んでいった。


 コングは両手をクロスしててっちゃんの盾突撃を食い止める!


 右腕を振り上げて殴り掛かってきた!


 でもわん太郎が既に飛びかかって妨害に動いている。


 コングの足元から鎖が伸びる。


 壁尻さんの≪チェーンバインド≫だ!


 しかし絡みついた鎖は無造作に引きちぎられる。


 耐性もちかな?


「≪ファイアボム≫」


 僕の魔法。


 ケロッとしてるところを見るに、与えたダメージは軽微みたいだね。


 前情報通りかなりタフな魔物だ。


「≪タウント≫!」


 魔法を嫌ったコングのタゲがこちらに移りそうになったときにてっちゃんがスキルでヘイトを稼ぐ。


 頼もしい前衛だ。


 てっちゃんは先週の探索と平日のレベリングでレベルが上昇して、中級ジョブの騎士へと転職している。


 中級ジョブのステータス補正のお陰で安定して立ち回れているみたいだ。


 攻撃をしっかりと盾で受け止めてカウンター。


 大ぶりな攻撃にはわん太郎が牽制を入れて妨害する。


 わん太郎は日光があるせいで影魔法の威力が落ちてるけど、それでも物理攻撃だけでしっかり役割を果たしてくれている。


 上空でピチ子がバフを撒いているのも効果的なのだろう。


 僕らも負けてられないね、壁尻さん。


「デバフは諦めて、攻撃魔法に切り替えよう! 一気に倒すよ!」


 壁尻さんは僕の指示に反応して使用スキルを変更する。


 ≪カオスアロー≫の黒く輝く矢がおしりから放たれる!


 僕も負けていられない。


「いけ! ≪魔力集中・ファイアアロー≫!!」


 コングも頑張って抵抗していたけど、有能な前衛二人に完璧に抑え込まれている。


 そのままやがて、力尽きた。


 戦闘終了。


 ちょっと倒すまでに手間取っちゃったけど、終始安定して戦えてた。


 これなら問題なくこのダンジョンも探索できそうだ。





 トロルやパワーコングとの戦闘を重ねながら、廃墟の街並みを探索していく。


「コングは時間かかるからさ、トロルばかり出てきてくれればいいのに」


「そんなこと言って、トロルばっか出てきたら飽きたっていうんじゃないの?」


「そんなことないよー」


 ぷりぷり。わふわふ。ちゅぴちゅぴ。


 トロルは余裕だし、コングとの戦闘にもなれてきた僕らはすっかり気を弛めている。


 他愛ない雑談を絡めながらの探索行だ。


 崩れた石壁の脇に階段を見つけた。


「こんなところに階段?」


 どうやら階層を移動するためのものじゃなくて、地下室へと続いているらしい。


 好奇心が擽られる。


 こういう所にこそ、すごいお宝が隠されてたりするんじゃないかな。


「入ってみよっか」


 降りてみるとそこは小さな石室。


 あたりは蜘蛛の巣だらけでまさに廃墟って感じだ。


 ぽつんと一つ宝箱が置いてある。


「あれ? 空っぽ?」


 いや、そうじゃなかった。


「宝石だ」


 よくよく見ると箱のサイズに見合わない、小さな石ころが一つ。


 一見ダイヤのようにも見えるけど、光にかざすと角度によって赤や緑に色を変える石。


「アレキサンドライトだ」


 天然だと産出地が限られていて高価な宝石。


 だけどダンジョン産のはそこまで高値がつかないんだよね。


 僕の鑑定スキルによると大体一カラットぐらい。


 あ、宝石といえば——。


「これもらっていい?」


「いいけど、なにかに使うの?」


「ほら、この前行った≪新緑の楽園≫でピクシーに言われたでしょ? 僕の妖精のナイフを完成させるのに宝石が必要だって」


「ああ、それにこれを使おうってこと? いいと思うよ」


 てっちゃんから了承を貰えたので、傷がつかないように布でくるんでからバッグにしまっておいた。


 他になにかないかと地下室を探索してみたけど、何も見つからなかった。


「こんなに意味ありげな地下室なのに何もないってどういうことだよ!」


「まあ、こういうこともあるよ」


 肩透かしもいいとこだ!


 勝手に期待した僕が悪いんだけどさ。


 てっちゃんに宥めながら、ため息を吐いて地下室をあとにする。


 ダメだね。気持ちを切り替えないと。


 この前のゴブリンホールから外れ続きで不満がたまってたみたい。


 ゆっくりと深呼吸して気持ちを切り替える。


 せっかくの冒険なんだから楽しまないと。


 よし。


 気持ちを新たに探索を再開しようとした、その時だった——。





「きゃあああああああああああああああああ」


 ダンジョンの廃墟群に、悲鳴が響き渡った。

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