第40話 君の名は『ピチ子』
翌日の日曜日。
引き続き≪ゴブリンホール≫の攻略だ。
昨日の雪辱を果たすべく、なるべく多く集落を攻略して宝箱を開けていくつもりだ。
そのためにも今日は最初からわん太郎にも戦力として参戦してもらう。
これで戦闘時間が大幅に短縮出来て、探索も捗るだろう。
ゴブリンホールに存在するゴブリンの集落はその規模で三つに分類できる。
規模の小さい順に『集落』『街』『都市』の三つだ。
街にはジェネラルが、都市にはキングがそれぞれ必ず配置されているらしい。
昨日戦ったゴブリンヒーローは単体で強いゴブリンだったけど、ジェネラルやキングは個の強さ以上に周囲のゴブリンを強化できる点が厄介なのだ。
もし街や都市を攻略しようとしたならば、街で数百規模、都市で数千単位のゴブリンがジェネラルやキングのバフを受けて強化された状態で襲ってくる。
僕たちならばわん太郎の頑張り次第では街ぐらいなら攻略できるかもしれないけど、楽観視するのはあまりに危険だ。
昨日のゴブリンヒーロー戦みたいに遭遇戦でもなければ、ジェネラルやキングの相手なんてしたくない。
もちろん、街や都市のような規模が大きいところの方が見つかる宝箱の数も増えるんだけどね。
そういうハイリスクな探索はもっと僕らが強くなってから挑むべきだ。
管理局で買った例の複雑すぎて訳の分からない地図をなんとか読み解きながら、なるべく多くの集落を攻略できるようにルートをとる。
当然、街以上の規模の大きな集落は迂回していく。
集落にたどり着くたびに手早くゴブリンを殲滅して宝箱を開けて回るけど、結果は芳しくなかった。
「ガラクタばっかじゃないか!」
「やっぱりガチャは悪い文化だよ」
そんな愚痴が零れてしまう。
何せ碌なものが見つからないのだ。
格好いいブーツが出たと思ったら足音を大きくする効果付きだったり。
切れ味を鋭くする効果がついているのが木製のこん棒だったり。
挙句の果てには『不燃の効果がついた松明』なんてものまで。
こんなのどう使えって言うんだよ!
ダメダメ過ぎて逆に笑えてきちゃう。
結局、夕方まで探索を続けても大した成果は得られなかった。
お金になりそうなのは精々僕がつけてる『魔力の指輪』のような能力強化系の指輪が数個だけ。
腕力を強化するものがあったので、それだけてっちゃんに渡してあとは売却いきだ。
それ以外は本当にガラクタばかり。
唯一僕が面白いなと思ったのは『美人しか映さない鏡』だ。
覗き込んでみたけど僕もてっちゃんも映りこむことはなかった。
何故か壁尻さんはバッチリ映ってたんだけどね。
やっぱりマーガレットさんが美人だからかな?
「これさ、テレビ局とかに持っていったら面白い事になりそうだよね」
「意地悪なドッキリ企画とか始まりそうだ」
長時間の不毛な探索でストレスが溜まっているせいで、そんな意地悪なことを考えてしまった。
あと一か所だけ、あと一か所だけとズルズルと止め時を見失いながら探索が続く。
草臥れて重い体で代り映えしない洞窟を歩いていると、奥の方から光が差し込んでくる。
外だ。
そこは岸壁に囲まれた小さな屋外エリアだった。
生い茂る木々の向こうに掘っ立て小屋が見える。
小屋の正面には切り株のテーブルがあり、その脇にはゴブリンが一体。
「ギャッギャ! ギャッギャ!」
下品な笑い声を上げながら、何やらテーブルに置かれたものをいじくりまわしているみたいだ。
何してるんだろう。
更に近づいて様子を窺う。
テーブルに置かれていたのは粗末な造りの木製の鳥かごのようだ。
中にはシマエナガみたいな白い小鳥が入れられている。
「ギャッギャ!」
「ぴちゅぴちゅ、ぴちゅっ!」
どうやらゴブリンはあの小鳥を虐めて遊んでいるみたい。
中の小鳥が怯える様子をニタニタと眺めている。
なんて性格の悪いゴブリンなんだ!
「やっちゃっていいよね?」
義憤に駆られた僕の魔法がゴブリンの頭に突き刺さる。
周囲には他に敵もいない。
「ぴちゅぴちゅ! ぴちゅぴちゅ!」
鳥かごの中から小鳥が『出して~』と言わんばかりにアピールしている。
随分人懐っこい魔物だね。
早速鳥かごから出してあげようとする……前に鑑定しとこっか。
小鳥の正体は『バードバード』という魔物だった。
吟遊詩人のバードと鳥のバードでバードバード。
確かジョブのバードと同じように歌でバフやデバフを周囲にばらまく魔物だ。
戦闘能力自体は皆無。
仮に襲われても問題ないね。
というわけで鳥かごを開けて、外に出してあげる。
はい、お待たせしました。
「ぴちゅ!」
片方の翼をびしっと上げて『サンキュー!』とポーズを決める。
剽軽なやつだなぁ。
バードバードは鳥かごから飛び立つと僕らの頭上をくるくると舞う。
ぴょえ~、とお礼のつもりか自慢の歌声を披露してくれた。
バードバードの名に相応しい美声が周囲に響き渡る。
歌声に合わせて光の粒が舞い踊る。
≪癒しの唄≫だ!
それは幻想的な光景だった。
岸壁に囲まれた限られた空を自由に舞う小鳥ときらめく光の粒たち。
歌声は美しく、まるで僕らを祝福してくれているみたいで。
感動的だ。
一曲歌い終えたバードバードは最後に一度くるりと回って、どこかへ飛んでってしまった。
それを見送った僕たちは、バードバードの姿が見えなくなったあとも、しばらく無言で同じ方角を見つめ続けた。
「行っちゃったね」
余韻を楽しみながらぽつりとつぶやく。
「今日はもう帰ろっか」
てっちゃんの意見に大賛成だ。
この感動的な空気のあとに洞窟でゴブリン退治も宝箱漁りもしたくないよ。
壁尻さんもわん太郎も賛成みたい。
ぷりん!
わふわふ。
ぴちゅ!
「——ちょっと待って?」
ぷりん?
わふ?
ぴちゅ?
「何で君がいるのさっ!」
「ぴちゅっ!」
おいっす、と軽い調子で片翼をあげるバードバード。
どうやら飛んでったあと僕らの視界に入らない様に大回りにぐるっと一周して戻って来たらしい。
一体なんなんだよ、さっきの感動的な空気を返せ!
「も、もしかして、仲間になりたいのかな?」
「そうなの?」
「ぴちゅ!」
そうらしい。
「じゃあテイムしちゃうよ?」
「ぴちゅぴちゅ!」
てっちゃんと顔を見合わせて苦笑いを一つ。
なんかアホらしくなって、せがまれるままにテイムしてしまう。
う~ん、優秀なサポート役が仲間に加わったと思えばいい事なのかな。
「名前はどうしよっかな」
メスだよね。
メスだったはず。
さっき鑑定にはそう出ていたはずだ。
「ぴちゅ?」
う~ん、ぴちゅぴちゅ、ぴーぴー、う~ん。
「よし! 君の名前は『ぴち子』だ!」
ぴちゅ!
「また変な名前付けてる……」
ぴち子は気に入ってくれたみたいだけど、てっちゃんはため息を吐いていた。
そんなに変かな?
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