第39話 ゴブリンヒーロー
ゴブリンたちとゴブリンイーターの戦争の幕切れはあっけないものだった。
捨て身で吶喊する二体のファイターをまとめてかみ殺したゴブリンイーター。
しかしゴブリンヒーローはその隙を逃さずに渾身の一撃でイーターの頭を叩き潰してしまった。
「グギャギャー!!」
雄たけびを上げながら剣を掲げるヒーロー。
その身体が光に包まれた。
回復魔法だ。
すっかり傷が癒えてしまったヒーローはこちらを見やりニィィっと嗤った。
あわよくば漁夫の利を、なんて考えて近くで観戦してたのが仇になった。
完全にこちらとやり合うつもりみたい。
「くるみたい。わん太郎はピンチになるまで待機。壁尻さんはシールとバインド狙いで!」
すぐに散開して戦闘態勢を取る。
相手は大迷宮だと十階層よりも先で出てくるような格上だ。
だけど今の奴はイーターとの死闘の後で、取り巻きもいない。
僕らにだって勝機はある!
「≪タウント≫≪アイアンスキン≫≪フレンジー≫!!」
てっちゃんは普段は使わないバフまでかけての大盤振る舞いだ。
相手はどう考えても格上。出し惜しみは不要だよね。
「≪輪唱:ファイアアロー≫≪ファイアアロー≫≪ファイアアロー≫」
先制攻撃。
三度連続で放った魔法は、しかしステップを刻んで躱される。
壁尻さんの≪チェーンバインド≫が襲うも跳びあがって回避した。
そのままてっちゃん目がけて剣を振り下ろす!
——ガキィィィィィン!!
重たい金属音が洞窟に響く。
ヒーローの攻撃を受け止めたタワーシールドがじりじりと押し込まれる。
援護を!
そう思って杖を構えると、ヒーローはすぐに回り込んでてっちゃんの体で遮蔽を作る。
くそ! ゴブリンのくせに頭いいなぁ!
思わず歯噛みして悪態をつく。
壁尻さんもどうにか射線を通そうと動き回っているけど決定的なチャンスが掴めない。
こちらが手をこまねいているうちに状況が動いた。
てっちゃんが盾でヒーローの攻撃を受け流す。
体勢が崩れた! チャンスだ!
そう思った次の瞬間、てっちゃんの体が吹き飛ばされた。
蹴りだ。
体勢が崩れたように見えたヒーローのそれはフェイクで、てっちゃんのお腹を蹴り飛ばしたのだ。
ヒーローはそのままてっちゃんに向けて走り込んで追撃を掛けようとする。
「まずい! ≪ファイアアロー≫!」
僕の魔法で牽制すれば、バックステップで躱してこちらを睨みつける。
ヒーローはてっちゃんの追撃を諦めてこちらにターゲットを切り替えたようだ。
身を低くして走り込んできた。
「≪ファイアウォール≫≪短距離転移≫≪ファイアボム≫!!」
炎の壁で目くらまし。転移で後ろに下がって必中のタイミングで魔法を放つ。
しかしヒーローは炎の壁を突っ切って、そのまま剣で振り払って魔法を切り裂いた!
そんなのありかよ!?
壁尻さんが≪カオスボール≫で必死に牽制するけどお構いなしだ。
そのまま僕目がけて突っ込んでくる。
転移は今使ったばかりでクールタイム中だ。
僕の運動神経じゃ避けられそうにない。
マズい! わん太郎に助けを——。
「≪シールドチャージ≫!!」
てっちゃんだ!
横合いからてっちゃんが突っ込んできた!
盾を構えての突撃。
≪フレンジー≫の効果で攻撃を受けた回数分上がった膂力がヒーローの体を吹き飛ばした!
壁に激突するヒーロー。
チャンスだ!
「壁尻さん!」
即座に放たれる≪チェーンバインド≫。
いくら格上でも捕まえてしまえばこちらのものだ!
「一斉攻撃! ≪魔力集中・ファイアボム≫!!」
僕と壁尻さんの魔法が爆発する。
てっちゃんは剣と盾を手放してマジックバッグからモーニングスターを取り出した。
「≪クリティカルスマイト≫!」
とげ付きの両手鈍器がヒーローの頭目がけて振り落とされる。
急所へのダメージを跳ね上げる重たい一撃がゴブリンの命を叩き潰した。
戦闘終了だ。
「つ、つかれた」
へたり込む僕。
わん太郎が影から出てきて顔を舐めてくる。
どうやらいつでも介入できるように影に潜って待機してくれてたみたい。
随分心配かけちゃったね。
「お疲れ様。なんとか勝てたね」
「てっちゃんは大活躍だったね。すごく恰好よかったよ」
「格上狩り成功だね。はいこれドロップアイテム」
渡されたのは丸いバッジ。
何だろうこれ?
『ヒーローバッジ。ランク一。ゴブリン族の英雄の証。つけるとゴブリンから尊敬される』
いらないなぁ。
てっちゃんに鑑定結果を伝える。
首を振られた。
やっぱいらないよねぇ。
「壁尻さん、着けてみる?」
ぷりりん! ぷりん!
めっちゃ怒られた。
わん太郎以外の三人がヒーローとの戦闘で疲れ果てていたので、その後の探索はわん太郎任せになった。
困ったときのわん太郎先生。
ゴブリン相手に無双してくれた。
おかげで小さな集落を変えるまでに三つほど攻略できた。
ただし、得られたアイテムはガラクタばかり。
例えばこんなの。
『砂糖磁石。ランク一。金属の代わりに砂糖を引き付ける磁石』
『ヌトの剣。ランク一。常に柄が油にまみれてぬめりを帯びている』
『無風鈴。ランク一。無風状態になると大きな音が鳴り続ける風鈴』
何に使えるのかわからないものばっかだ。
剣と風鈴は捨ててきた。
だって、ねえ。
剣はなんかばっちい感じがして、シンプルに不快だし。
風鈴はとにかくうるさかった。
結局お金になりそうなものは魔鋼のインゴットが十五キロほど手に入ったくらいだ。
世知辛いねぇ。
マジックアイテムで一攫千金の夢は明日に託して今日のところは引き上げよう。
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