第37話 バズったピクシー梨とゴブリンホール
翌週の週末は紫さんにおススメされた別の固有ダンジョンに挑むことにした。
≪新緑の楽園≫をもっと探索したいなって思ったんだけど、長期休暇の時にでもまとめてじっくり探索しようというのが僕らの出した結論だ。
そうそう、≪新緑の楽園≫で採取したお土産は火曜日に大迷宮に行ったときに紫さんに渡しておいた。
大変に喜んでもらえた。
なんでもダンジョン産の果物などの一部の産出品はその業種の生産者を保護するために買い取り数自体を制限されてるんだそうだ。
そのせいでほとんど市場に出回らず、食べたければ自分で採取するか持って帰って来た探索者のおすそ分けに期待するしかないらしい。
最初から果物を売る気が無かったから買い取り数の制限なんて言われるまで知らなかったよ。
そういうわけで紫さんはとても喜んでくれたのだけど、ピクシー梨を見た途端に固まってしまった。
管理局のデータベースに存在しないものだったらしい。
僕らは詳しく採取した場所を聴取されて、すぐに確認のためにプロの探索者が複数名≪新緑の楽園≫へと派遣された。
しかしながら僕らが訪れたあの丘にたどり着けたのは一部の人だけだ。
辿り着けた人たちの共通点は『過去に妖精から友好の証を受け取っていること』。
それ以外の人間は気付いたときには全然見当違いの方向に歩き続けていたらしい。
どうやらあの一帯は迷いの森になっているようだ。
この事実が判明したために僕らが持ち帰ったあの奇妙な果実は全国ネットのニュースで取り上げられるほどの話題になっていた。
一部の限られた探索者にしか採取出来ないというのもあって稀少価値が天井知らずなのだそうだ。
条件を満たした探索者たちは目の色を変えて≪新緑の楽園≫に通い詰めているらしい。
ニュースでは第一発見者である僕らのことも取り上げられていた。
実名や顔までは報道されていないけど『高校生探索者の大発見』というのは結構な話題性があるみたい。
僕らにも取材の申し込みがあったけど、未成年であることとアマチュアライセンスであることを理由に管理局から断りを入れて貰った。
また、既にマップも出揃い踏破されきっていると思われたダンジョンでの新発見に、探索者界隈はお祭り騒ぎになっていた。
どこのダンジョンに潜る探索者も次は自分が新発見を、と色めき立っている。
僕らが管理局から情報提供の謝礼金として結構な金額の『金一封』をもらったことも大きいのだろう。
ちなみに、僕らがお土産に持って帰った分を食べた紫さんの感想はと言うと、だ。
「次はいつ≪新緑の楽園≫に潜るの? 次もまたお土産よろしくね。いえ、ピクシーを紹介してもらって自分で採りに行った方がいいかしら……」
とのことだ。
アルコールのせいで僕ら未成年は食べられないけど、大人には相当魅力的なものらしい。
そんな感じで世間は騒がしいけど、僕らは気にせずに新しいダンジョンだ。
土曜日。
向かった先は≪ゴブリンホール≫。
洞窟型で≪新緑の楽園≫と同じく一層のみの単層型ダンジョンだ。
上へ下へと洞窟は立体的に複雑に入り組んでいる。
おまけにだだっ広い地下空間があったり岸壁に囲まれた屋外エリアまで存在する。
そのせいで管理局で購入したマップが複雑すぎてちょっとよくわからない。
もはや自分でマッピングした方が早いんじゃないかなってレベルだ。
出てくる魔物は多種多様なゴブリンとゴブリンの天敵ゴブリンイーター。
通常ダンジョン内の魔物同士は敵対することはないのだけれど、この二種は例外的に敵対している。
ゴブリンイーターの出現エリアは限られているけど、出現するエリアではしょっちゅうゴブリンとドンパチやっているのでわかりやすいらしい。
あと特徴としては宝箱が多くてマジックアイテムがよく見つかるらしい。
大抵がガラクタだけど、時々有用な効果を持つ稀少なマジックアイテムが見つかるんだとか。
そういうアイテムでの一攫千金を狙う夢追い人がこのダンジョンに好んで潜るってわけだ。
というわけで、そんな≪ゴブリンホール≫に突撃だー!
ゲートを抜けた先は≪新緑の楽園≫と同じく神殿みたいな建物。
周囲は土壁と天井で囲まれている。
どうやら洞窟内の地下空間のようだ。
地下空間と神殿の組み合わせってなんか古代文明の遺産っぽくて格好いい。
そんな感想が口から漏れていたみたい。
隣でてっちゃんが力強く頷いていた。
洞窟の通路は結構広くて七、八人が余裕をもって横に並べるくらいの幅がある。
天井も高く、五、六メートルはあるんじゃないかな?
地面や壁、天井からは光源となるクリスタル型の鉱物が突き出ていてあたりを照らしている。
残念ながらこのクリスタルはダンジョンの一部なので採取は出来ないようだ。
クリスタルがあたりを照らしてもなお薄暗いこのダンジョンの環境では≪影魔法≫が使えるわん太郎が無双できてしまう環境だけれど、それじゃあ僕らが面白くないので危険になるまでは手出しを控えて貰ってその分索敵で活躍してもらう。
わん太郎が退屈しちゃうかな、と心配したけど本人はゴブリンみたいな雑魚の相手なんて面倒だと思っていたらしく、割と嬉しそう。
このダンジョンにはゴブリンの集落や建造物の付近以外には罠も存在しないらしいので、気軽な調子でずんずんと進んでいく。
最初の分岐だ。
「どっちにする?」
「も、目的地も決めてないからフィーリングで」
ふむ。
壁尻さんを見る。
なんか左に行きたそうにしてる。
じゃあ左で。
いい加減に進路を決めてそのままずんずん進んでいく。
わふ。
わん太郎が小さく鳴いた。
敵が近いみたい。
少し歩くと通路の端で座り込んでいるゴブリンの姿が見えた。
向こうもこちらに気付いたらしく慌てて立ち上がって武器を手に取っている。
戦闘開始だ。
敵のゴブリンは四体。
ファイターが二、アーチャーが一、メイジが一だ。
「てっちゃんはファイター二体をお願い。壁尻さんはメイジにシールを。僕がアーチャーからやる!」
いつも通りてっちゃんが≪タウント≫。
壁尻さんは≪チェーンシール≫でメイジの魔法を封じる。
僕はアーチャーを狙う。
選択した魔法は≪ファイアボム≫。
範囲攻撃であわよくばメイジまで巻き込みたい。
「≪魔力集中・ファイアボム≫」
ラッキー。
うまい事メイジも巻き込めた。
魔力集中で威力を底上げしたおかげで二体まとめて撃破。
「≪ワイドスラッシュ≫」
てっちゃんの方もスキルで二体まとめて攻撃したみたい。
これにて戦闘終了。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます