第35話 二日目は生垣迷路

 日曜日。


 昨日に引き続いて≪新緑の楽園≫の探索。


 昨日は南の大樹を目指してまっすぐに進んだので、今日はちょっと進路をずらして南西方面を探索することに。


 入口の神殿から、しっかりと方角を確認していざ出発。




 道中は大したトラブルもなく順調に進んだ。


 昨日もそうだったけど、あまり魔物との戦闘が発生しない。


 魔物の強さを考えてもこのダンジョンは大迷宮よりずっと難易度は低いみたいだ。


 なんて言って油断してたら大けがしちゃうからしっかり警戒はするんだけどね。




 合間に昼休憩を挟みながらいくつもの目印となるポイントを経由して、僕らは一風変わったものに出くわした。


「これってさ、アレだよね。ヨーロッパとかの庭園によくある——」


「い、生垣迷路だ」


 そう、生垣で出来た迷路があったのだ。


 昨日の葡萄棚でも思ったけど、なんでこんなところにあるんだろう。


 ダンジョンの製作者は何を思ってこれをここに配置したのか。


 もし製作者がいるなら是非とも聞いてみたい、


 それはそうと、だ。


「お宝あるかな?」


 こんなところにある迷路だよ?


 期待しちゃうよね。


「ど、どうだろ。反対側に出口があるだけかもよ?」


 む、たしかにそうかもしれない。


 むむむ。


「一回外周をぐるっと回ってみようか」


 というわけで、迷路の外枠になってる壁沿いにぐるっと一周してみた。


 一周してみた感じこの迷路はかなり大きいみたい。


 多分僕らの通う高校よりも大きいんじゃないかな。


 他に出入口は見つからなかった。


 ということは、だ。


 最奥にはお宝が配置されてるって期待しちゃってもいいんじゃないかな?


「よし! 突撃ー!!」


 僕らは期待に胸を膨らませて迷路に突入した。





 勇んで迷路に飛び込んだはいいものの、そこは迷路だけあってなかなか思うようには進めない。


「あ。また行き止まりだ」


 行き止まりに出くわして、分岐まで引き返してはまた進む。


 何度も繰り返しているとさすがにストレスもたまる。


「んがー! 正解の道はどっちだ!」


 わふわふ。


 一番根気の無いわん太郎が面倒くさそうに何か言ってる。


「え、影潜りでゴールまで行ってお宝があるか見てこようかって? だ、ダメだよ! ズルはダメ!」


 折角の探索なんだから自力で踏破しないと!


 ぜ、絶対にズルはダメだよ!


 わん太郎の提案を却下して先に進む。


 行き止まりに突き当たっては引き返して。


 進んでは戻り、戻っては進みを繰り返す。


 何度も。何度も。何度も。何度も。


「ねえ、わん太郎」


 わふん?


「僕ってさ、転移で生垣の上に登れる気がするんだよね」


 わふわふ。


「ズルしちゃってもいいよね?」


 わふん。





 途中悪魔的な誘惑にかられたけど、結局自分の足で歩き続けた。


 やがて——。


「うわ、広場だ! ここがゴールかな?」


「孝ちゃん見て、あそこ! 宝箱だ!」


 迷路を抜けて開けた広場にたどり着いた。


 脇にはお洒落なガゼポや花壇が並び、奥には噴水が設置されている。


 そして、広場の中央には剣を掲げる兵士の石像。


 その足元に宝箱が置いてあった。


「罠はない?」


「うん、開けてみよう」


 すぐさま宝箱に手を掛ける。


 中からはなんと、魔物が飛び出してきた!


 しまった! いたずらフォックスだ!


 飛び出してきたのはいたずらフォックス。


 二等身のデフォルメされたキツネのキャラクターみたいな見た目の魔物だ。


 驚き固まる僕たち。


 そんな僕らを尻目にいたずらフォックスは体と同じぐらいのサイズの大きな尻尾を振り回す!


 突如、僕らの足元から火柱が発生した!


「あつい!」


 服にまで燃え移った!


 火柱から逃れて、必死に地面を転がって服についた火をもみ消そうとする。


「あつっ! あっつ! あっつ——くない?」


 はっ! そうだった!


 いたずらフォックスは幻覚を操る魔物だ。


 やられた!


 すぐに起き上がってあたりを見渡す。


 いたずらフォックスは——いた!


 すでに僕らのはるか遠く、広場の入り口まで逃げてしまっていた。


 広場から迷路に逃げ込む直前、いたずらフォックスはこちらを振り返りニシシと意地悪く笑ったのが見えた。


「ムキ~!! はらたつ~!!」


 いたすらフォックスにいい様にあしらわれてしまった。


「クスクス」


 てっちゃんもちょっと悔しそう。


「フフフ」


 壁尻さんもお尻をぷるんぷるんして怒ってる。


「アハハハハ」


 わん太郎はちょっとへこんでるかな?


「キャハハ、キャハハ」


 ところでさ。


 さっきから笑ってるのは一体誰かな?


「ばあっ!!」


「うわあっ!!」


 突然何かが僕の顔の前に現れた!


 びっくりして尻もちをついちゃった。


 うう、お尻が痛いよ。


「アハハハハハハ」


 たくさんの笑い声があたりに響く。


 なんだかすごくバカにされてるみたい。


「クスクス」


「おもしろーい」


「へんなのー」


「きゃらめるをくれー」


 もう! 一体何なんだよ!


「もしかして、ピクシー?」


 色々考えた中で一番ありそうなものを口にしてみる。


 たしか紫さんがここを紹介するときに『運が良ければピクシーに出会える』って言ってたから。


 今の状況を運がいいと言えるのかは微妙だけど。


「せいかーい」


 よかった。あってたみたい。


「ウフフフフ」


「ゆうしゃかな? ゆうしゃかも?」


 勇者じゃないです。高校生です。


「まおうをたおせー」


 倒しません。


「きゃらめるだ! きゃらめるをくれ!」


 ちょっと今は持ってないかな。


「きのこたべてるー?」


 食べてません。


 いつの間にか僕たちはピクシーの群れに取り囲まれていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る